近年の1細胞遺伝子解析技術の進歩により、同じ組織に含まれる同一種の細胞にも個性があり、時間的・空間的に不均一であることが分かってきました。これまでに、この不均一性が、発生や免疫などの重要な生命現象や、病態、治療効果などに深く関わっていることが明らかにされています。そこで、細胞一つ一つの性質(表現型)の鍵となる遺伝子を調べて、創薬や診断の新しい標的にする試みが広く行われています。我々のグループでは、独自に開発してきた光応答性の細胞付着表面を使って、どんな細胞も望みの個数ずつ平坦な基材の上に精緻に並べることができます。この細胞アレイ(細胞が高密度に並べられたもの)を用いると、顕微鏡を用いて膨大な数の単一細胞の振る舞いや単一細胞ペアの相互作用などを大規模に観察できます。さらに、光を用いて簡単かつ迅速に望みの細胞だけを取り外すこともできるため、時間変化観察画像の特徴を指標に不均一な細胞集団の中から特徴的な細胞だけを選択して回収し、遺伝子解析を行うワークフローの開発を行っています。
この技術を用いて、免疫細胞とがん細胞との一つずつの相互作用をモニターし、免疫細胞のがん細胞傷害性を1細胞レベルで大規模に調べる技術を開発し、医療応用に向けて研究しています。
ヒト血液由来のNK細胞(無染色)ががん細胞(緑色染色)を殺傷する様子を1細胞観察(〇で囲った箇所)。
(膜に傷害を受けたがん細胞からは緑色色素が漏洩して消光)
光応答性細胞付着表面について、当時の担当学生のインタビュー記事を化学ポータルサイトのChem-Stationで読むことができます。開発過程の研究の様子がよくわかります。