「難切削材の加工」

工作班 機械回路工作掛  大西 政義



1.はじめに

 本研究所の研究分野は広範囲であり実験装置は多種多様で、かつ斬新なものが多い。 近年、超高真空・高温等の雰囲気中での理工学実験装置の依頼が多く、その中で使用する部品も耐熱怯や高温強度に優れた材料が必要とされる。 これらの材料の中には難切削材が多々含まれており、その加工にはそれ相応の手段が必要である。 今回、このような難切削材を金属工作室現有の工作機械で加工した実例を紹介する。

2.難削材の諸特性(難削性)と切削に及ぼす影響

  (1)難削材の諸特性

 タイトルには、切削が難しい材料ということで「難切削材」としたが、ー般的には「難削材」といわれており、以後「難削材」と表現を統一する。
 難削材を加工するためには、難削材個々の特性(難削性)を理解することが重要である。
 表−1に種々の難削材の諸特性(難削性)とその材料例を示す。


難削材の諸特性(難削性) 打    料    例
熱伝導性が低い 超耐熱合金・チタン合金・ステンレス
加工硬化性が大きい 耐熱鋼・高マンガン鋼
延性が大きい 純ニッケル・純銅・純アルミ・純鉄
熱膨張率が大きい ステンレス鋼・オ−ステナイト系
アブレッシブ物質を含有  高Siアルミ合金・複合材料・ハイス
高抗張力 高張力鋼・ダイス鋼 
工具材種との親和 大 純チタン・ステンレス鋼・チタン合金・超耐熱鋼 
方向性がある  FRM・高Siアルミ合金
高硬度・高脆性 セラミックス・ガラス

表−1 種々の難削材の諸特性(難削性)とその材料例

 このように種々の材料が難削性をもち、切削条件を悪化させ加工を困難にしている。 また、表−1には挙げていないが、超微細形状加工を行う場合や超精密 加工を行う場合も切削条件が厳しく、難削材の領域に属するものである。

  (2)難削材が切削に及ぼす影響

 切削時の問題(トラブル)要因は、難削材個々の難削性によるも のである。
 表−2に難削材の難削性と切削時のトラブル要因を示す。
 これら難削材に見られる個々の特性を知り、 それぞれの切削工具に 及ぼす影響を少なくする切削条件を設定する ことが必要である。


難   削   性 切削時のトラブル要因
 高靭性 切削面 ・悪
アブレッシブな物質含有(Si) 加工精度 ・低
高引張強度、高弾性率 加工変形 ・大
高硬度 切屑処理 ・悪
熱伝導率・低 工具寿命 ・短
熱変形・大 刃先摩耗・大
加工硬化性・大 チッヒ°ング ・大
工具材料との親和性・大 切削抵抗 ・大
工具材料との反応性・大  切削熱発生・高

表−2 難削性と切削時のトラブル要因



3.難削材に適した切削条件

 機械加工を行う上で重要な切削条件を順に挙げると、工作機械の剛性・保持具 の剛性・クーラント(冷却装置)・切削速度・切削工具等がある。

  ・工作機械の剛性

 工作機械の剛性は、機械加工をする上で全ての精度がここで決まると言っても 過言ではない。工作機械の自重が軽いと、重い被削物を加工するときや高速回 転で加工するとき心が振れてしまい高精度の加工ができない。  また、据付けも しっかり行わないと振れの原因につながる。  したがって、自重の重い据付けの しっかりした工作機械が望ましい。  当工作室では、自重の軽い汎用工作機械が ただ置かれている状態なので通常の工作には十分だが、より高精度な加工を行う ことは難しい。

  ・保持具の剛性

 保持具の剛性は、切削を行う切削工具を保持する部分であり、振れ精度・送り 精度に関わる重要な役割を担っている。

  ・ク−ラント(冷却装置)

 ク−ラントは、難切削材の加工の場合特に重要な位置を占めている。  個々の 難削性の違いにより、供給方法や冷却液の種類を変えないと、逆に精度を悪くしたり冷却液と被削材の化学反応につながったりするからである。当工作室では、汎用工作機械のため、ク−ラントの設備がないので乾切削を行っているが、必要に応じてミスト・エア−による冷却を行っている。

  ・切削速度

 工作物を加工する場合、原理的には切削速度を上げれば仕上げ面はきれいになりそうだが、実際は先に述べたような機械の剛性不足による被削物の振れや切削面の摩擦等により逆に仕上げ面が悪くなることがある。個々の機械の剛性や、被削物の違いにより、最適な切削速度を選定することが重要である。

