大阪大学 産業科学研究所

contact
home
english
HOME > HotTopics > 塗るだけ!セラミックス超薄膜コーティング

塗るだけ!セラミックス超薄膜コーティング

平成30年7月23日

塗るだけ!セラミックス超薄膜コーティング

【成果のポイント】

◆ 原料を混ぜて「塗るだけ」でセラミックス超薄膜をコーティングできる技術を開発
◆ 有機太陽電池セルの緩衝層(電子・正孔輸送層)として役立つことを証明
◆ 従来法の加熱焼結したセラミックス薄膜で作製した有機太陽電池と同程度の変換効率を実現
◆ 加熱焼結プロセスを省略することができるため、大幅な製造コストの削減に期待

【概要】

 大阪大学産業科学研究所の菅原徹助教と金沢大学の辛川誠准教授らの研究グループは、「原料を塗るだけでセラミックス超薄膜をコーティングする技術」を世界で初めて開発しました。
 近年、有機太陽電池の緩衝層(電子・正孔輸送層)※1には、セラミックス薄膜を用いた研究開発が盛んになっています。従来のセラミックス薄膜の製造プロセスでは、加熱またはそれに代わる技術(例えばUV照射など)により焼結と呼ばれる工程を経る必要がありました。
 今回、菅原助教と辛川准教授らの研究グループは、原料を混ぜて塗るだけで、ナノメートルスケール(10億分の1メートル)のセラミックス超薄膜を成膜することに成功しました。この超薄膜の膜厚は、およそ5から100ナノメートルの間で精密に制御することができます。この成膜技術を使って、有機太陽電池を作製し変換効率を調べたところ、約20ナノメートルの超薄膜で最も高い変換効率を示しました。また、加熱焼結によって成膜されたセラミックス薄膜を用いて作製した有機太陽電池と比較して同程度の変換効率を実現しました。
 これにより、これまで加熱が必要であったセラミックス薄膜の成膜工程から加熱工程を省略することができるため、製造プロセスの大幅な短時間化と低コスト化が期待されます。
 本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、7月20日(金)午前10時(日本時間)に公開されました。

有機太陽電池の写真とのセル構造の概念図。

有機太陽電池の写真とのセル構造の概念図。光照射中と非照射時における電流密度電圧(JV)特性。

【研究の背景】

 これまで、セラミックス薄膜は、一般に300℃を超える熱エネルギーもしくは、それに代わるエネルギー(例えば、高強度なUVやレーザー、超音波などのエネルギー)を与えることで基材(基板)へ強固に製膜され、半導体や絶縁体など機能性薄膜として活用されることが知られていました。本研究では、有機太陽電池に活用される緩衝層を応用例のひとつとして、【原料を混ぜて塗るだけ】で、基板となる電極へセラミックス薄膜をコーティングする技術開発に取り組みました。
 近年、有機太陽電池開発では、光を吸収する有機半導体の研究だけでなく、半導体の原理によって光エネルギーから生成した電子と正孔を効率よく電極へ分離する緩衝層材料とそのデバイス設計が盛んに研究されています。その中でも、塗布型酸化膜のコーティング技術開発は、もっとも注目される技術です。これまで、有機太陽電池の緩衝層に用いられる酸化膜においても、高強度なUVや白色光を照射することで、電極基板へ酸化膜を常温でコーティングする技術が発表されてきました。
 菅原助教らの研究グループでは、辛川准教授(金沢大学)と共同で、有機金属分解(MOD)法※2により、世界で初めて常温常圧で塗布するだけで酸化膜をコーティングする技術を開発しました。成膜された酸化膜を有機太陽電池に応用し変換効率を用いて酸化膜の半導体特性を評価したところ、加熱焼結技術によって成膜された酸化膜と同等以上の能力を発揮することがわかりました。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】

 本研究成果により、「加熱プロセス」の製造工程が1プロセス省略され簡略化できます。また、電子デバイスの製造工程において、消費エネルギーが削減されるだけでなく、電子デバイスの製造時間の短縮が期待されます。これにより、デバイスの製造コストが削減され、デバイス単価を抑えることでセラミックス薄膜を用いた次世代エレクトロニクスデバイスの社会実装が促進されます。

【特記事項】

 本研究成果は、2018年7月20日(金)10時(米国東部英国時間)〔7月20日(金)18時(日本時間)〕 に英国米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

  タイトル:“Thin Film of Amorphous Zinc Hydroxide Semiconductor for Optical Devices with an Energy-Efficient Beneficial Coating by Metal Organic Decomposition Process”
  著者名:Makoto Karakawa, Tohru Sugahara, Yukiko Hirose, Katsuaki Suganuma and Yoshio Aso.

  なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の「研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)」、「科研費 挑戦的萌芽研究(16K13637)、(15K13772)」、および文部科学省(MEXT)の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出 ダイナミック・アライアンス」の一環として行われました。さらに、公益財団法人「大倉和親記念財団」および「住友財団」からの助成を受けて行われました。

【用語解説】

※1 緩衝層(電子・正孔輸送層)
  太陽電池の光吸収層(光電変換層)で発生した電子および正孔を、電子は陰極(アノード)へ、正孔は陽極(カソード)へそれぞれ効率よく輸送するために設けられる層。

※2 有機金属分解(MOD)法
  金属元素を含む有機化合物を主成分とする溶液(前駆体溶液)を印刷塗布し、乾燥・焼成などの熱(またはそれと同等の)処理を施すことで金属や酸化物を形成する方法。

【研究者のコメント】

  所属する 菅沼研究室では、2013年頃から「塗布型セラミックスとその電子デバイス応用」を研究コンセプトとして、研究開発に取り組んできました。低温焼結技術を用いたナノ構造薄膜の成膜とそのガスセンサ応用は、2016年頃に紙面 科学誌で発表することができました。しかし、時代背景もあり、本研究課題は、太陽電池の変換特性こそ早期に見出すことができたものの、その原理など学術的意義の解明が非常に難しく、紙面での発表時期が遅延いたしました。一方、この技術は、有機太陽電池だけでなく、その他の電子デバイスとして応用することが可能であり、今後の開発展開に多くの可能性を持っています。この技術が実用化されるためには、安定性、信頼性などのハードルがあり、多くの研究者や開発者の手を経て、社会実装へ進むと考えています。本研究で、見出した実用化の種を研究半ばで断念することのないよう、今後いっそう努力してい行きたいと思います。

 

大阪大学 産業科学研究所

contact home english
HOME > HotTopics > 塗るだけ!セラミックス超薄膜コーティング

塗るだけ!セラミックス超薄膜コーティング

平成30年7月23日

塗るだけ!セラミックス超薄膜コーティング

【成果のポイント】

◆ 原料を混ぜて「塗るだけ」でセラミックス超薄膜をコーティングできる技術を開発
◆ 有機太陽電池セルの緩衝層(電子・正孔輸送層)として役立つことを証明
◆ 従来法の加熱焼結したセラミックス薄膜で作製した有機太陽電池と同程度の変換効率を実現
◆ 加熱焼結プロセスを省略することができるため、大幅な製造コストの削減に期待

【概要】

 大阪大学産業科学研究所の菅原徹助教と金沢大学の辛川誠准教授らの研究グループは、「原料を塗るだけでセラミックス超薄膜をコーティングする技術」を世界で初めて開発しました。
 近年、有機太陽電池の緩衝層(電子・正孔輸送層)※1には、セラミックス薄膜を用いた研究開発が盛んになっています。従来のセラミックス薄膜の製造プロセスでは、加熱またはそれに代わる技術(例えばUV照射など)により焼結と呼ばれる工程を経る必要がありました。
 今回、菅原助教と辛川准教授らの研究グループは、原料を混ぜて塗るだけで、ナノメートルスケール(10億分の1メートル)のセラミックス超薄膜を成膜することに成功しました。この超薄膜の膜厚は、およそ5から100ナノメートルの間で精密に制御することができます。この成膜技術を使って、有機太陽電池を作製し変換効率を調べたところ、約20ナノメートルの超薄膜で最も高い変換効率を示しました。また、加熱焼結によって成膜されたセラミックス薄膜を用いて作製した有機太陽電池と比較して同程度の変換効率を実現しました。
 これにより、これまで加熱が必要であったセラミックス薄膜の成膜工程から加熱工程を省略することができるため、製造プロセスの大幅な短時間化と低コスト化が期待されます。
 本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、7月20日(金)午前10時(日本時間)に公開されました。

