大阪大学 産業科学研究所

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研究成果

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活性酸素検出の蛍光試薬Si-DMAを販売開始

励起分子化学研究分野の真嶋哲朗教授と金水縁特任助教らが開発した細胞内活性酸素の蛍光検出試薬が特許出願を経て、同仁化学研究所およびDojindo Molecular Technologies, Inc.によって2016年2月29日から世界中で販売が開始されました。

2014年真嶋哲朗教授らは、がん治療の光線力学療法(PDT)の実施した際、薬物から生成される活性酸素(以下、一重項酸素)を選択的に視覚化できる蛍光プローブ分子(化合物名、商品名ともにSi-DMA)を開発しました(2014年の研究成果)。PDTにおいて一重項酸素は、がん組織内に選択的に導入された薬物に光照射した際、薬物と周辺の酸素との光化学的な反応によって生成されます。このようにして生成された一重項酸素は高い反応性を持ち、がん細胞の細胞死を導き、最終的にがん組織の破壊をもたらします。よって、PDTの治療効率と一重項酸素の生成は密接な関係があり、治療中で発生する一重項酸素を検出および追跡できる技術開発が至急に求められていました。2014年真嶋哲朗教授らが開発したSi-DMAは、遠赤色の蛍光を発するケイ素ローダミン色素部位と一重項酸素を捕捉できる9,10-ジメチルアントラセン部位の共有結合によって形成され、細胞内外の一重項酸素を選択的に検出することに成功しました。

Si-DMA

Si-DMAによる一重項酸素検出法は米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc. 2014, 136(33), 11707)、および国内・国際特許出願(特願2014-124543、WO2015194606, A1)によって世界中の大学、研究所、企業の研究者へ紹介され、多くの研究者からの問い合わせがありました。そこで、2015年からSi-DMAに関する詳細な研究内容を同仁化学研究所へ提供することによって、研究室で行った化学合成および細胞内外での一重項酸素検出の全てが短期間で再現でき、Si-DMAの商品化が比較的短期間で達成できました。その結果、2016年2月から同仁化学研究所および米国法人Dojindo Molecular Technologies, Inc.から「Si-DMA For Mitochondria Singlet Oxygen Imaging」という商品名で販売が開始されました(2 μg / 20,000円)。現在、このSi-DMAという試薬は、細胞内外の一重項酸素の選択的検出に制限されず、物質材料などの分野での使用も検討されています。
以上の経緯は2016年3月1日、日刊工業新聞と化学工業日報に紹介されました。

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DNA、RNA、ペプチドの1分子シークエンシング技術

 1分子の塩基分子の電気伝導度を計測することで、DNAの塩基配列を決定する1分子シークエンサーは、遺伝情報に基づく早期診断・予後診断・創薬をはじめ、ウイルス検査や農作物の改良などの幅広い分野を革新する技術として期待されています。1分子シークエンサーは、新たな科学を切り拓くとともに、強大な市場を開拓すると予測されており、世界で開発競争が激化しています。これまで谷口研究室は、DNA、RNA、およびペプチドの1分子シークエンシグン技術を実証してきており、世界の開発競争を先導しています。今後、実証研究から応用研究へと発展する転換点にあたり、1分子シークエンサーの科学技術の開発状況を、理論と実験の両面から把握するとともに、実用化に向けた課題をまとめた研究論文を発表しました。

 研究成果は、2016年2月3日にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Nature Nanotechnology」のオンライン速報版で公開されました。本研究は、バイオナノテクノロジー研究分野と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のDi Ventra教授との共同研究であり、科学研究費補助金基盤研究(S)により、助成を受けたものです。

DNA、RNA、ペプチドの1分子シークエンシング技術

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特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体群の迅速な単離法を開発
~哺乳類の高度な匂い分子を認識する機構の解明に期待~

キーワード:医用検査・診断システム、センシングデバイス、匂いセンサー、嗅覚受容体、全自動1細胞解析単離装置

【本研究成果のポイント】
■肺がん患者の尿中に含まれる揮発性有機化合物*1に反応する嗅覚受容体群の網羅的な単離同定*2に成功。 
■これまで困難とされていた数万種類の匂い分子を嗅ぎ分ける嗅覚受容体群の識別機構の解明が可能に。
■任意の匂い分子だけを高度に検出するバイオセンサーの応用に期待。
■呈味分子*3等の受容体が未知のリガンド(オーファンリガンド)*4に反応する受容体の単離同定に期待。

