One Cell
(Automated single-cell analysis and isolation system)

全自動1細胞解析単離ロボットの開発と応用

同一クローン内の細胞を1細胞単位で解析すると、個々の細胞に個性(異種性)があることが分かります。この異種性を無視して細胞のスクリーニングを行うと、目的細胞の取りこぼしや,目的細胞集団への不要な細胞の混入に繋がります。本研究テーマでは、大規模な細胞集団に含まれる個々の細胞を高感度に1細胞ずつ分析する能力、および精密かつ迅速に単離できる能力の両方を兼ね備えた装置(全自動1細胞解析単離装置)の開発(2)と、この装置を用いて1個の優良細胞から高純度の細胞を育種する技術(1細胞育種技術)(3)の確立を目的としています。

全自動1細胞解析単離装置の開発

私たちは本装置を短くOne Cell装置と呼んでいます。大規模な細胞群(最大40万)を同時解析できる「マイクロチャンバーアレイチップ」、そしてこのチップから全自動で目的細胞を容易に見つけ出して非侵襲的に1細胞単離できる「全自動1細胞解析単離装置(One Cell装置)」を開発しました(2,3)。操作は以下の通りです。細胞をチップ上に播いて軽く遠心すると、1ウェルにちょうど(ほぼ)1細胞ずつ導入されます。これをOne Cell装置に供すると、顕微カメラによるスキャン(→ 映像1)、細胞アレイの蛍光像と透過像の取得、画像解析による蛍光輝度の数値化とリスト表示を自動で行います。さらに装置は解析した細胞の内、もっとも蛍光輝度の高い細胞を1細胞ずつマイルドにキャピラリ吸引して(→ 映像2)、所望のリザーバーウェルへ吐出します。

One Cell装置のアプリケーション開発

One Cell装置はよく光る細胞を蛍光輝度値の高いものから順に回収するシンプルなコンセプトに基づく装置です。そこで、細胞の産生する分子(タンパク質など)や細胞の性質を利用して光らせる方法を模索し、実際にOne Cell装置を用いて細胞スクリーニングを行いました。なお、最近では任意の蛍光輝度値の細胞も単離可能となり、同時に3色の蛍光による選抜も可能になっています。

1)CS-FIA(Cell surface-fluorescence immunosorbent assay)

抗体医薬などのバイオ医薬品は、産生細胞を培養し、培地中へ分泌させて精製します。産生細胞の中には同じクローンであるにも関わらず、良く分泌する細胞や分泌の乏しい細胞が混在しています。良く分泌する働き者の産細胞(高生細胞)は抗体医薬産業において有用であり、これを迅速に検出できればと考えました。しかし、分泌物は直ちに培地中に拡散するため、多数の細胞の中から高産生細胞を生かしたまま見つけるのは簡単ではありません。そこで、分泌物を直ちに高産生細胞の近くに留めて、その分泌物の量を蛍光量として測定する方法を考案しました。それが以下に示す細胞表層蛍光抗体染色法(CS-FIA法)です。(1)

CS-FIA法に供した細胞のうち、良く光る細胞は高産生細胞であることを示し、また本法は細胞に無毒であることから、One Cell装置で単離して培養することができます。培養後の細胞は高い分泌能をもつ細胞であることを見出しています(1,2)。現在、抗体分泌能の高いCHO細胞、あるいは分化能の高いES細胞の1細胞育種にも力を注いでいます。

2)Time-lapse cytometry

細胞の中には、特定の外界刺激(細胞外リガンド)に応答してイオンを取り込み、細胞内および細胞間シグナル伝達を作動するものがあります。このイオン取り込みを蛍光イオン指示薬で可視化すると、30~100秒くらいの一過的な反応であることが分かります(→ 映像3)。例えば嗅細胞の匂い分子(化合物)受容のシグナル伝達ではCa流入と流出を伴うことが例として挙げられます。匂い分子の受容体の正体は、七回膜貫通型受容体ファミリーに属する嗅覚受容体(olfactory receptor, OR)で、哺乳動物では多くとも数千種類と知られています。一方、匂い分子の種類は数十万種類と言われ、特定の匂いに対して強く親和性を有するORがある一方、弱く親和性を示すOR群も協調的に働いて、このような膨大な種類の匂いの識別を可能にしています。そこで私たちは、嗅細胞が匂い応答にCaイオン取り込みを伴う性質を利用し,One Cell装置に時間分解蛍光差分解析系を導入し、Time-lapse cytometryという新しい技術を開発し、匂いに応答する網羅的な嗅細胞の単離と同定を行っています。(参照:odarant receptor)(5)

