単層カーボンナノチューブ(SWNT)の評価方法として非常に有用なものの中にラマン散乱法があります。図1に我々の研究室で作製されたSWNTからのラマンスペクトルを示します(励起光源:Arイオンレーザ・波長514.5 nm)。SWNTからのラマンスペクトルは低波数側と高波数側から得られる情報が違います。図1の赤色の線で示した高波数側のスペクトルには「G band」、「D band」と呼ばれる二種類のピークが主に観測されます。この内、1590 cm−1付近に見られる「G band」はグラファイト(正確には炭素原子の六角格子内振動)に起因するピークであるが、SWNTはグラファイトと違って筒状の閉じた構造を取るためにゾーンフォールディングが生じ分裂して観測されます。この分裂したモードはG bandの肩となって観測されます。また、1350 cm−1付近に見られる「D band」と呼ばれるピークは、SWNT内の欠陥やアモルファスカーボン等のダングリングボンドを持つ炭素原子に起因するピークです。これらのことから高波数側のピークからはSWNTの結晶性が評価できます。すわなち、G/Dの強度比が大きければ大きいほど結晶性のいいSWNTが作製できたことになります。図1の青線で示した低波数側のピークはSWNTに特有なピークで、RBM(Radial breathing mode)モードと呼ばれます。このモードはナノチューブの直径が全対称的に伸縮する振動モードに対応するため、そのシフト量はおおまかにナノチューブの直径に反比例し、よく使われる量としてd(nm)=248/ν(cm−1)があり、図1でもこの式を利用しています。