最近の研究成果
DNA1分子のダイナミクス制御に成功
所長特任研究室(最先端研究開発支援プロジェクト・川合研究室)
バイオナノテクノロジー研究分野(谷口研究室)
2012年5月
川合最先端研究開発支援プロジェクトの川合知二特任教授とバイオナノテクノロジー研究分野の谷口正輝教授の共同研究グループは、DNA1分子のダイナミクス制御技術の開発に成功しました。
安心・安全・健康社会を支える個別化医療を実現するためには、ヒトゲノムを超高速・超低コストで解読する新しいDNAシークエンサーの開発が強く望まれています。現在までに、電気的にDNA1分子の塩基配列を決定する新しい解読法が開発され、1分子DNAシークエンサー開発は応用化・実用化に向けて新しい局面に突入しています。特に、応用化・実用化で要求される高速化・ハイスループット化・高い解読精度を実現するコア技術は、1分子のダイナミクス制御であると考えられています。この新技術の開発を目指し、世界中の大学・企業の激しい開発競争が繰り広げられています。
共同研究グループが開発した1分子ダイナミクスの制御技術は、ナノメートルスケールの幅と高さを持つ流路(ナノ流路)を流れるDNA1分子の速度をゲート電圧で制御する方法です。マイナスに帯電したDNAは、ナノ流路の中を電気泳動により流れます。しかし、電気泳動のみでDNA1分子の流れる速度を制御するのは非常に困難です。そこで、ナノ流路の中にゲート電極を備えたナノデバイスを開発し、ゲート電圧によるDNA1分子の速度変化を調べました。その結果、ゲート電圧により、DNA1分子の速度を約3桁のオーダーで制御できることを明らかにしました。
開発したダイナミクス制御ナノデバイスは、電気的にDNA1分子の塩基配列を決定するナノデバイスとシームレスに1つのデバイス上に集積されるため、新しいDNAシークエンサーの応用化・実用化を飛躍的に推し進めるものと期待されます。
研究成果は、2012年5月3日(英国時間、日本時間:5月3日)にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されました。

DNA1分子のダイナミクス制御デバイスの走査電子顕微鏡像と原理図.

フリースタンディング構造体を用いた電子相メモリ、1/100の省電力駆動化に成功!
2012年4月
大阪大学産業科学研究所の田中秀和教授、神吉輝夫助教らは、イタリアジェノバ大学Daniel Marré博士、Luca Pellegrino博士らとの共同研究で、機能性酸化物フリースタンディング構造体による強相関電子相メモリの低電力駆動化に成功しました。強相関電子系酸化物は、電流・電圧で、直接電子相の“固体(絶縁体)”“液体(金属)”状態を制御するため超高速・超低消費電力スイッチング・メモリ素子の有力な材料として精力的に研究されています。本研究では、室温で巨大On/Off比効果が期待できる二酸化バナジウム(VO2)を用いて、フリースタンディング構造体を作製し、従来のVO2薄膜素子に比べて1/100の電力で書き込みができる多値メモリ効果を実証しました。
本研究成果は、平成24年4月23日にWiley出版社の科学雑誌「Advanced Materials」のオンライン版で公開されました。

半導体-金属界面で巨大なラシュバ効果を発見
-次世代の省エネルギーデバイス開発に向けて大きな進展-
2012年4月
大阪大学産業科学研究所の小口多美夫教授と東北大学大学院理学研究科の高山あかり大学院生と東北大学原子分子材料科学高等研究機構の高橋隆教授らの研究グループは、次世代のスピントロニクスデバイスの動作メカニズムとして注目されている「ラシュバ効果」が、半導体と金属の界面(接合面)で起きていることを突き止めました。観測は、世界最高の分解能を持つ超高分解能スピン分解光電子分光装置を用い、ビスマス薄膜の電子スピン状態を詳しく調べることで行われました。今回の発見は、半導体電子デバイスと同様に、物質の接合面を利用した次世代のスピントロニクスデバイスの開発に大きく道を開くものです。
本研究成果は、4月11日付けの米国化学会誌 Nano Lettersに掲載されました。

