当研究室で行っている研究について、ご紹介いたします。


発光・蛍光タンパク質プローブの開発


■超高輝度発光たんぱく質Nano-lantern(ナノ-ランタン)の開発

(Nature communications, 3, 1262, 2012)

蛍光タンパク質を中心とした蛍光プローブの普及に伴い、生物個体を生きたまま可視化するライブイメージング技術が著しい発展を遂げています。観察対象が様々な動植物種に広がる一方で、蛍光観察におけるサンプルへの光毒性や自家蛍光といった問題が浮上してきました。
これらの問題を回避するために、我々の研究グループではホタルに代表される「化学発光」を用いたライブイメージングに取り組んできました。化学発光は蛍光と違い外部からの励起光を必要としないため、自家蛍光や光毒性といった問題を回避することができます。このような利点があるにも関わらず化学発光は蛍光に比べて明るさが足りないという弱点があったため、ライブイメージングの道具として有用ではありませんでした。例えば従来の化学発光でマウス体内の癌細胞を検出する場合は、麻酔で眠らせたヌードマウスを暗い環境で、長時間露光撮影する必要がありました。

今回我々は、化学発光タンパク質と蛍光タンパク質をハイブリッド化することで、従来の化学発光プローブに比べ10倍以上明るい超高輝度化学発光タンパク質 Nano-lantern(ナノ-ランタン)を開発しました。Nano-lanternを用いることで、自由に動き回るマウスの背中で光る癌細胞の様子をビデオレートで撮影することに世界で初めて成功しました。特別な処置すること無くマウスを化学発光で観察できるので、多くの疾病の原因究明やより効果的な創薬スクリーニングが期待されます。さらに我々は、Nano-lanternを改変してCa2+やcAMP、ATPを検出できる発光プローブの開発にも成功しました。これらの発光プローブは励起光を必要としないため、植物細胞のような自家蛍光の強い試料における活性測定や、光照射により細胞の活動やタンパク質の機能を制御する「光遺伝学的技術」と組み合わせて用ることが容易です。例えば、神経ネットワークのコントロールと神経活動のモニタリングを同時に行うことができるため、複雑で実験が困難であった高次神経活動(行動、思考、記憶)のメカニズムに迫ることが可能となります。





■より多彩にカルシウムイオンを検出できる、DNAにコードされた青、緑、赤色のカルシウムイオン指示薬の開発
(Science, 333: 1888-1891,2011)

下村脩博士らのノーベル賞受賞で知られる緑色蛍光タンパク質「GFP」に代表される蛍光タンパク質は、細胞や生体分子を蛍光標識することを主用途として、現在では医学・生物学研究に広く用いられるようになりました。

近年では、GFPを遺伝子光学的に改変することにより、細胞内の酸素の活性化やイオンの濃度変化などを計測することができる指示薬も開発されています。しかし、従来のCa2+指示薬は計測波長域が青緑色から緑色域に限定されていたり、Ca2+結合によって起きる蛍光強度の変化が小さいためにわずかなCa2+濃度の変化をとらえることができないという短所がありました。
そこで今回の研究では、GFPの円順列変異体を利用した緑色蛍光Ca2+指示薬である「GCaMP3」の遺伝子に「エラー誘発PCR法」と遺伝子シャッフリング法を用いてランダムに遺伝子変異を導入し、2600%ものシグナル変化率を有する緑色指示薬「G-GECO」(ジーゲッコー:green fluorescent genetically-encoded Ca2+indicators for optical imaging)の開発に成功しました。さらに、そのG-GECOの蛍光団を構成するアミノ酸の一種である「チロシン」を「ヒスチジン」に置換することで、青色指示薬「B-GECO」を、また、赤色蛍光タンパク質「mApple」をもとにした赤色指示薬「R-GECO」の開発にも成功しました。 次いで、B-GECO、G-GECO、flash-pericamの遺伝子混合物を鋳型にして「エラー誘発PCR法」を行った結果、Ca2+の結合によって蛍光色が緑から青色に変化する「GEM-GECCO」の開発にも成功しました。GEM-GECOはCa2+の結合により、蛍光シグナル(青の蛍光強度/緑の蛍光強度)が11,000%も変化し、これまでのどの指示薬よりもズバ抜けて大きな、変化量を示します。そのほか、励起2波長計測型「GEX-GECO」も開発しました。 これらGECOシリーズの性能は細胞内で維持され、極めて高いコントラストで細胞内のCa2+変動を観察することができるようになっただけでなく、複数のコンパートメントでのCa2+の同一細胞内での観察や、Ca2+とATPの同時計測も可能にしました。