有機太陽電池の写真とのセル構造の概念図。

有機太陽電池の写真とのセル構造の概念図。光照射中と非照射時における電流密度電圧(JV)特性。

【研究の背景】

 これまで、セラミックス薄膜は、一般に300℃を超える熱エネルギーもしくは、それに代わるエネルギー(例えば、高強度なUVやレーザー、超音波などのエネルギー)を与えることで基材(基板)へ強固に製膜され、半導体や絶縁体など機能性薄膜として活用されることが知られていました。本研究では、有機太陽電池に活用される緩衝層を応用例のひとつとして、【原料を混ぜて塗るだけ】で、基板となる電極へセラミックス薄膜をコーティングする技術開発に取り組みました。
 近年、有機太陽電池開発では、光を吸収する有機半導体の研究だけでなく、半導体の原理によって光エネルギーから生成した電子と正孔を効率よく電極へ分離する緩衝層材料とそのデバイス設計が盛んに研究されています。その中でも、塗布型酸化膜のコーティング技術開発は、もっとも注目される技術です。これまで、有機太陽電池の緩衝層に用いられる酸化膜においても、高強度なUVや白色光を照射することで、電極基板へ酸化膜を常温でコーティングする技術が発表されてきました。
 菅原助教らの研究グループでは、辛川准教授(金沢大学)と共同で、有機金属分解(MOD)法※2により、世界で初めて常温常圧で塗布するだけで酸化膜をコーティングする技術を開発しました。成膜された酸化膜を有機太陽電池に応用し変換効率を用いて酸化膜の半導体特性を評価したところ、加熱焼結技術によって成膜された酸化膜と同等以上の能力を発揮することがわかりました。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】

 本研究成果により、「加熱プロセス」の製造工程が1プロセス省略され簡略化できます。また、電子デバイスの製造工程において、消費エネルギーが削減されるだけでなく、電子デバイスの製造時間の短縮が期待されます。これにより、デバイスの製造コストが削減され、デバイス単価を抑えることでセラミックス薄膜を用いた次世代エレクトロニクスデバイスの社会実装が促進されます。

【特記事項】

 本研究成果は、2018年7月20日(金)10時(米国東部英国時間)〔7月20日(金)18時(日本時間)〕 に英国米国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

  タイトル:“Thin Film of Amorphous Zinc Hydroxide Semiconductor for Optical Devices with an Energy-Efficient Beneficial Coating by Metal Organic Decomposition Process”
  著者名:Makoto Karakawa, Tohru Sugahara, Yukiko Hirose, Katsuaki Suganuma and Yoshio Aso.

  なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の「研究拠点形成事業(A.先端拠点形成型)」、「科研費 挑戦的萌芽研究(16K13637)、(15K13772)」、および文部科学省(MEXT)の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出 ダイナミック・アライアンス」の一環として行われました。さらに、公益財団法人「大倉和親記念財団」および「住友財団」からの助成を受けて行われました。

【用語解説】

※1 緩衝層(電子・正孔輸送層)
  太陽電池の光吸収層(光電変換層)で発生した電子および正孔を、電子は陰極(アノード)へ、正孔は陽極(カソード)へそれぞれ効率よく輸送するために設けられる層。

※2 有機金属分解(MOD)法
  金属元素を含む有機化合物を主成分とする溶液(前駆体溶液)を印刷塗布し、乾燥・焼成などの熱(またはそれと同等の)処理を施すことで金属や酸化物を形成する方法。

【研究者のコメント】

  所属する 菅沼研究室では、2013年頃から「塗布型セラミックスとその電子デバイス応用」を研究コンセプトとして、研究開発に取り組んできました。低温焼結技術を用いたナノ構造薄膜の成膜とそのガスセンサ応用は、2016年頃に紙面 科学誌で発表することができました。しかし、時代背景もあり、本研究課題は、太陽電池の変換特性こそ早期に見出すことができたものの、その原理など学術的意義の解明が非常に難しく、紙面での発表時期が遅延いたしました。一方、この技術は、有機太陽電池だけでなく、その他の電子デバイスとして応用することが可能であり、今後の開発展開に多くの可能性を持っています。この技術が実用化されるためには、安定性、信頼性などのハードルがあり、多くの研究者や開発者の手を経て、社会実装へ進むと考えています。本研究で、見出した実用化の種を研究半ばで断念することのないよう、今後いっそう努力してい行きたいと思います。