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重金属を固体中で選択的に吸収する材料の発見

平成28年12月12日

重金属を固体中で選択的に吸収する材料の発見
-電子機器からの新たな金属回収法などの開発に期待-

【概要】

 越湖 将貴(えこ まさたか) 工学研究科(元)修士課程学生、矢島 健(元)博士研究員(現所属は東京大学)、Yaoqing Zhang(元)博士研究員、陰山 洋 教授は、大阪大学産業科学研究所の小口 多美夫教授らとの共同研究によって、チタンの層状化合物が、カドミウムなどの重金属を選択的かつ、低温で吸収できることを発見しました。
 電子機器などの廃棄物からの金属回収は、エネルギー資源の確保と環境汚染の防止の観点から極めて重要です。金属が物質中に取り込まれる反応(以下、インターカレーション反応)は、グラファイトや粘土など様々な層状化合物において観測されていますが、これまでは特定の金属を選択的に吸収させることは困難でした。
 本研究では、チタンの層状化合物が、カドミウム、銅、亜鉛を選択的に吸収することを発見しました。また、従来の物質と異なり、固体中でわずかに温度を上げるだけでインターカレーション反応が進行することもわかりました。本研究で得られた知見は、溶液を利用しない新しいタイプの金属回収の可能性を示しただけでなく、固体燃料電池など、固体中での金属の拡散に関わる現象の理解に新しい視座を与えるものです。
 本研究成果は 12 月 14 日午後 7 時、英国科学誌 Nature Communicationsに掲載されました。

図 80℃という低温で個体のままカドミウムを吸収する層状物

図 80℃という低温で個体のままカドミウムを吸収する層状物質 Ti2PTe2

【背景】

 資源の乏しい我が国では、希少金属の安定的な確保が産業界の競争力を維持するための大きな課題とされています。そのため、電子機器などの廃棄物は希少金属の貴重な資源です。また、廃棄物に含まれる有毒金属の除去も、環境汚染の防止という観点からも見過ごせません。
 このように金属のリサイクル技術の開発は大きなテーマですが、なかでも複数の金属元素の中から特定の金属元素のみを吸収させることのできる材料の開発が求められています。これまで、ゼオライトなどの多孔質の無機材料が金属回収に適するとされ、多くの研究開発が行なわれてきました。それらの無機材料の中には、特定の金属元素を効率的に吸収するものもありますが、一般的には選択性に乏しいことが知られていました。

【研究手法・成果】

 本研究で着目した物質は Ti2PTe2(Ti: チタン、P:リン、Te:テルル)という組成をもつ層状化合物です。研究の開始当初は、金属を挿入することでこの物質を超伝導にすることを目指していましたが、その過程で周期表の元素を徹底的に探索した結果、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)のみを選択的に吸収する特性があることが分かりました。
 一般に、層状化合物は、層と層との間が弱い相互作用でつながっているため、様々な金属元素だけではなく、大きな有機分子も吸収されることが知られています。したがって、層状化合物であるにも関わらず、本物質において選択的な金属吸収が見出だされたことは大変不思議な現象といえます。理論計算の結果、チタンが異なるアニオン1(リンとテルル)によって結合している局所構造が特殊な電子構造を与え、結果としてこのような選択的な金属吸収を可能にしていることがわかりました。チタンがテルルのみによって結合されている層状化合物TiTe2ではこのような選択性は観測されません。
 もう一つの興味深い点は、本物質の金属吸収が固体の状態でありながら低温で進行することです。例えば、カドミウムは摂氏80度、亜鉛は摂氏100度程度で吸収されはじめます。固体では、金属原子の拡散が反応の障壁になることが知られています。酸化物をはじめとする無機物質が、1000度程度の高温で合成されるのは、金属原子の拡散を促進するためです。本物質のように低温で重金属が拡散する例は殆どなく、固体燃料電池の低温動作化や効率化などにも新しい展開をもたらすことが期待されます。

1 負電荷をもったイオン。

【波及効果、今後の予定】

 本研究は、新しいタイプの金属回収の方法論を提示したことになります。カドミウムは電子材料には不可欠であり、有毒元素であるにも関わらず年々利用量は増加しています。複数の金属からなる身の回りの材料から、必要な(あるいは不必要な)金属を取り出す技術は今後益々重要になってくるものと思われます。本研究で得られた知見を使って、その他の有毒金属や希少金属を選択的に吸収できる材料の開発研究が進むことが期待されます。
 近年、複数のアニオンから構成される複合アニオン化合物から、超伝導、光触媒、蓄電池などで優れた機能を出すことが報告されています。本研究の Ti2PTe2 で見出だされた選択的金属吸収は、チタンが複数のアニオン(リンとテルル)によって結合していることが鍵となっています。今後、複合アニオン化合物は次世代材料として様々な機能分野で活躍すると考えられます。

【研究プロジェクトについて】

 本研究の初期は科学技術振興機構・最先端研究開発支援プログラム「新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用」、中期は戦略的創造研究推進事業「異常原子価および特異配位構造を有する新物質の探索と新機能の探求」、後期は科学研究費補助金・基盤研究A「層状無機化合物における金属の選択的インターカレーションの化学」、新学術領域研究「複合アニオン化合物の創製と新機能」(研究後期)の支援を受けて行われました。

【論文タイトルと著者】

タイトル:Selective and Low Temperature Transition Metal Intercalation in Layered Tellurides
著者:Takeshi Yajima, Masaki Koshiko, Yaoqing Zhang, Tamio Oguchi, Wen Yu, Daichi Kato, Yoji Kobayashi, Yuki Orikasa, Takafumi Yamamoto, Yoshiharu Uchimoto, Mark A. Green, Hiroshi Kageyama
掲載誌:Nature Communications