 大阪大学産業科学研究所生体分子反応研究分野の黒田俊一教授・良元伸男特任准教授は、パナソニック株式会社先端研究本部の鈴木雅登主任研究員らとの共同研究で、特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体群の網羅的かつ迅速な単離方法を開発しました。
 これまでにも、匂い分子を検出するバイオセンサーは開発されてきましたが、哺乳類の嗅覚器官のように、何万種類もの匂い分子を嗅ぎ分けることができるバイオセンサーは存在しませんでした。一方で、哺乳類の限られた数の嗅覚受容体(ヒト396種類、マウス1130種類)による何万種類もの匂い分子の識別機構は不明なままでした。近年、1つの匂い分子を複数の嗅覚受容体が協調してパターン認識するという概念(嗅覚受容体レパートリ)が提唱されましたが、動物細胞による嗅覚受容体発現は難しく、様々な匂い分子を全嗅覚受容体に作用させて評価するのは困難でした。
 共同研究チームは、各嗅神経細胞は1種類の嗅覚受容体を発現することに着目し、樹脂製スライドガラス上の微細な穴(マイクロチャンバー)にマウス由来の嗅神経細胞群を1細胞ずつ納め、嗅覚受容体が匂い分子と反応すると細胞が蛍光を発する仕組みを作りました。そして、2013年に開発した全自動1細胞解析単離装置*5により、特定の匂い分子に反応する嗅神経細胞を網羅的に単離し、1細胞PCR*6により各細胞から嗅覚受容体遺伝子を単離同定しました。
 その結果、肺がん患者尿に含まれる揮発性有機化合物3種類(2-pentanone, pyridine, 2-butanone)に反応する嗅覚受容体群をそれぞれ単離することができ、各嗅覚受容体を発現する動物細胞は嗅神経細胞と同様に、それぞれの匂い分子に反応して蛍光を発しました。
 これらの成果は、従来大変な労力を要した特定の匂い分子が作 用する嗅覚受容体群(嗅覚受容体レパートリ)の網羅的解明を、簡便かつ迅速に同時に大量の処理・分析を可能とするとともに、任意の匂い分子だけを高度に検出するバイオセンサーへの応用が期待されます。
 本研究成果は、2016年2月2日(英国時間午前10時、日本時間:2月2日午後7時)に「Scientific Reports」のオンライン版(www.nature.com/articles/srep19934)で公開されました。

マウス嗅神経細胞群から特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体発現細胞の単離フロー
マウス嗅神経細胞群から特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体発現細胞の単離フロー
a)マウス嗅上皮から嗅神経細胞群単離,b-c)ナノチャンバー(直径10μmの穴が40万個空いているスライドグラス)に入れて整列させ還流装置を設置, d)匂い分子を還流させ、嗅覚受容体が反応すると蛍光を発する,e)全自動1細胞解析単離装置により光った細胞を単離,f)単離した嗅覚受容体発現細胞から1細胞PCRにより同受容体遺伝子を取得

【用語説明】
※1 揮発性有機化合物
揮発性有機化合物は常温で揮発し易い有機化合物の総称で、英語表記のVolatile Organic Compoundsの頭文字からVOCと表記されることが多い。呼気中には、口臭、代謝、疾患に由来する数多くの種類のVOCが含まれているが、これらの濃度は概ね数~数百ppbの低濃度である(ppbは10億分の1)。疾患に由来するVOCを特定し、低濃度VOCを高精度で分析する技術が確立されれば、新たな疾患のスクリーニングや診断技術となることが期待されている。

※2 単離同定
特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体をコードする遺伝子を取り出して、正体を明らかにすること。

※3 呈味分子
多様な味を構成する分子群(アミノ酸、核酸、糖、酸、化学物質等)。舌に存在する味蕾の味覚受容体(嗅覚受容体と異なり、様々なタイプが存在し、全容解明が遅れている)と反応する。