  ・切削工具

 被削物に接して実際に加工を行っているのが切削工具であり、種々の切削条件を改善することで難削材の加工も可能になる。
 切削工具の材質について適した条件を考えると、チップの材質は高温硬度の高いものが適しており、CBN焼結体がその代表的なものである。
 近年、コ−テッド超硬合金も高温硬度及び耐摩耗特性に優れており、被削物の材質の違いによって選択することが望ましい。 あと、加工硬化しやすい難削材 には、切削抵抗を考慮してポジティブなすくい角が有効であり、高靭性な超微粒子合金やコーテッドハイスなどが選択される場合が多い。
 最近は、超微粒子合金の開発が進んで靭性かつ耐摩耗特性が高度化しており、この表面にTiNなどのPVDコ−テイング処理を施すことで耐溶着性、および 耐磨耗特性などに優れた、ポジティブなすくい角の切れ刃が可能になる。
 CBN焼結体は、切削時に刃先で発生する800℃〜1000℃程度の高温度における硬度が他の工具材種に比べて最高となる特性を有している。 とくに高硬度鋼 などの硬度が高い被削材の切削には、CBN焼結体が最適である。
 ダイヤモンド焼結体は、チタン材のように超硬合金・工具材料などと拡散現象を発生しやすいものには有効である。 また、切れ刃先端部がシャープになるた め、純銅などの軟材質の精密切削加工には最適な工具材種である。
 この他に、上記以外の工具材種でも切れ刃形状や最適な切削条件を選定することで難削材を加工することが出来る。

4.工作室現有の工作機械による旋削加工

 これまでに述べてきたことをふまえて、工作室現有の旋盤とフライス盤で難削 材の旋削加工を試みた。被削材は、近年高真空・高温度の雰囲気中で使用する試料ホルダ−等の製作依頼が多いが、その材質として、よく使われるモリブデンを被削材として選択した。

  (1)旋盤によるモリブデンの加工

 モリブデンを以下の条件で旋削加工を試みた。
・φ20mmのモリブデン丸棒を使用
・3通りの切削速度(200・370・740回転/min)で端面削りを行う
・チップホルダーに固定されたチップ刃先は、毎回新しい部分を使用
・送り速度を0.05mm/1回転とし、他の切削条件は変えない

旋削加工を行った様子を、写真−1に示す。

   写真−1端面削りの仕上げ面 左から740・370・200回転/min

 端面削りの仕上げ面は、切削速度を上げると仕上げ面が良くなっているのがわかる。
 しかし、これ以上切削速度を上げても、切削面の摩擦によってチップの刃先が摩耗し、さらに高速回転時に生じる振動の問題もあり良好な仕上げ面は得られない。
 特にモリブデンの場合、工具先端の刃先が鋭利でないとむしれが生じてしまう。
 さらに、端面切削を行うと中心に向かうほど周速度が低くなり切削速度が低下するので中心付近の仕上げ面が悪くなる。
 モリブデンを加工するためには、工具材種として、高温高硬度でかつ靭性のあるコ−テッド超硬合金やサーメット等を用いるのが望ましい。そして、常に良好な切削面を得るために適度な回転数と切り込み量、送り速度等の条件を適切に選択することでよい切削を行うことが出来る。

  (2)フライス盤によるモリブデンの加工

 モリブデンを以下の条件で旋削加工を試みた。
  ・使用するモリブデン板は4t×12×8(mm)
  ・縦・横フライス盤でそれぞれ2×2(mm)の溝削り加工を行う

 旋削加工を行った様子を写真−2に示す。

写真−2 左:縦フライス盤による加工     右:横フライス盤による加工

 モリブデン板を溝削り加工するとき、縦フライス盤を使用したφ2mmのエンドミルによる加工よりも横フライス盤を使用したφ100mmのメタルソーによる加工の方がせん断応力が加わり亀裂や破断の要因となってしまう。
 加工形状の違いによってフライス盤を使い分けたり、加工工程を含めて亀裂や破断を起こしにくい被削材の保持等を考えなくてはならない。 また、切り屑の処理も考えてク−ラントの方法を選択することも必要である。縦フライス盤による加工を行う場合、工具刃先は高速で回転しているので、切削油が浸透しやすいようミスト・エア−によるクーラントが望ましい。

5.まとめ

 今回、難削材の特性と切削におけるトラブルの要因を理解し、それに適した切削条件を選択し、金属工作室現有の工作機械で加工した実例を紹介した。
 難削材の切削を極めるには全ての最良の切削条件を選択し加工を行うことが重要だが、工作機械の剛性等いくつかの条件を選択できない状態にあるのが金属工作室の現状である。 今後、超微細加工や他の高温材料等の難削材やセラミックスを加工するには、剛性の高いNC旋盤やNCフライス盤、マシニングセンタな どの工作機械が必要になってくる。 しかし、現時点でそれはかなわないので、 ク−ラントや他の工作方法(研磨等)も含めていろいろな方向から難削材を加工する方法を検討していきたいと考える。

6.参考引用文献

 日刊工業新聞社 「機械技術」


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