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重金属を固体中で選択的に吸収する材料の発見

平成28年12月12日

重金属を固体中で選択的に吸収する材料の発見
-電子機器からの新たな金属回収法などの開発に期待-

【概要】

 越湖 将貴(えこ まさたか) 工学研究科(元)修士課程学生、矢島 健(元)博士研究員(現所属は東京大学)、Yaoqing Zhang(元)博士研究員、陰山 洋 教授は、大阪大学産業科学研究所の小口 多美夫教授らとの共同研究によって、チタンの層状化合物が、カドミウムなどの重金属を選択的かつ、低温で吸収できることを発見しました。
 電子機器などの廃棄物からの金属回収は、エネルギー資源の確保と環境汚染の防止の観点から極めて重要です。金属が物質中に取り込まれる反応(以下、インターカレーション反応)は、グラファイトや粘土など様々な層状化合物において観測されていますが、これまでは特定の金属を選択的に吸収させることは困難でした。
 本研究では、チタンの層状化合物が、カドミウム、銅、亜鉛を選択的に吸収することを発見しました。また、従来の物質と異なり、固体中でわずかに温度を上げるだけでインターカレーション反応が進行することもわかりました。本研究で得られた知見は、溶液を利用しない新しいタイプの金属回収の可能性を示しただけでなく、固体燃料電池など、固体中での金属の拡散に関わる現象の理解に新しい視座を与えるものです。
 本研究成果は 12 月 14 日午後 7 時、英国科学誌 Nature Communicationsに掲載されました。

図 80℃という低温で個体のままカドミウムを吸収する層状物

図 80℃という低温で個体のままカドミウムを吸収する層状物質 Ti2PTe2

【背景】

 資源の乏しい我が国では、希少金属の安定的な確保が産業界の競争力を維持するための大きな課題とされています。そのため、電子機器などの廃棄物は希少金属の貴重な資源です。また、廃棄物に含まれる有毒金属の除去も、環境汚染の防止という観点からも見過ごせません。
 このように金属のリサイクル技術の開発は大きなテーマですが、なかでも複数の金属元素の中から特定の金属元素のみを吸収させることのできる材料の開発が求められています。これまで、ゼオライトなどの多孔質の無機材料が金属回収に適するとされ、多くの研究開発が行なわれてきました。それらの無機材料の中には、特定の金属元素を効率的に吸収するものもありますが、一般的には選択性に乏しいことが知られていました。

【研究手法・成果】

 本研究で着目した物質は Ti2PTe2(Ti: チタン、P:リン、Te:テルル)という組成をもつ層状化合物です。研究の開始当初は、金属を挿入することでこの物質を超伝導にすることを目指していましたが、その過程で周期表の元素を徹底的に探索した結果、カドミウム(Cd)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)のみを選択的に吸収する特性があることが分かりました。
 一般に、層状化合物は、層と層との間が弱い相互作用でつながっているため、様々な金属元素だけではなく、大きな有機分子も吸収されることが知られています。したがって、層状化合物であるにも関わらず、本物質において選択的な金属吸収が見出だされたことは大変不思議な現象といえます。理論計算の結果、チタンが異なるアニオン1(リンとテルル)によって結合している局所構造が特殊な電子構造を与え、結果としてこのような選択的な金属吸収を可能にしていることがわかりました。チタンがテルルのみによって結合されている層状化合物TiTe2ではこのような選択性は観測されません。
 もう一つの興味深い点は、本物質の金属吸収が固体の状態でありながら低温で進行することです。例えば、カドミウムは摂氏80度、亜鉛は摂氏100度程度で吸収されはじめます。固体では、金属原子の拡散が反応の障壁になることが知られています。酸化物をはじめとする無機物質が、1000度程度の高温で合成されるのは、金属原子の拡散を促進するためです。本物質のように低温で重金属が拡散する例は殆どなく、固体燃料電池の低温動作化や効率化などにも新しい展開をもたらすことが期待されます。

1 負電荷をもったイオン。

【波及効果、今後の予定】

 本研究は、新しいタイプの金属回収の方法論を提示したことになります。カドミウムは電子材料には不可欠であり、有毒元素であるにも関わらず年々利用量は増加しています。複数の金属からなる身の回りの材料から、必要な(あるいは不必要な)金属を取り出す技術は今後益々重要になってくるものと思われます。本研究で得られた知見を使って、その他の有毒金属や希少金属を選択的に吸収できる材料の開発研究が進むことが期待されます。
 近年、複数のアニオンから構成される複合アニオン化合物から、超伝導、光触媒、蓄電池などで優れた機能を出すことが報告されています。本研究の Ti2PTe2 で見出だされた選択的金属吸収は、チタンが複数のアニオン(リンとテルル)によって結合していることが鍵となっています。今後、複合アニオン化合物は次世代材料として様々な機能分野で活躍すると考えられます。

【研究プロジェクトについて】

 本研究の初期は科学技術振興機構・最先端研究開発支援プログラム「新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用」、中期は戦略的創造研究推進事業「異常原子価および特異配位構造を有する新物質の探索と新機能の探求」、後期は科学研究費補助金・基盤研究A「層状無機化合物における金属の選択的インターカレーションの化学」、新学術領域研究「複合アニオン化合物の創製と新機能」(研究後期)の支援を受けて行われました。

【論文タイトルと著者】

タイトル:Selective and Low Temperature Transition Metal Intercalation in Layered Tellurides
著者:Takeshi Yajima, Masaki Koshiko, Yaoqing Zhang, Tamio Oguchi, Wen Yu, Daichi Kato, Yoji Kobayashi, Yuki Orikasa, Takafumi Yamamoto, Yoshiharu Uchimoto, Mark A. Green, Hiroshi Kageyama
掲載誌:Nature Communications