※4 リガンド(オーファンリガンド)
受容体を作動させる内在性の物質。対応する受容体が不明なリガンドをオーファンリガンド(孤児リガンド)と称する。

※5 全自動1細胞解析単離装置
大阪大学産業科学研究所の黒田と良元が中心となり、アズワン株式会社、古河電工株式会社と共同で開発した、莫大な細胞(数十万規模)から目的の細胞を1細胞ずつ全自動回収するロボット(2013年 日本ものづくり大賞経済産業大臣賞受賞;良元ら、Sci Rep. (2013) Vol 3 p.1191 (www.nature.com/articles/srep01191))。業界標準のセルソーターと異なり、目的細胞の存在比率が0.1%以下でも単離可能、細胞に対するストレスがない、経時的な細胞の変化(今回は、匂い分子刺激による蛍光変化)を指標に単離が可能など、が特徴である。

※6 1細胞PCR
1細胞に含まれる遺伝子(今回はDNA)から特定遺伝子をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により増幅して得る方法。1細胞由来の極微量サンプルを扱うこと以外は、基本的には通常のPCRと一緒である。

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谷口 正輝教授が「大学発ベンチャー表彰:科学技術振興機構理事長賞」に選ばれました。

 大阪大学 産業科学研究所の谷口正輝教授が、国立研究開発法人・科学技術振興機構が選定する「大学発ベンチャー表彰:科学技術振興機構理事長賞」に選ばれました。これは、国立研究開発法人・科学技術振興機構が、2014年より大学等の成果を活用して起業した大学発ベンチャーのうち、今後の活躍が期待される優れた大学発ベンチャーを表彰するとともに、特にその成長に寄与した大学や企業等を表彰するものです。

 クオンタムバイオシステムズ社は、本学・産業科学研究所の谷口教授と川合特任教授により創出された1分子シークエンサーの研究成果と知的財産権をもとに、大学の基礎研究を新産業へと発展させることを目的として設立した本学・新産業創出協働ユニットの第一号支援を受けて創業されたベンチャー企業です。

 クオンタムバイオシステムズ社、基礎研究から応用まで一貫した研究の出口にあり、ゲノムにもとづく医療・創薬に代表される個別化医療を実現する革新的技術が期待されています。本学においてなされた1分子科学という基礎研究が、社会的な波及効果をも持つ1分子シークエンサー技術へと発展しうることを示した意義は極めて大きく、クオンタムバイオシステムズ社の今後の更なる発展が期待されます。

 詳しくは、こちらをご覧ください。

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単分子ワイヤーの持つ高い熱電性能を実証

 大阪大学産業科学研究所バイオナノテクノロジー研究分野の筒井真楠准教授と谷口正輝教授は、マイクロヒータと機械的破断接合を組み合わせたデバイスを応用し、単分子ワイヤーが有する量子効果を利用した高い熱電特性を室温下で実証することに成功しました。
熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換することができる熱電デバイスは、ひとつの理想的なグリーンデバイスとしてその広い産業応用が期待されています。熱電デバイスが抱える大きな課題は、十分に高いエネルギー変換効率を与える優れた熱電特性を持つ材料の開発です。単分子ワイヤーは、量子閉じ込め効果を反映したユニークな電子構造を持つゼロ次元ナノ構造材料であり、その特徴を活かすことで、バルク材料では達成することが難しい高い熱電性能を実現できることが理論的に示されています。しかし、これまでの単分子計測技術では、単分子素子構造を安定に形成・保持することができず、そこに生じる微小な熱起電力を精度良く検出することが困難であった。そこで当方では、マイクロヒータと可変ナノギャップ電極系を組み合わせたナノデバイスを応用し、安定な単分子素子構造を作製すると共に、単分子電気伝導度と熱起電力の同時測定を実施しました。その結果、単分子ワイヤーを機械的に引張することで、そのパワーファクターが3桁に渡って制御可能であることを明らかにし、推定値ながら無次元性能指数が1以上という高い熱電性能を実証することができました。

 本研究成果は、戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)若手ICT研究者等育成型研究開発の委託研究に基づくものです。研究成果は、2015年6月26日にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されました。

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図1. 単分子熱電素子の模式図.