なお、この研究は、カナダ・アルバータ大学化学科のロバート・キャンベル准教授,九州大学理学研究院生物科学部門の石原健教授らとの共同で行われました。




■世界最高の検出感度をもつカルシウムイオンセンサー“カメレオン-Nano”の開発 (Nature Methods, 7:729-32. 2010)

Cameleon(カメレオン)は遺伝子工学技術を用いてGFP をもとに開発された蛍光タンパク質であり, 細胞内の信号伝達を担うCa2+をリアルタイムに検出するセンサーとして利用されてきまし た。 これまでにカメレオンをはじめとして,幾つかのCa2+センサーが蛍光タンパク質の改変 や化学合成により開発されてきましたが,従来のCa2+センサーは感度が低いため,自発的な 生命活動に伴う僅かな Ca2+の濃度変化を計測することは難しく、これを可能にする高感度 センサーの開発が求められていました。 研究グループはカメレオンのCa2+結合領域を新奇の方法で改変することにより、Ca2+に対 する結合力を飛躍的に向上させ、超高感度 Ca2+センサー「カメレオン-Nano」の開発に至り ました。 カメレオン-Nano の Ca2+との結合力はこれまでに開発されたCa2+センサーの中で最 も強く、世界最高の感度(解離定数Kd=15 nM)を有しています。 Ca2+結合領域を微調節することで Ca2+との結合力を変えたセンサーも5 種類開発し、センサーのシリーズ化も実現しま した。 これらの超高感度Ca2+センサーを用いることで,大脳皮質の神経活動を高感度に検出する ことが可能になっただけでなく、生きた動物個体内における神経ネットワークやこれに制 御される筋肉組織の活動パターンの両方を同時計測することに成功するなど、従来の Ca2+ センサーでは検出できなかった現象を捉えることが可能になりました。


■群青色蛍光タンパク質 (シリウス) の開発 (Nature Methods, 6: 351-353, 2009)

2008年のノーベル化学賞の受賞対象となった緑色蛍光タンパク質 (GFP, Green Fluorescent Protein) は、1960年代に下村脩博士によってオワンクラゲから発見され、1990年代にGFP の遺伝子がクローニングされて以来、遺伝子改変により数多くの蛍光色変異体が開発されてきました。とりわけ緑よりも長波長の黄、橙、赤色の蛍光を発する蛍光タンパク質は数多く開発がされてきたものの、短波長の青や紫色の蛍光を発する蛍光タンパク質は未だに種類が少なく、多くの研究者から長年その開発が求められていました。  
我々の研究グループは蛍光タンパク質の発色団とそれを取り巻くアミノ酸への変異の導入、さらにはタンパク質全体へのランダムなアミノ酸変異を導入することで紫と青色の中間色である群青色の蛍光を発する蛍光タンパク質Sirius (シリウス) の開発に成功し、15年ぶりに蛍光タンパク質の最短波長発光記録が更新されました。これにより蛍光色のバリエーションが増え、従来では不可能であった細胞内の複数の部位やタンパク質を同時にかつ鮮明に可視化することができるようになりました。 Siriusは従来の蛍光タンパク質とは異なり、如何なるpH条件下でも安定した蛍光を発することから、これまで困難であった酸性環境下にある細胞内小器官内でのタンパク質の動態の観察も可能となりました