図1 ラシュバ公開の模式図
「透明な紙」がさらに進化
2012年3月
産業科学研究所 能木雅也准教授らは、幅15nmのセルロースナノファイバーを使って「透明な紙」を製造する技術を改良し、透明性などの特性を大幅に向上しました。 これまでの紙は、マイクロサイズの太いセルロース繊維を使っているため、繊維同士の隙間で光の乱反射が生じて「白く」見えました。一方、幅15nmという非常に微細な繊維を使って繊維同士の隙間を小さくすると、乱反射がなくなって紙は透明になります。この原理は、能木雅也准教授らが2009年Advanced Materialsに発表していましたが、成膜後に表面平滑化など煩雑なプロセスが必要であり、実用化に大きなハードルがありました。 今回の成果では、成膜プロセスの改良を行って、成膜しただけで透明な紙が簡単にできるようになりました(図1)。製造プロセスを大幅に簡略化したにも関わらず、透明性は10倍以上向上しました(ヘイズ値3%以下)。さらに、もう一つの特徴である低熱膨張性も向上し、5ppm/Kとガラス並みの値を示します。 この研究結果は、折り畳み可能な電子ペーパーや太陽電池など次世代電子デバイスにおいて重要な材料となります。さらに、本材料は樹木というカーボンニュートラルな材料だけを使用しているため、低環境負荷な社会の実現への貢献が期待されます。 本研究成果は、Printable Electronics 2012(2012年2月15-17日、東京ビックサイト)発表しました。また、産経新聞(2月7日 朝刊1面)、よみうりテレビ(2月10日 かんさい情報ネットten!)、CBCラジオ(多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N)にて紹介されました。

図1 幅15nmのセルロースナノファイバーを用いた透明な紙
竹谷純一教授がNanotech 2012 Award (プロジェクト部門)を受賞
2012年2月
竹谷純一教授(先進電子デバイス研究分野)が研究代表者のNEDO のプロジェクト「革新的な高性能有機トランジスタを用いた薄型ディスプレイ用マトリックスの開発」に対して、Nanotech 2012 Award( プロジェクト部門)を受賞しました。
同賞は、nano tech2012(国際総ナノテクノロジー総合展・技術会議)出展者を対象に斬新かつ先駆的な技術を分野ごとで顕彰し、優秀出展者を表彰するものです。 表彰式はnano tech2012 開催期間中の平成24 年2月17日に東京ビックサイトで行われました。

図1

図2
触媒活性中の担持金属ナノ粒子の表面と相互作用する気体分子の可視化に成功
―米科学誌「サイエンス」に掲載―
2012年1月
産業科学研究所の竹田研究室は、FEI Company(米国)、産業技術総合研究所関西センター(大阪府池田市)、首都大学東京(東京都)の研究グループと協力して、気体の化学反応を促進する触媒として働いている直径数ナノメーターの微小な金属ナノ粒子の表面を透過電子顕微鏡で直接観察することに成功しました。 この観察には、気体中の試料を原子スケールで観察できるレンズ収差の補正された最新の環境制御・透過電子顕微鏡が利用されました。これまで透過電子顕微鏡で観察できていたのは触媒を構成する原子のみでしたが、表面に吸着した気体分子の観察が可能であることが示され、今後、触媒のメカニズムを解明するための実験的な精度が格段に向上することになるでしょう。収差補正された環境制御・透過電子顕微鏡法は、さまざまな触媒の機能の向上や新触媒の開発のためにも応用できるのでは、と期待しています。
観察した触媒は金ナノ粒子触媒です。最も酸化しにくい金属のはずの金ですが、この金をナノ粒子として酸化物(セリア;CeO2)の上に担持させると、室温以下でも一酸化炭素を酸化させる活性の高い触媒となります。本研究では、金ナノ粒子触媒の発見者として著名な首都大学東京・春田正毅教授の研究室で特別に調製された金ナノ粒子触媒を試料としました。観察の結果、気体分子(一酸化炭素)は、金ナノ粒子の表面と相互作用して原子配列を組み替えさせることで吸着することが明らかになりました。予期されていなかった現象です。第一原理計算による解析から、一酸化炭素の吸着の安定性が確認されました。以上の成果は、触媒の構造の中で、気体分子が反応して別の気体分子になる位置(活性サイト)を特定できる方法を開拓した、と考えられます。
本研究成果は、文部科学省・科学研究費補助金・特別推進研究 19001005により得られたもので、平成24年1月20日に米科学誌「サイエンス」で発表されました。