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固体中で非局所量子もつれを実証
-量子計算機等の基盤となるもつれ電子対発生器の実現へ大きな一歩-

 大阪大学産業科学研究所の大岩顕教授、金井康助教は、理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの樽茶清悟グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、量子効果デバイス研究チームのラッセル・スチュワート・ディーコン研究員、東京大学生産技術研究所の平川一彦教授らとの共同研究にて、超伝導体中の電子対、「クーパー対」を構成する2つのもつれた電子を2 つの量子ドットへそれぞれ分離し、その後、別の超伝導体の中で再び結合させて検出することに成功しました。このことにより、空間的に離れた2個の電子の間に非局所性の量子もつれ(非局所量子もつれ)が存在することを初めて確認しました。

 もつれた対状態にある2 つの粒子は、空間的に離れていても、1 つの粒子に対する測定が、瞬時に残りの粒子に影響します。この現象は量子状態の情報を長距離伝送する量子テレポーテーションの実験などで実証されています。こうした実験の鍵は、もつれた粒子対をどのように生成するかという点にあります。しかし、これまで、非局所量子もつれを固体デバイス中で実現するのは困難だとされてきました。これは、固体の中の電子は乱れた環境にあり、もつれ電子対を1 つだけ生成し、それを空間分離することが難しいためです。

 共同研究グループは、超伝導体中のクーパー対から1 つのもつれ電子対を取り出し、電子対を構成する2 つの電子を2 つの量子ドットへそれぞれ分離する新しいナノデバイスを開発しました。そして、分離した電子を別の超伝導体中で再び結合したときに生じる超伝導電流を観測することで、空間的に離れた2個の電子スピンの間に非局所量子もつれが存在することを初めて確認しました。

この成果は、量子計算機や量子通信などの基盤となる、もつれ電子対発生器の実現に向け重要なステップとなります。

 本研究は、科学技術振興機構(JST)の国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)日独共同研究「ナノエレクトロニクス」の一環として行われました。

 本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(7 月1 日付け)に掲載されました。

 詳しくは、プレスリリースをご覧ください。

ht_20150701a
開発したナノデバイスの概念図
矢印は「もつれ電子対」の流れを表している。2 つの超伝導体の間には、2 個の量子ドットがあり、もつれ電子対を構成する電子を1個ずつ、それぞれの量子ドットに分離できる。

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活性酸素検出の蛍光試薬Si-DMAを販売開始

励起分子化学研究分野の真嶋哲朗教授と金水縁特任助教らが開発した細胞内活性酸素の蛍光検出試薬が特許出願を経て、同仁化学研究所およびDojindo Molecular Technologies, Inc.によって2016年2月29日から世界中で販売が開始されました。

2014年真嶋哲朗教授らは、がん治療の光線力学療法(PDT)の実施した際、薬物から生成される活性酸素(以下、一重項酸素)を選択的に視覚化できる蛍光プローブ分子(化合物名、商品名ともにSi-DMA)を開発しました(2014年の研究成果)。PDTにおいて一重項酸素は、がん組織内に選択的に導入された薬物に光照射した際、薬物と周辺の酸素との光化学的な反応によって生成されます。このようにして生成された一重項酸素は高い反応性を持ち、がん細胞の細胞死を導き、最終的にがん組織の破壊をもたらします。よって、PDTの治療効率と一重項酸素の生成は密接な関係があり、治療中で発生する一重項酸素を検出および追跡できる技術開発が至急に求められていました。2014年真嶋哲朗教授らが開発したSi-DMAは、遠赤色の蛍光を発するケイ素ローダミン色素部位と一重項酸素を捕捉できる9,10-ジメチルアントラセン部位の共有結合によって形成され、細胞内外の一重項酸素を選択的に検出することに成功しました。

Si-DMA

Si-DMAによる一重項酸素検出法は米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc. 2014, 136(33), 11707)、および国内・国際特許出願(特願2014-124543、WO2015194606, A1)によって世界中の大学、研究所、企業の研究者へ紹介され、多くの研究者からの問い合わせがありました。そこで、2015年からSi-DMAに関する詳細な研究内容を同仁化学研究所へ提供することによって、研究室で行った化学合成および細胞内外での一重項酸素検出の全てが短期間で再現でき、Si-DMAの商品化が比較的短期間で達成できました。その結果、2016年2月から同仁化学研究所および米国法人Dojindo Molecular Technologies, Inc.から「Si-DMA For Mitochondria Singlet Oxygen Imaging」という商品名で販売が開始されました(2 μg / 20,000円)。現在、このSi-DMAという試薬は、細胞内外の一重項酸素の選択的検出に制限されず、物質材料などの分野での使用も検討されています。
以上の経緯は2016年3月1日、日刊工業新聞と化学工業日報に紹介されました。