3)De novo drug screening

受容体の機能を特異的に作動あるいは阻害する化合物、すなわちこれらのアゴニストやアンタゴニストは内分泌系調整薬(高血圧薬等)、抗がん剤等の候補薬として大変重要です。しかしこれらの候補薬の開発には、とかく多くのお金と時間がかかります。特に、薬の種を探すステージ(リード化合物スクリーニング)は重要である一方、創薬全体にかかる時間とコストの多くの割合を占めており、薬価の高騰の一因となっています。従来のリード化合物スクリーニングは、膨大な種類のリード化合物(多くとも10~10種類)を準備し、評価用の哺乳動物細胞をその数だけ培養し、準備した化合物を総当たりでアッセイします。このように、リード化合物の活性評価には多大な労力が必要となり、しかも哺乳細胞特有のシグナルクロストークによる偽陽性もあることから、ほとんどのリード化合物は開発の最終ステージに行くことはできません。そこで私たちは、薬のターゲットとして一回膜貫通型受容体評価用の細胞として出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)に注目しました。酵母は真核生物ですが、哺乳動物細胞のような一回膜貫通型受容体をもたないため、細胞内部にヒト由来受容体に作用するクロストーク因子がほとんどありません。酵母に本受容体を機能的に発現させれば、純粋にアゴニストあるいはアンタゴニストと受容体の相互作用が観察できると考えました。

1酵母細胞内において、自己分泌形式で上皮成長因子(EGF)を酵母細胞壁へ蓄積させ、EGF受容体(EGFR)を細胞膜状に発現させます。両者が相互作用するとEGFRの自己リン酸化が起こります。それを蛍光標識した抗リン酸化EGFR抗体で検出します。この時、EGFの替わりに5アミノ酸をランダムに置換した構造固定型helix-loop-helixペプチドライブラリー(20アミノ酸の5乗 = 3.2×10種類)を発現させ、蛍光標識の後でOne Cell装置で1細胞単離し、PCRによる塩基配列解析を経て6つのEGFRアゴニストのアミノ酸配列を決定できました(4)。現在、EGFRのようなホモオリゴマー型の受容体だけではなく、インターロイキン5、6受容体のようなヘテロオリゴマー型の一回膜貫通型受容体についても酵母での発現系構築にも成功しています。(6)

関連文献
  1. Kida A, Iijima M, Niimi T, Maturana AD, Yoshimoto N, Kuroda S.
    Cell surface-fluorescence immunosorbent assay for real-time detection of hybridomas with efficient antibody secretion at the single-cell level.
    Anal. Chem. 85, 1753-1759 (2013) [PubMed]
  2. Yoshimoto N, Kida A, Jie X, Kurokawa M, Iijima M, Niimi T, Maturana AD, Nikaido I, Ueda HR, Tatematsu K, Tanizawa K, Kondo A, Fujii I, Kuroda S.
    An automated system for high-throughput single cell-based breeding.
    Sci. Rep. 3, 1191 (2013) [PubMed]
  3. Yoshimoto N, Kuroda S.
    Single-cell-based breeding: rational strategy for the establishment of cell lines from a single cell with the most favorable properties.
    J. Biosci. Bioeng. 117, 394-400 (2014) [PubMed]
  4. Yoshimoto N, Tatematsu K, Iijima M, Niimi T, Maturana AD, Fujii I, Kondo A, Tanizawa K, Kuroda S.
    High-throughput de novo screening of receptor agonists with an automated single-cell analysis and isolation system.
    Sci. Rep. 4, 4242 (2014) [PubMed]
  5. Suzuki M, Yoshimoto N, Shimono K, and Kuroda S.
    Deciphering the Receptor Repertoire Encoding Specific Odorants by Time-Lapse Single-Cell Array Cytometry.
    Sci. Rep. 6, 19934 (2016) [PubMed]
  6. Yoshimoto N, Ikeda Y, Tatematsu K, Iijima M, Nakai T, Okajima T, Tanizawa K, and Kuroda S.
    Cytokine-dependent activation of JAK-STAT pathway in Saccharomyces cerevisiae.
    Biotechnol. Bioeng. 113, 1796-1804 (2016) [PubMed]
  7. Yoshimoto N., and Kuroda, S.
    High-throughput analysis of mammalian receptor tyrosine kinase activation in yeast cells.
    Methods Mol. Biol. 1487, 35-52 (2017) [PubMed]