研究室について


 「生体情報制御学」は、生体における情報の流れと細胞機能の制御に関係する分子素子の作動機構と相互連関について研究する新しい学問分野です。旧来の生化学では、生体を構成する個々のタンパク質の機能を別々に研究してきましたが、それらの集合体としての生体が全体としてバランスを保ちつつ機能するためには、個々のタンパク質の機能を総合的にコントロールする情報制御機構の存在が必須です。生体を構成する細胞におけるそのような情報の受容と反応には、生体膜が中心的な役割を果たしています。生体膜素子の構造と機能、細胞機能制御における役割の解明には、旧来の生化学的手法に替わって、遺伝子工学的、タンパク質工学的手法が全面的に適用され、目覚ましい成果を上げてきています。本研究室では、生体膜タンパク質の中でも、膜輸送タンパク質を取り上げ、遺伝子工学的手法を用いた構造・機能の解明と、細胞機能制御における役割に関する研究を行っています。

 その研究対象のひとつとして、私たちは、抗生物質、化学療法剤を含む薬物、毒物などを認識して細胞の外へ排出するタンパク質(生体異物排出ポンプ)を取り上げています。生体異物排出ポンプは、細菌から高等生物を含む生物界に広く分布していることが近年明らかになりつつあり、細胞レベルでの新しい生体防御機構として注目されてきています。これらの生体異物排出ポンプは、がん細胞や病原細菌の多剤耐性の原因となる反面、血液脳関門やその他の組織にも分布し、さまざまな重要な細胞生理機能を担っていると考えられていますが、その全貌はまだ明らかになってはいません。薬物、異物の細胞外排出には、分子生物学の基本原理にもかかわる問題が含まれています。それは、本来不特定な異物を如何にして認識し排除するかという問題です。免疫機構にもその問題はありましたが、生体異物排出ポンプでは単一のタンパク質が多剤を排出しています。これは、単に基質特異性が広いのではなく、化学構造上全く無関係な化合物を異物として認識して同時に排除できるということなのですが、その機構は全くわかっていません。私たちは、この機構として、排除する分子を直接認識するのではなく、有用な分子は排除の対象としない仕組みがあるのではないかという仮説を立てています。本研究室では、このような仮説の下に、生体異物排出ポンプに関して、

を3本の柱として研究を推進しています。また、これらの排出ポンプ阻害剤の探索による創薬と多剤耐性の克服、生体異物排出ポンプの変異が原因となる遺伝病の解明という社会的応用も目指しています。

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