■分子デザインにより創生した光変換蛍光タンパク質を用いた、生きた細胞内の生体分子の動きを鮮明に可視化する技術の開発
(Nature Methods, 5: 339-345, 2008)

蛍光タンパク質を用いた生体分子の標識技術は発展を遂げ、今では紫外線などの光刺激によるスイッチングで蛍光色を変化させることのできる光変換蛍光タンパク質が細胞や分子の「動き」を解析するために用いられるようになりました。 従来の光変換蛍光タンパク質では蛍光波長の変化を観察するために、波長の違う2種類の励起光(蛍光タンパク質を光らせるために与える光)を用意する必要がありました。 我々は、2つの蛍光タンパク質を繋げたキメラ蛍光タンパク質をデザインしてスイッチング前後の2色の蛍光(前:シアン色、後:緑色)を1種類の励起光で観察することのできる光変換蛍光タンパク質 「Phamret(ファムレット)」を開発しました。1種類の励起光で観察できるため、特殊な光学系を使わずに、光変換によって生じた2種類の蛍光を同時に測定することが可能になり、動きの速い分子の映像化を可能にしました。 また、光刺激によるダメージを受けやすい生物には観察のために与える光の量は1種類の励起光だけでよいため負担が少なくなりました。

■全自動でプラスミドDNAを組換える方法の開発 (J. Biotechnol, 137: 1-7, 2008

分子生物学の最も重要な基盤技術の1つにDNA組換え法があります。 DNA組換えとは、遺伝子が符号化されたDNA断片等をつなぎ合わせることで、自由自在に遺伝子を操作する技術のことです。 インシュリン遺伝子をバクテリア用のベクタに組換えて安全にインシュリンを生産したり、クラゲの蛍光タンパク質遺伝子をヒト細胞に導入して癌の研究に役立てたりするなど、様々な分野で社会に貢献しています。 こうした技術は40年程前に確立されたのですが、熟練した研究者が長時間掛けて様々な処置を行う必要があるため、生物学の研究者の多くの時間をこうした遺伝子組換え操作に費やしてきました。 私たちのグループでは、こうした煩雑で非常に手間の掛かる従来の遺伝子組み換え方法に改良を加え、「混ぜるだけ」で自動的にDNA組換えを行うことの出来る新しい手法を開発しました(図1)。 DNAの決められた配列を切断する制限酵素には様々な種類が存在しますが、その中でもIIS型と呼ばれる制限酵素は、DNA配列の認識する場所と切断する場所が異なると言う面白い特徴を有しています。 IIS型のこうした性質とDNAリガーゼと呼ばれるDNAの連結酵素を組み合わせることで、DNA断片を自動的に組換える反応を考案しました(図2)。 実際にこうした反応を実験的に検討してみると、当初の予想よりも高い効率で組換えが起こることが判明し、また複数のDNA断片も同時に組換えることが可能であることも分かりました。 私たちはこの手法を「全自動単一試験管組換え法(Fully Automated Single Tube Recombination: FASTR)」と名付け、現在、様々な用途に則した実用化へ向けての研究を行っています。


■化学発光性カルシウムイオン指示薬"BRAC"の開発(PLoS ONE, 5: e9935,2010)

FRETや蛍光タンパク質を用いた「蛍光観察」ではサンプルへ強い励起光を当てる必要があります。 そのため励起光が届きにくい生物個体内部や、自家蛍光が多くまた光毒性の影響が多い植物等への適用は難しい点もあります。 一方、ホタルの光のように励起光を必要とせずに発光を起こす生物発光タンパク質も同定され研究に利用されています。 我々はこのように励起光を必要としない「発光観察」を生物個体へのイメージングにアプローチしようとしています。 生物発光タンパク質から蛍光タンパク質へのBRET(Bioluminescene Resonance Energy Transefer)を利用したバイオセンサーの開発も行っています。 新規に開発した発光性Ca2+指示薬BRACを発現したHela細胞のカルシウム振動を観察を行いました(下図)。



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