図1

図2
1原子接合で非対称な発熱現象を発見
バイオナノテクノロジー研究分野 谷口研究室/最先端研究開発支援プロジェクト川合研究室
2012年1月
大阪大学産業科学研究所の谷口研究室と最先端研究開発支援プロジェクトの川合特任教授の共同研究グループは、1原子接合で非対称な発熱現象を発見しました。
電極に接続された1原子(1原子接合)や1分子(1分子接合)は、先進バイオナノデバイスや超集積デバイスへの応用が期待されています。これらのナノデバイスを流れる電流密度は非常に大きいため、大きな発熱(局所加熱)が予測されます。このような局所加熱はデバイスの破損や誤作動の原因となるため、ナノデバイスにおける熱の流れの解明は、ナノデバイスを応用する上で鍵となります。ところが、これまで1原子接合における電熱発生機構は実験的に未知のままでした。
研究グループは、ナノヒーター、ナノ温度計、および金の1原子接合が集積したナノ構造を、ナノテクノロジーを駆使して作製しました(図1)。この集積ナノ構造は、外部の熱と遮断された特殊なナノ構造を持っています。この1原子接合に一定方向の電圧を加えてナノ温度計で接合付近の温度上昇を計測すると、正の電圧を加えたときの温度上昇と、負の電圧を加えたときの温度上昇が異なる非対称な発熱現象が観察されました。この非対称は、1原子接合を準弾導的に伝導するホットエレクトロンが原因であると考えられます。
研究成果は、2012年1月10日(英国時間、日本時間:1月10日)にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されました。

図1.
ナノテクノロジーで作製した、ナノヒーター、ナノ温度計、および金の1原子接合の集積ナノ構造の電子顕微鏡像。
本研究所量子ビーム科学研究施設の写真がアメリカ化学会発行のJ. Phys. Chem. Lett.の表紙に掲載されました。
2011年12月
本研究所量子ビーム科学研究施設(磯山悟朗教授)の装置であるLバンドライナックおよびコバルト60ガンマ線放射装置は電子線またはガンマ線を物質に照射することでさまざまな化学反応を誘起させることのできる装置で、物理化学の基礎研究から材料や生体などにおよぶきわめて幅広い分野の研究に利用されています。本研究所真嶋教授らの研究グループでは、これらの装置を用いることで、共役系分子の電荷非局在、励起ラジカルイオンの反応性の検討、電気化学発光ダイオードの発光メカニズムの検討、光触媒反応機構の検討、DNA内の電荷移動および構造変化などの広範な研究を行っています。最近、その研究成果をアメリカ化学会発行のThe Journal of Physical Chemistry LettersのPerspectiveにまとめました。これは平成23年11月8日にオンライン掲載され、12月1日発行の冊子の表紙に研究に用いたLバンドライナックおよびコバルト60ガンマ線放射装置の写真が掲載されました。

多剤耐性感染症の原因となる異物排出タンパクの薬物排出機構に新発見!
-分子標的創薬に向かって大きく前進-
2011年11月
中島良介助教、山口明人教授らの研究グループは、多剤耐性菌感染症の大きな原因である異物排出タンパクの薬物との結合構造を決定することにより、薬物認識・排出機構を解明する画期的な新発見を行いました。抗生物質の発達で克服されたと思われていた細菌感染症が、多剤耐性菌の登場によって再び脅威となっています。中でも、多剤耐性緑膿菌には有効な臨床治療薬がまだありません。緑膿菌、大腸菌などのグラム陰性細菌の多剤耐性の主原因は異物(多剤)排出タンパクです。異物というのは本来特定できないものです。特定できない異物を、異物排出タンパクはどうやって特異的に認識して排除することができるのかという仕組みは学術上の大きな謎でした。私たちは、異物排出タンパクの分子構造を決定することによりこの仕組みの解明を進めてきましたが、今回、新たに大分子量の薬物との結合構造の決定に成功し、異物排出タンパクが多様な薬剤を認識する結合ポケットを複数持っており、これらのポケットを次々と受け渡して薬物が輸送されるペリスタポンプ機構という新しい仕組みを発見しました。阻害剤を分子設計する標的の構造が明らかになったことにより、多剤耐性菌感染症を克服する治療薬の分子標的創薬に向かっても大きく前進しました。
なお、本研究の内容は11月28日Nature誌にオンライン公開されました。

図1.
今回決定した大分子量薬物結合AcrB構造はこれまでの遠位結合ポケットに加えて、もう一つの近位マルチドラッグ結合ポケットの存在を明らかにした。基質認識スペクトルの異なる2つのマルチドラッグ結合ポケットの存在により基質の範囲が飛躍的に拡大する。

