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産業科学研究所 小林研究室は、表面化学・半導体化学を専門とする研究室です。

研究内容RESEARCH THEMES

バナースペース

大阪大学産業科学研究所小林研究室

〒567-0047
大阪府茨木市美穂ヶ丘8-1
第二研究棟5階

TEL 06-6879-8451
FAX 06-6879-8454

4.シリコンナノ粒子からの発光の研究


(図1 シリコンナノ粒子からの発光:左から緑色発光シリコンナノ粒子、青色発光シリコンナノ粒子、シリコンナノ粒子を含まない溶媒)

 シリコンは、人体にとって無害ですので、光るシリコンを開発すればバイオマーカー等への応用が期待できます。小林研究室では、シリコン切粉から形成したシリコンナノ粒子が種々の色に光ることを見出しています。図1は、紫外線を照射すると緑色に発光するシリコンナノ粒子と、青色に光るシリコンナノ粒子を含む溶液からの発光です。緑色の発光は、シリコンナノ粒子自身からの発光ですが、青色の発光はシリコンナノ粒子に微量吸着している有機分子(ジメチルアントラセン、DMA)が発光していることを見出しました。図1右図から分かるように、微量のジメチルアントラセンを含む溶媒はほとんど発光しませんが、溶媒中にシリコンナノ粒子があれば強く青色に発光します。シリコンナノ粒子によって、発光強度が数万倍に増強されることを見出しています。


(図2 緑色発光シリコンナノ粒子の発光スペクトル:入射光エネルギー依存性)

 緑色の発光では図2のように、幅の広い一本のピークが観測されます。入射光のエネルギーを増加すると、発光ピークのエネルギーが増加します。入射光のエネル ギーを増加することによって、より大きなバンドギャップエネルギーを持つ小さなシリコンナノ粒子が光を吸収して発光するため、発光ピークが高エネルギー側にシフトします。  


(図3 青色発光シリコンナノ粒子の発光スペクトル:入射光エネルギー依存性)

 一方、青色の発光では図4のように、数本の発光ピークが観測されています。このスペクトルは、DMA分子の発光スペクトルと類似しており(図3中緑色のスペクトル)、ヘキサン中に微量含まれるDMAがシリコンナノ粒子に吸着して発光しています。シリコンはフッ化水素酸+硝酸の混合溶液に溶解することは良く知られていますが、この溶液を青色発光している溶液に少量加えると、図4bのように発光はほとんど観測されなくなります。すなわち、シリコンナノ粒子の表面にDMAが吸着することで、発光が大幅に増強していることが分かります。シリコンナノ粒子によって、DMA分子の発光強度が約3万倍に増大(図4aと3cとの比較から)していることが分かっています。


(図4 青色発光シリコンナノ粒子の発光スペクトル(a)とHF+HNO3溶液の添加による消光(b)及びシリコンナノ粒子を含まないヘキサン溶媒の発光スペクトル(c))


(図5 青色発光シリコンナノ粒子の発光スペクトル:二種の異なった発光メカニズム)

 青色発光シリコンナノ粒子に4eV以上のエネルギーの紫外光を入射すると、図5のようにシリコンナノ粒子からの発光による幅の広いピークと共に、DMAからのほぼ等エネルギー間隔の発光ピークが観測されます。青色発光は以下の新規のメカニズムによって起こることを見出しています。1)シリコンナノ粒子に吸着したDMA分子が光を吸収して発光する。2)シリコンナノ粒子が光を吸収して生成した電子とホールがDMA分子に移動してそこで発光する。メカニズム1)では、吸着によって吸収と発光の遷移確率が大幅に増加して発光強度は大きくなりますが、発光スペクトルの形状は孤立したDMA分子のものとほぼ同じです。一方、メカニズム2)では、光生成する電子とホールの寿命がDMA分子の発光寿命に比較してきわめて長く、電子とホールが別々に吸着DMA分子に到達すると考えられます。電子が先に到達する場合はメカニズム1)の発光とほぼ同じ発光スペクトルになりますが、ホールが先に到達する場合異なるスペクトル形状を示します。 
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