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DNA、RNA、ペプチドの1分子シークエンシング技術

 1分子の塩基分子の電気伝導度を計測することで、DNAの塩基配列を決定する1分子シークエンサーは、遺伝情報に基づく早期診断・予後診断・創薬をはじめ、ウイルス検査や農作物の改良などの幅広い分野を革新する技術として期待されています。1分子シークエンサーは、新たな科学を切り拓くとともに、強大な市場を開拓すると予測されており、世界で開発競争が激化しています。これまで谷口研究室は、DNA、RNA、およびペプチドの1分子シークエンシグン技術を実証してきており、世界の開発競争を先導しています。今後、実証研究から応用研究へと発展する転換点にあたり、1分子シークエンサーの科学技術の開発状況を、理論と実験の両面から把握するとともに、実用化に向けた課題をまとめた研究論文を発表しました。

 研究成果は、2016年2月3日にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Nature Nanotechnology」のオンライン速報版で公開されました。本研究は、バイオナノテクノロジー研究分野と、カリフォルニア大学サンディエゴ校のDi Ventra教授との共同研究であり、科学研究費補助金基盤研究(S)により、助成を受けたものです。

DNA、RNA、ペプチドの1分子シークエンシング技術

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特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体群の迅速な単離法を開発
~哺乳類の高度な匂い分子を認識する機構の解明に期待~

キーワード:医用検査・診断システム、センシングデバイス、匂いセンサー、嗅覚受容体、全自動1細胞解析単離装置

【本研究成果のポイント】
■肺がん患者の尿中に含まれる揮発性有機化合物*1に反応する嗅覚受容体群の網羅的な単離同定*2に成功。 
■これまで困難とされていた数万種類の匂い分子を嗅ぎ分ける嗅覚受容体群の識別機構の解明が可能に。
■任意の匂い分子だけを高度に検出するバイオセンサーの応用に期待。
■呈味分子*3等の受容体が未知のリガンド(オーファンリガンド)*4に反応する受容体の単離同定に期待。

 大阪大学産業科学研究所生体分子反応研究分野の黒田俊一教授・良元伸男特任准教授は、パナソニック株式会社先端研究本部の鈴木雅登主任研究員らとの共同研究で、特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体群の網羅的かつ迅速な単離方法を開発しました。
 これまでにも、匂い分子を検出するバイオセンサーは開発されてきましたが、哺乳類の嗅覚器官のように、何万種類もの匂い分子を嗅ぎ分けることができるバイオセンサーは存在しませんでした。一方で、哺乳類の限られた数の嗅覚受容体(ヒト396種類、マウス1130種類)による何万種類もの匂い分子の識別機構は不明なままでした。近年、1つの匂い分子を複数の嗅覚受容体が協調してパターン認識するという概念(嗅覚受容体レパートリ)が提唱されましたが、動物細胞による嗅覚受容体発現は難しく、様々な匂い分子を全嗅覚受容体に作用させて評価するのは困難でした。
 共同研究チームは、各嗅神経細胞は1種類の嗅覚受容体を発現することに着目し、樹脂製スライドガラス上の微細な穴(マイクロチャンバー)にマウス由来の嗅神経細胞群を1細胞ずつ納め、嗅覚受容体が匂い分子と反応すると細胞が蛍光を発する仕組みを作りました。そして、2013年に開発した全自動1細胞解析単離装置*5により、特定の匂い分子に反応する嗅神経細胞を網羅的に単離し、1細胞PCR*6により各細胞から嗅覚受容体遺伝子を単離同定しました。
 その結果、肺がん患者尿に含まれる揮発性有機化合物3種類(2-pentanone, pyridine, 2-butanone)に反応する嗅覚受容体群をそれぞれ単離することができ、各嗅覚受容体を発現する動物細胞は嗅神経細胞と同様に、それぞれの匂い分子に反応して蛍光を発しました。
 これらの成果は、従来大変な労力を要した特定の匂い分子が作 用する嗅覚受容体群(嗅覚受容体レパートリ)の網羅的解明を、簡便かつ迅速に同時に大量の処理・分析を可能とするとともに、任意の匂い分子だけを高度に検出するバイオセンサーへの応用が期待されます。
 本研究成果は、2016年2月2日(英国時間午前10時、日本時間:2月2日午後7時)に「Scientific Reports」のオンライン版(www.nature.com/articles/srep19934)で公開されました。