図2.
薬物は「待機」段階で近位ポケットに入り、大分子量薬物はここで認識され、「結合」段階で遠位ポケットに送り込まれる。小分子量薬物は遠位ポケットで認識される。両ポケットの薬物認識スペクトルは異なる。
「百聞は一見にしかず」単一分子の回転振動をくっきり可視化
2011年11月
軸受けの機械機構は日常生活にかかせません。分子マシンの開発を進めるには、回転や振動の機能を有する分子の設計・合成、さらにその動作確認が必須です。
光合成で有名なクロロフィルの類似構造を持つポルフィリン分子(四つ葉のクローバー状の平面型分子)が金属イオンを挟んでできたハンバーガー状のダブルデッカー型錯体は、金属イオンがボールベアリングの役目を果たす軸受けのように機能することが、相田ら(東京大学)や新海ら(九州大学)のグループの研究で明らかになっており、その発展が期待されていました。
しかし、デバイスのように、基板上に集積し配列させて使おうとした場合にも、本当に回転や振動といった軸受けの機能を発揮できるかどうかを明瞭に実証した研究報告例はありませんでした。
このたび大阪大学産業科学研究所の谷口研究室・田中裕行助教は、同研究所の川合知二特任教授や、(独)物質・材料研究機構の竹内正之グループリーダーや、九大院工・崇城大工の新海征冶教授らのグループと共同で、ポルフィリン誘導体からできたダブルデッカー型錯体およびトリプルデッカー型錯体を表面に自己組織化配列させ、回転子に相当するポルフィリン配位子が回転振動する様子を明瞭に可視化することに成功しました。
この成果は、分子マシンのみならず、回転子の角度を情報とする分子メモリや創発的アロステリック特性を有する高感度センサーの開発を推し進めるものと期待されます。
本研究成果は、平成23年11月11日に米国の科学雑誌「ACS NANO(エーシーエスナノ)」のオンライン版で公開されました。

図1.
分子構造モデル: (左)ダブルデッカー型錯体、(右)トリプルデッカー型錯体

図2.
トリプルデッカー型錯体の回転振動の顕微鏡映像
世界で初めて「トポロジカル超伝導体」の確認に成功
2011年11月
大阪大学産業科学研究所の安藤研究室は、名古屋大学工学研究科の田仲由喜夫准教授らの理論チームと共同で、世界で初めて「トポロジカル超伝導体」の確認に成功しました。トポロジカル超伝導体とは内部の電子波動関数が特殊な形を持っている超伝導体で注)、その存在はこれまで理論的に考えられていただけでしたが、その最も顕著な特徴は、表面に「マヨラナ粒子」と呼ばれる全く新しい粒子が現れることです。このマヨラナ粒子とは、粒子がそれ自身の反粒子でもあるという奇妙な粒子で、1937年にイタリアの理論物理学者マヨラナによって、当時未知の粒子だったニュートリノのモデルとして提唱されました。これまでマヨラナ粒子が実際に自然界に存在することは確認されていませんが、近年、トポロジカル超伝導体の表面では電子がマヨラナ粒子として振舞うことが理論的に予測され、大きな関心を集めてきました。
安藤研究室の今回の成果は、CuxBi2Se3という物質がトポロジカル超伝導体であることを、マヨラナ粒子が作る表面電子状態の測定によって確認したものです。マヨラナ粒子は超高速で情報処理を行う量子コンピュータ実現の鍵を握るとも考えられており、その応用のための最初の一歩となる成果です。

図1.
今回トポロジカル超伝導体であることが確認されたCuxBi2Se3の単結晶。

図2.
測定試料の電子顕微鏡写真と得られたデータ。
バイオナノカプセルを用いた多種類抗原タンパク質同時検出用バイオイメージング技術の開発
2011年10月
バイオナノカプセル(BNC)は,B型肝炎ウイルスの表面抗原Lタンパク質を主成分とする直径約70 nmの中空ナノ粒子であり,遺伝子や薬剤を高効率にヒト肝臓特異的に送達できる。私たちは,名古屋大学農学部黒田俊一教授のグループとの共同研究で,Lタンパク質の肝臓特異的レセプター領域をプロテインAのIgG-Fc結合領域(Zドメイン)2分子に置換したZZタグ提示型BNC(ZZ-BNC)を作製し,ZZ-BNC表面に抗体Fv領域が整列化する性質を応用して,既存のELISAにZZ-BNCを添加するだけで高感度化できることを見出した。さらに,各種蛍光色素で標識したZZ-BNCに,それぞれ異なる抗体を結合させて,短時間で各種抗原を複数同時に解析できるバイオイメージング技術の開発にも成功した。まず,種々のCy蛍光色素で標識したZZ-BNCに各種抗体をそれぞれ結合させ,SDS-PAGEにより分離後PDVF膜へ転写した抗原タンパク質に添加して抗原抗体反応を行い,蛍光イメージアナライザーで解析した結果,従来法に比べて短時間に多種類の抗原を同時かつ高感度に検出できた。さらに,培養細胞の各抗原タンパク質に対して細胞免疫染色を行い,多種抗原を同時に観察することにも成功した。本蛍光標識ZZ-BNCをバイオイメージングプローブとして用いる方法は,高効率化・高感度化のみならず,多種類の抗原の複数同時検出が可能で,非常に有用である。現在,黒田グループの飯嶋益巳博士が中心となり,本方法を「IRODORI (彩)」と命名し,研究試薬・医療診断・食品分析等の応用分野の拡大を図っている。
本研究成果は、平成23年9月25日にELSEVIER社発行の「Biomaterials」誌のオンライン版で公開された。

