大阪大学 産業科学研究所

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2021.04.23
自己発電・蓄電機能付きシート型生体センサを実現 ―将来的に充電不要の生体計測センサ実現に期待―

発表のポイント

・1µm厚の極薄基板上にシート型圧電システムを実現し、脈拍などの生体情報センシング、および環境発電・蓄電に成功しました
・強誘電性ポリマー搭載のシート型圧電システムは、圧力・歪(ひずみ)・振動に対して高感度・高速応答を示し、さらに優れた機械的柔軟性を備えています
・将来、肌に密着しても装着感なく正確な生体情報モニタリングを可能とする、充電不要のシート型センサシステムの実現が期待されます

概要

 大阪大学産業科学研究所の植村隆文特任准教授(常勤)、荒木徹平助教、関谷毅教授らの研究チームは、オーストリアのJoanneum研究所のAndreas Petritz(アンドレアス ペトリッツ)博士、Esther Karner-Petritz(エースタ カーナー・ペトリッツ)博士、Philipp Schäffner(フィリップ シャフナー)博士、Barbara Stadlober(バーバラ シュタットローバー)主任の研究チームと共に、極薄シート型圧電システムを開発することに成功しました(図1)。

図1

図1:環境発電・蓄電機能を有するシート型圧電システム(集積システムのイメージ図)

 これまで、強誘電性ポリマー※1、有機ダイオード※2、蓄電キャパシタ※3などが集積化された電子デバイスは、超柔軟性(厚み10 µm以下、曲げ半径1 mm以下)を実現できていませんでした。
 今回、研究グループは、1 µm厚のポリマー基板上に強誘電性ポリマー、有機ダイオード、蓄電キャパシタなどを集積化する技術開発を行い、極薄シート型圧電システムを実現しました。脈拍など生体情報のモニタリングや、同一システムによる自己発電にも成功しました。将来、肌に密着しても装着感なく生体計測できる、充電不要のシート型生体センサシステム(図2)の実現が期待されます。

図2

図2:シート型圧電システムの写真
肌に貼付けている様子。極めて薄く柔らかいため、肌に密着しても装着感なく正確に生体情報(脈波やそれに付随する情報)モニタリングが可能。発電・蓄電機能を同時に搭載。

 本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、4月23日(金)18時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

 Internet of Things(IoT)デバイスは、我々の健康を支える医療・ヘルスケア技術との融合によりDigital Healthcare※4として身近になりつつあります。最近では、Digital Healthcareに向けたエレクトロニクス技術として、生体適合性の材料、省エネシステム、自律駆動システムなどの研究開発が進んでいます。
 しかし、これまでの電子デバイスは折り曲げることが容易ではなく、皮膚など身体の表面や複雑な形状の上に付けることが難しいという課題がありました。機械的柔軟性に優れるシート型電子デバイスは、人の肌に貼り付けても、密着するため違和感なく装着することが可能です。
 今回、研究グループは、1 µm厚のポリマー基板上に強誘電性ポリマー、有機ダイオード、蓄電キャパシタ等の薄膜電子部品を集積化する技術開発を行い、極薄シート型圧電システムを実現しました。このシート型圧電システムは、圧力・歪・振動に対して高感度(15 nC/N)、高速応答(20 ms/N)でありながら、優れた機械的柔軟性(曲げ半径 40 µm)を備えています。これにより、肌表面での脈拍などの生体情報モニタリングに成功し、さらに3 mW/cm3を超える環境発電と蓄電に成功しました。関節部に貼り付けることで、約200 mJ/dayの発電ができると試算しています。
 将来、肌に密着しても装着感ない計測を可能とする、充電不要のシート型センサシステムの実現が期待されます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、Digital Healthcareだけでなく、ロボティクスや土木インフラなどあらゆる分野において利用可能となる、省電力な自律型センシングシステムの創出が期待できます。

特記事項

 本研究成果は、2021年4月23日(金)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:"Imperceptible energy harvesting device and biomedical sensor based on ultraflexible ferroelectric transducers and organic diodes"
著者名:Andreas Petritz, Esther Karner-Petritz, Takafumi Uemura, Philipp Schäffner, Teppei Araki, Barbara Stadlober, Tsuyoshi Sekitani
DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-021-22663-6

 なお、本研究は、Austrian Science Fund、JST COI、JSPS 科研費、NEDO事業の一環として行われました。

用語説明

※1 強誘電性ポリマー
電気エネルギーと機械エネルギーの相互変換機能(圧電性)と、温度変化によって電荷の状態が変化する機能(焦電性)を兼ね備えた有機高分子材料のこと。本研究では溶液からの塗布成膜が可能なPoly(vinylidene difluoride:trifluoroethylene) [P(VDF:TrFE)70:30]を強誘電性ポリマー材料として使用している。

※2 有機ダイオード
電気が流れる半導体部分に有機材料を用い、一方向にしか電流を流さない整流機能を備えた素子。本研究では、有機トランジスタをダイオードとして動作させることにより、発電素子からの交流電流を直流電流に変換する整流回路として活用している。

※3 蓄電キャパシタ
発電によって得られた電気エネルギーを蓄えるためのキャパシタ(コンデンサ)。本研究では、発電素子、整流回路を通して得られた直流電流を充電するための素子として活用されている。

※4 Digital Healthcare
ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析、人工知能、治療アプリなどのデジタルテクノロジーを活用した次世代のヘルスケア・医療技術のこと。

コメント

 日本とオーストリアによる国際的な共同研究により、とても薄くて柔らかい圧電システムが出来ました。圧電システムは、身体にぺたりと貼り付けるだけで、小さな振動、圧力、歪を正しく測る電子機器となります。例えば、首の左右に圧電システムを二つ貼り付けると、脳への血流を計測できます。左右の血流が異なる場合、脳の血管が詰まっていることを知らせてくれるかもしれません。新型コロナウイルスにより、気軽に病院へ行くことができなくなる中、このような手軽な生体計測機器があれば、ご家庭で新しい健康管理ができるようになると期待しています。ヘルスケア分野だけでなく、ロボティクスや土木インフラなどあらゆる分野における計測器として使用されると期待しています。