マウス嗅神経細胞群から特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体発現細胞の単離フロー
マウス嗅神経細胞群から特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体発現細胞の単離フロー
a)マウス嗅上皮から嗅神経細胞群単離,b-c)ナノチャンバー(直径10μmの穴が40万個空いているスライドグラス)に入れて整列させ還流装置を設置, d)匂い分子を還流させ、嗅覚受容体が反応すると蛍光を発する,e)全自動1細胞解析単離装置により光った細胞を単離,f)単離した嗅覚受容体発現細胞から1細胞PCRにより同受容体遺伝子を取得

【用語説明】
※1 揮発性有機化合物
揮発性有機化合物は常温で揮発し易い有機化合物の総称で、英語表記のVolatile Organic Compoundsの頭文字からVOCと表記されることが多い。呼気中には、口臭、代謝、疾患に由来する数多くの種類のVOCが含まれているが、これらの濃度は概ね数~数百ppbの低濃度である(ppbは10億分の1)。疾患に由来するVOCを特定し、低濃度VOCを高精度で分析する技術が確立されれば、新たな疾患のスクリーニングや診断技術となることが期待されている。

※2 単離同定
特定の匂い分子に反応する嗅覚受容体をコードする遺伝子を取り出して、正体を明らかにすること。

※3 呈味分子
多様な味を構成する分子群(アミノ酸、核酸、糖、酸、化学物質等)。舌に存在する味蕾の味覚受容体(嗅覚受容体と異なり、様々なタイプが存在し、全容解明が遅れている)と反応する。

※4 リガンド(オーファンリガンド)
受容体を作動させる内在性の物質。対応する受容体が不明なリガンドをオーファンリガンド(孤児リガンド)と称する。

※5 全自動1細胞解析単離装置
大阪大学産業科学研究所の黒田と良元が中心となり、アズワン株式会社、古河電工株式会社と共同で開発した、莫大な細胞(数十万規模)から目的の細胞を1細胞ずつ全自動回収するロボット(2013年 日本ものづくり大賞経済産業大臣賞受賞;良元ら、Sci Rep. (2013) Vol 3 p.1191 (www.nature.com/articles/srep01191))。業界標準のセルソーターと異なり、目的細胞の存在比率が0.1%以下でも単離可能、細胞に対するストレスがない、経時的な細胞の変化(今回は、匂い分子刺激による蛍光変化)を指標に単離が可能など、が特徴である。

※6 1細胞PCR
1細胞に含まれる遺伝子(今回はDNA)から特定遺伝子をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)により増幅して得る方法。1細胞由来の極微量サンプルを扱うこと以外は、基本的には通常のPCRと一緒である。

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谷口 正輝教授が「大学発ベンチャー表彰:科学技術振興機構理事長賞」に選ばれました。

 大阪大学 産業科学研究所の谷口正輝教授が、国立研究開発法人・科学技術振興機構が選定する「大学発ベンチャー表彰:科学技術振興機構理事長賞」に選ばれました。これは、国立研究開発法人・科学技術振興機構が、2014年より大学等の成果を活用して起業した大学発ベンチャーのうち、今後の活躍が期待される優れた大学発ベンチャーを表彰するとともに、特にその成長に寄与した大学や企業等を表彰するものです。

 クオンタムバイオシステムズ社は、本学・産業科学研究所の谷口教授と川合特任教授により創出された1分子シークエンサーの研究成果と知的財産権をもとに、大学の基礎研究を新産業へと発展させることを目的として設立した本学・新産業創出協働ユニットの第一号支援を受けて創業されたベンチャー企業です。

 クオンタムバイオシステムズ社、基礎研究から応用まで一貫した研究の出口にあり、ゲノムにもとづく医療・創薬に代表される個別化医療を実現する革新的技術が期待されています。本学においてなされた1分子科学という基礎研究が、社会的な波及効果をも持つ1分子シークエンサー技術へと発展しうることを示した意義は極めて大きく、クオンタムバイオシステムズ社の今後の更なる発展が期待されます。