図1.ウェスタンブロットにおける4種類のタンパク質の同時多色検出

図2.細胞免疫染色における2種類のタンパク質の同時検出
活性中に系統的に形態変化する金ナノ粒子触媒
(産業科学ナノテクノロジーセンター・ナノ構造・機能評価研究分野 竹田研究室)
2011年9月
化学的に不活性な金属の代表である金を、ナノ粒子として金属酸化物に担持すると室温以下でも一酸化炭素の酸化反応を促進する触媒となります。しかし、金ナノ粒子が触媒となるメカニズムは未だに解明されていないのです。
大阪大学・産業科学研究所の竹田研究室では、金ナノ粒子触媒の発見者である首都大学東京の春田正毅教授らのグループなどと共同して、特殊な環境制御型・透過電子顕微鏡を利用することで、セリア(CeO2)に担持された金ナノ粒子が、反応ガス中の一酸化炭素と酸素の分圧に応じて系統的に形状を変化させることを明らかにしました。一酸化炭素は、{111}面や{100}面に囲まれた多面体形状を安定にして、一方で、酸素は、丸みを帯びた形状を誘起することが分かりました。丸みを帯びた形状は、酸素分子が室温でも金ナノ粒子とセリアの界面で、電子照射の効果も加わって解離している、とすれば説明できます。以上は、金ナノ粒子の触媒メカニズムを解明するための重要な手がかりと考えられます。
この研究成果は、Angewandte Chemie International EditionのHot paperとして選定され(2011年9月7日)、引き続き、同誌のオンライン版で公開(2011年9月9日)されました。
Angewandte Chemie International Editionの該当部分のURL(2011年9月13日現在)
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.201102487/abstract
http://onlinelibrary.wiley.com/journal/10.1002/(ISSN)1521-3773/homepage/2002_hotpaper.html
トポロジカル絶縁体を舞台にした固体物理学と素粒子物理学の新たな接点
-質量ゼロのディラック電子とヒッグス機構-
2011年8月
トポロジカル絶縁体とは、内部は電流を流さない絶縁体であるのに、その表面に特殊な金属状態が現われる物質です。この表面状態においては、電子は質量ゼロの相対論的粒子のように振舞う「ディラック電子」となってディラック錐(図1)と呼ばれる状態を形成するため、普通の電子よりも格段に動きやすくなっています。
このためトポロジカル絶縁体には、高効率トランジスタなどの応用が期待されていますが、このディラック電子に意図的に“質量”を持たせて(図1)その運動をコントロールする事ができれば、トポロジカル量子コンピュータのようなさらに高度なデバイスが実現できると考えられています。
このたび大阪大学産業科学研究所の安藤研究室では、東北大学理学研究科の佐藤宇史准教授や東北大学原子分子材料科学高等研究機構の高橋隆教授らのグループと共同で、トポロジカル絶縁体における質量ゼロのディラック電子が、これまで知られていなかった新しいメカニズムによって質量を持つことを発見しました。
このメカニズムは、素粒子理論において粒子が「ヒッグス機構」と呼ばれるメカニズムによって質量を獲得するのと同様、「自発的対称性の破れ」が背後にあると考えられますが、詳細はまだわかっていません。
この発見は、トポロジカル絶縁体の高度なデバイス応用に可能性を拓くと共に、固体物理学と素粒子物理学の新たな接点を示唆するものとしても注目されます。
本研究成果は、平成23年8月14日に英国の科学雑誌「Nature Physics(ネイチャーフィジックス)」のオンライン版で公開され、同誌11月号の表紙を飾りました。
Nature Physics(ネイチャーフィジックス)オンライン版 掲載ページURL

図1.質量ゼロのディラック電子が示すエネルギー分散(固有エネルギーの運動量依存性)と、それが質量を持つ様子の概念図

図2.今回TlBi(S1-xSex)2という物質においてSe濃度xを変化させたときに観測された、ディラック電子が質量を持つことを示すデータ
シリコン基板面内にサブナノメートルのゲーティングナノポアデバイスを実現
川合最先端研究開発支援開発プロジェクト・産業科学研究所ナノテクノロジーセンター
2011年7月
川合最先端研究開発支援開発プロジェクトの筒井真楠研究員と川合知二特任教授、大阪大学産業科学研究所ナノテクノロジーセンターの谷口正輝准教授の共同研究グループは、シリコン基板面内にサブナノメートルの電極間距離を持つゲーティングナノポアの開発に成功しました。
ゲーティングナノポアは、米国国立衛生研究所が進める$1000ゲノムシーケンスのターゲットデバイスです。この新デバイスは、超スピード・超低コストでゲノム解析を可能にすると期待され、個別化医療を実現する切り札と考えられています。
ゲーティングナノポアは、ナノメートルスケールの直径を持つSiO2の穴(ポア)と、直径と同程度のナノギャップ電極から構成され、数ナノメートルの電極間(ナノギャップ電極)を流れる生体分子を、トンネル電流で識別する原理で動作します。この動作原理は、ナノギャップ電極を容易に作ることができる機械的破断接合や走査トンネル顕微鏡を用いて実証されてきました。実用デバイスへと展開するためには、半導体デバイスとの融合が容易なシリコン基板面内にゲーティングナノポアを作ることが、強く要求されています。しかし、ナノポアの作製、ナノギャップ電極の作製と、ナノ電極とナノポアの位置合わせ技術が、大きな障壁になっていました。共同研究グループは、ナノポアの作製、ナノギャップ電極の作製、ナノポアとナノギャップ電極の位置合わせを同時に制御できる自己整合技術を開発し、この課題を突破しました。作製したゲーティングナノポアを用いて、金属内包フラーレン(Er@C82)の1分子検出を行い、さらにDNAオリゴマーの識別を実証しました。
本手法は、ゲーティングナノポアを作る革新的な自己組織化技術であり、実用化研究を加速度的に推し進めるものと期待されます。
本研究は、独立行政法人 産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センターの岡崎俊也研究チーム長、筑波大学大学院数理物質科学研究科博士後期課程飯泉陽子との共同研究であり、日本学術振興会最先端研究開発支援プログラムの助成を受けたて行われました。
研究成果は、2011年7月28日(英国時間、日本時間:7月28日)にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されました。