 詳しくは、こちらをご覧ください。

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単分子ワイヤーの持つ高い熱電性能を実証

 大阪大学産業科学研究所バイオナノテクノロジー研究分野の筒井真楠准教授と谷口正輝教授は、マイクロヒータと機械的破断接合を組み合わせたデバイスを応用し、単分子ワイヤーが有する量子効果を利用した高い熱電特性を室温下で実証することに成功しました。
熱エネルギーを直接電気エネルギーに変換することができる熱電デバイスは、ひとつの理想的なグリーンデバイスとしてその広い産業応用が期待されています。熱電デバイスが抱える大きな課題は、十分に高いエネルギー変換効率を与える優れた熱電特性を持つ材料の開発です。単分子ワイヤーは、量子閉じ込め効果を反映したユニークな電子構造を持つゼロ次元ナノ構造材料であり、その特徴を活かすことで、バルク材料では達成することが難しい高い熱電性能を実現できることが理論的に示されています。しかし、これまでの単分子計測技術では、単分子素子構造を安定に形成・保持することができず、そこに生じる微小な熱起電力を精度良く検出することが困難であった。そこで当方では、マイクロヒータと可変ナノギャップ電極系を組み合わせたナノデバイスを応用し、安定な単分子素子構造を作製すると共に、単分子電気伝導度と熱起電力の同時測定を実施しました。その結果、単分子ワイヤーを機械的に引張することで、そのパワーファクターが3桁に渡って制御可能であることを明らかにし、推定値ながら無次元性能指数が1以上という高い熱電性能を実証することができました。

 本研究成果は、戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)若手ICT研究者等育成型研究開発の委託研究に基づくものです。研究成果は、2015年6月26日にネイチャー・パブリッシング・グループ(NPG)「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開されました。

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図1. 単分子熱電素子の模式図.

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固体中で非局所量子もつれを実証
-量子計算機等の基盤となるもつれ電子対発生器の実現へ大きな一歩-

 大阪大学産業科学研究所の大岩顕教授、金井康助教は、理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの樽茶清悟グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科教授)、量子効果デバイス研究チームのラッセル・スチュワート・ディーコン研究員、東京大学生産技術研究所の平川一彦教授らとの共同研究にて、超伝導体中の電子対、「クーパー対」を構成する2つのもつれた電子を2 つの量子ドットへそれぞれ分離し、その後、別の超伝導体の中で再び結合させて検出することに成功しました。このことにより、空間的に離れた2個の電子の間に非局所性の量子もつれ(非局所量子もつれ)が存在することを初めて確認しました。

 もつれた対状態にある2 つの粒子は、空間的に離れていても、1 つの粒子に対する測定が、瞬時に残りの粒子に影響します。この現象は量子状態の情報を長距離伝送する量子テレポーテーションの実験などで実証されています。こうした実験の鍵は、もつれた粒子対をどのように生成するかという点にあります。しかし、これまで、非局所量子もつれを固体デバイス中で実現するのは困難だとされてきました。これは、固体の中の電子は乱れた環境にあり、もつれ電子対を1 つだけ生成し、それを空間分離することが難しいためです。

 共同研究グループは、超伝導体中のクーパー対から1 つのもつれ電子対を取り出し、電子対を構成する2 つの電子を2 つの量子ドットへそれぞれ分離する新しいナノデバイスを開発しました。そして、分離した電子を別の超伝導体中で再び結合したときに生じる超伝導電流を観測することで、空間的に離れた2個の電子スピンの間に非局所量子もつれが存在することを初めて確認しました。

この成果は、量子計算機や量子通信などの基盤となる、もつれ電子対発生器の実現に向け重要なステップとなります。

 本研究は、科学技術振興機構(JST)の国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)日独共同研究「ナノエレクトロニクス」の一環として行われました。

 本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(7 月1 日付け)に掲載されました。

 詳しくは、プレスリリースをご覧ください。

ht_20150701a
開発したナノデバイスの概念図
矢印は「もつれ電子対」の流れを表している。2 つの超伝導体の間には、2 個の量子ドットがあり、もつれ電子対を構成する電子を1個ずつ、それぞれの量子ドットに分離できる。

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