図1.サブナノメートルのゲーティングナノポアデバイス

図2.ゲーティングナノポアを用いた単一DNA分子の識別
カーボンナノチューブを用いた超低消費電力不揮発性メモリの開発
2011年6月
産業科学研究所 松本和彦教授、井上恒一准教授、前橋兼三准教授および大野恭秀助教らは、カーボンナノチューブをチャネルに利用した超低消費電力不揮発性メモリを開発しました。
カーボンナノチューブは1次元量子細線という特異的な構造、及び優れた電気伝導特性を有することから、次世代の高性能デバイスの為の材料として期待されています。カーボンナノチューブは直径が非常に小さい(~1 nm)ため、カーボンナノチューブ周囲にある個々の蓄積電荷に対して非常に敏感に反応します。そのため1個の蓄積電荷の精度で1 bitを構成する単電子メモリの実現が期待でき、究極の低消費電力や多値情報の記憶が可能となります。
本素子は、図1に示すように、カーボンナノチューブ電界効果トランジスタの上に、Auドットのナノ浮遊ゲートを絶縁膜で挟んだ構造をしています。そのため、Auドットへの電荷の注入はクーロン反発作用により1個1個制御できるので、Auドットに蓄積された電荷の影響によりチャネル部分の電気特性を制御することができます(図2)。
これらの結果は、超低消費電力の不揮発性メモリへの可能性を開いたといえます。本研究成果は2011年5月31日(米国時間、日本時間2011年6月1日)に米国応用物理学会誌(Applied Physics Letter)のオンライン版で公開され、同雑誌のCover Letterとして採用されました。
図1 カーボンナノチューブを用いた超低消費電力不揮発性メモリの模式図
図2 Auドットに1個ずつ蓄積させたときの電気特性
従来の溝型ヒートシンクよりも15倍も冷却能の優れた空冷型 ロータスヒートシンクの開発に成功
2011年5月
我々は、多数の微細な貫通孔を有するロータス銅を直列に並べ空気流を吹き込み熱伝達率を測定し、比較のために溝型フィンでも同様の測定を行った結果、両者を同じ流速で比較すると、ロータス銅を用いたヒートシンクでは熱伝達率が溝型フィンを用いた場合に比べて15倍も大きく、きわめて優れた冷却能を持つことがわかった(図2)。また、水冷型ヒートシンクでもロータス銅を用いたヒートシンクは溝型フィンよりも4~5倍も優れた冷却能を示した。(ロータス銅を使用したパワーモジュールは図1参照)
近年、電子デバイスの小型化、高性能化に伴い発熱密度が飛躍的に上昇してきている。例えば、インバーターなどに使用されるパワー素子での発熱密度は100W/cm2をすでに超えており、また、高周波素子では1000W/cm2以上になろうとしている。そのため、これらの素子の効果的な冷却のために、従来の溝型ヒートシンクに比べ格段の熱伝達率をもつ高性能の空冷あるいは水冷ヒートシンクが求められている。一般に、冷却流路(チャンネル)となるチャンネル直径が小さく冷媒に接する表面積が大きい多孔質材料が大きな熱伝達率(高い冷却能)をもつヒートシンク材料として有望視されてきたが、多孔質材料は流路が曲がりくねっているため、流れの圧力損失やポンプ動力が大きくなるという欠点があった。
我々は多数のストレートの微細孔を持つロータス型ポーラス金属を用いたヒートシンクの開発を進めてきたが、今回の成果により、上記のような高性能ヒートシンクを用いれば、電子機器の小型化を可能にし、今後の高発熱密度のヒートシンクに対応できる従来製品よりも格段に優れたヒートシンク製品として期待される。これらはコンピューターの放熱板や電気自動車、ハイブリッド自動車のインバーター素子の冷却に威力を発揮することが期待される。

図1.空令型ロータス銅ヒートシンク

図2.空冷型ロータス銅ヒートシンクの性能
光触媒反応の結晶面依存性の観測に成功
―高活性・高選択性光触媒や高効率太陽電池の開発へ―
2011年4月
大阪大学産業科学研究所の真嶋教授・立川助教らは、光触媒反応の結晶面依存性の観測に成功しました。
酸化チタン(TiO2)は、太陽エネルギーを利用した環境浄化を目的とした光触媒や太陽電池の電極材料としての応用が期待されています。近年、より高活性なナノ粒子の開発を目指し、結晶面を制御したTiO2結晶の合成が盛んに行われています。しかしながら、実際に表面で起こっている化学反応を直接観察することは難しく、これまで光触媒反応における結晶面の影響についてはほとんど明らかにされていませんでした。今回、我々は還元応答型蛍光プローブ(本グループによって開発)を用いた単一分子蛍光観察により、TiO2光触媒反応の効率が結晶面によって大きく異なることを発見しました。TiO2結晶への紫外光照射によって発生した電子が、表面に吸着した蛍光プローブ分子を還元すると、本来蛍光を発しない分子の性質が変化し、緑色の強い蛍光を示すようになります。この蛍光を超高感度カメラによって単一分子毎に撮影することで、反応位置をナノメートルスケールで特定することに成功しました。その結果、従来反応活性が高いと信じられていた{001}面より、{101}面の方が2倍以上も反応活性が高いことがわかりました。
本研究の成果は、高い触媒活性と選択性を併せ持つ光触媒や高効率な太陽電池の開発につながると期待されます。
本研究の内容はJournal of the American Chemical Societyに(4/16, web)に掲載され、共同通信(4/19)、日刊工業新聞(4/19)でも紹介されました。
T.Tachikawa, S. Yamashita, and T. Majima, “Evidence for Crystal-Face-Dependent TiO2 Photocatalysis from Single-Molecule Imaging and Kinetic Analysis”, J. Am. Chem. Soc. in press.
蛍光プローブを用いた光触媒反応のその場観察の方法.右図は、TiO2結晶上における反応点の空間分布.{001}面(青色)と比べ、{101}面(赤色)でより高い触媒活性がみられた.背景はTiO2結晶の光学顕微鏡像である.
受賞者一覧
平成24年4月1日~平成25年3月31日
平成23年4月1日~平成24年3月31日
| 向川康博 | 山下記念研究賞 | 情報処理学会 |
| 多根 正和 | グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」優秀ポスター賞 | グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」 |
| 竹谷純一教授 | Nanotech 2012 Award (プロジェクト部門) | Nanotech 2012 第11回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議 |
| 多根 正和 | グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」論文賞(1) | グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」 |
| 多根 正和 | グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」論文賞(2) | グローバルCOEプログラム「構造・機能先進材料デザイン教育研究拠点」 |
| 八木 康史 満上 育久 |
The 15th SANKEN International Symposium 2012 The 10th SANKEN Nanotechnology Symposium Best Poster Award | The 15th SANKEN International Symposium |
| 山崎 聖司 | 第64回日本細菌学会関西支部総会最優秀発表者 | 第64回日本細菌学会関西支部総会 |
| 川井 清彦 | ISNAC Outstanding Oral Presentation Award for Young Sceintist in 2011 | 第38回国際核酸化学シンポジウム |
| 前橋 兼三 大野 恭秀 井上 恒一 松本 和彦 |
MCN 2010 Award for Outstanding Paper | マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議 |
| 前橋 兼三 大野 恭秀 井上 恒一 松本 和彦 |
MCN 2010 Award for Most Impressive Poster | マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議 |
| 小林 一雄 | JB論文賞 | 日本生化学会 |
| 中嶋 英雄 | MetFoam 2011 Best Paper Award | International Conference on Porous Metals and Metallic Foams |
| 八木康史 満上育久 |
優秀論文賞 | 画像の認識・理解シンポジウムMIRU2011 |
| 福井 健一 | 第25回人工知能学会全国大会口頭発表部門全国大会優秀賞 | 社団法人人工知能学会 |
| 長島 一樹 柳田 剛 |
ISSP2011 the 11th International Symposium on Sputtering & Plasma Processes Best Poster Award | International Symposium onSputtering & Plasma Processes |
| 長島 一樹 柳田 剛 |
ナノ学会第9回大会 若手優秀発表賞 | ナノ学会 |
| 菅沼 克昭 | 日本信頼性学会 優秀賞 | 日本信頼性学会 |
| 向川康博 角野皓平 八木康史 |
平成22年度 IPSJ Transactions on Computer Vision and Applications Outstanding Paper Award | 情報処理学会 |
| 鷲尾 隆 | 人工知能学会 研究会優秀賞 | 社団法人人工知能学会 |
| 高谷剛志 | 卒業論文セッション最優秀賞 | 情報処理学会 CVIM研究会 |
| 笹井 宏明 | MOLECULAR CHIRALITY AWARD 2011 | The Molecular Chirality Research Organization |
| 久野 悠 | 第58回日本生化学会近畿支部例会最優秀発表賞 | 社団法人日本生化学会 |
| 中谷 和彦 | 平成22年度第2学期大阪大学共通教育賞 | 国立大学法人大阪大学 |
| 谷口 直之 | 第101回日本学士院賞 | 日本学士院 |
最近の活動
寄附研究部門の研究成果等の概要について -疾患糖鎖学(生化学工業)寄附研究部門-
2011年5月
平成21年4月に設置した本研究所寄附研究部門(寄附者:生化学工業株式会社)の設置期間が終了し、この度、教育研究成果等の概要をとりまとめました。
本研究部門は、以下の3つの研究目的をもって設置されたものです。
●目的1
糖鎖遺伝子を用いた構造の改変(糖鎖リモデリング)による高度機能化及びその制御、特に増殖因子受容体の制御とその応用
●目的2
糖鎖遺伝子の機能解明および糖鎖変化を利用したバイオマーカーの開発
●目的3
炎症性疾患、癌における糖鎖の役割の解明と病気の治療への応用
教育研究成果の概要はこちら(PDF)



















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図1.2色2レーザー照射法による金属ナノ粒子の三次元光加工の概念図
図2.2色2レーザー照射法による金ナノ粒子の三次元光加工の例。金ナノ粒子の形成された部位はナノ粒子の表面プラズモン吸収のため紫に変色する。(a)樹脂中に金ナノ粒子で書き込まれた「光」という文字。(b-d)樹脂中に三次元位置選択的に作成されたマイクロメートルサイズの金ナノ粒子アレイ(b)、マイクロキャビティ(c)、マイクロトンネル(d)。
図3.2色2レーザー照射による金属ナノ粒子アレイの生成













































