第8回ホームカミングデー:ご挨拶

最近の情報科学とりわけAI分野の全世界における進展には目を見張るべきものがあります。 産業科学研究所は、早くから知能科学における研究部門を設置し、この分野における学術的発展に寄与するだけでなく、産業応用への道を展開してきました。本年のホームカミングデイの講演では、産研における知能科学研究分野の教授でいらっしゃった元田浩先生にお話を聞かせていただけることになりました。

元田先生は、産研の教授時代、データマイニング・機械学習の分野で多大な業績を上げられただけでなく、退職後も情報科学分野の研究を続けられ、今回お話しされるSocial Network 研究へと手を伸ばされました。今回の学術講演会のテーマ「生成系AI と産業科学」にも広くかかわりを持つ興味あるお話を聞けることと期待しています。

(会長:川合 知二)

ホームカミング・特別講演

「Social Network に魅せられて - 産研退職後に趣味で始めた新たな楽しみ -」

大阪大学名誉教授
元田 浩

産研を退職してはや17 年になる。退職後、AOARD というちょっと変わった機関に12 年勤務した。そこも5 年前に退職し、人生最後のフェーズを楽しんでいる。AOARD は米国政府国防省管轄の空軍研究所の下部組織であり、そこではProgram Manager として、かなりの裁量権を与えられ働くことができた。支援したProgram の1つにSocial Network 研究があり、それに魅せられ自分も研究に参加するようになった。産研退職後に趣味で始めた研究であり、勤務先の本来の仕事とは切り離す必要があったため、産研招聘教授の肩書が有り難かった。Social Network は奥が深い。情報拡散をどのようにモデル化するか、実際のデータからどのようにモデルパラメータを学習すればよいのか、学習したモデルを使って何ができるのか、得られた手法をSpatial Network に拡張したらどうなるのか、などなど、興味の赴くまま紆余曲折しながらも楽しみながら少しづつ進めていった。数千台の計算機を使って、ペタバイト級のデータからテラ単位の数のパラメータを学習できる機械学習の現状を鑑みると、今となってはスケールの小さい古い話になってしまうが、10 年以上楽しむことができた良い経験となった。その間、苦労したこと、この研究で得た新たな知見などの幾つかを紹介したい。

学術講演会:ご挨拶

生成AI と産業科学

ChatGPT に代表される生成系AI が誕生し、生活に急速に浸透し始めています。ヒトや社会に対して提案をしてくれるこのような生成系AI を活用すると科学技術の発展はどのように変わってい くでしょうか?本学術講演会では、当該分野に詳しい3名の有識者を招き、生成系AI の現在や将来展望、課題や活用方法、そして産業科学の在り方について議論することを目的にいたします。併せて所内の気鋭の研究者によるポスター発表を通して、産業科学の研究開発成果、課題、将来展望について意見交換する機会といたします。

(世話人代表:関谷 毅)

学外講演

「AI のサイエンスとサイエンスのためのAI」

東京大学大学院工学系研究科 教授
川原 圭博

ChatGPT のような大規模言語モデル(LLM)は、文章の翻訳や言い換えにおける精度改善に留まらず、対話、要約、生成などにおいて従来不可能とされたレベルを達成しています。LLM は原理上テ キストの続き」を予測するだけだが、データから法則性を導き出し、具体的な結果を生み出す能力を有するに至った。こうした性質はLLM が科学技術全体に不可欠なツールとなる可能性を有している。

 本講演では、深層学習の発展と複数の技術革新が組み合わさることでLLM が現れた過程を探るとともに、技術的あるいは社会的な課題と将来について深く掘り下げ、その可能性と課題を共有します。

学外講演

「生成AI から医学のためのAI へ」

慶応義塾大学医学部・大学院医学研究科
拡張知能医学講座 教授
桜田 一洋

 ChatGPT に代表される基盤モデルの進展から、「AI for Science(科学のためのAI)」という新たな科学の開拓が急速に進んでいる。これまで複雑な自然現象や社会現象を表現する方法として、法則に基づいて模倣するシミュレーションが中心的な役割を担ってきた。しかし、最近大量のデータの学習によって開発されたサロゲートモデルが、シミュレーションモデルを凌駕する能力を有していることが示されている。この成果をふまえて、自然科学の領域では、アミノ酸配列、ゲノム配列、RNA seq、fMRI などのデータに言語モデルを応用し、高精度の予測や新たな機能を持った材料の生成などが実現している。

 我々は「AI for Medicine(医学のためのAI)」の標準的な方法の開発に取り組んでいる。本講演ではまず医学医療領域のサロゲートモデルを開発する方法を解説し、このモデルによってどのような診断や予後予測が可能になったのかを紹介する。次に我々が挑戦している物理学的な制約をサロゲートモデルに組み込む取り組みを紹介する。

学術講演

「サイバー・フィジカル指向AI +生成AI による産業ビジネスの未来」

第1研究部門(情報・量子科学系) 教授
鷲尾 隆

 

急速に進化するAI が科学や社会、そして産業を急速に大きく変えつつある。

変革の鍵は、リアル世界の人間活動とサイバー世界の情報処理を結びつけ統合する、センシング、 コントロール、インターフェイス、デジタルツインなどから成るサイバー・フィジカルシステム(CPS)である。生成AI など最新のAI 進化はさらにCPS を高度化し、新しい産業ビジネスのあり方を可能にして行く。

本講演では、新たなサイバー・フィジカル指向AI と生成AI とは何か?何を可能にして行くのか?を実例で紹介し、それによって未来の産業・ビジネスがどう作り変えられて行くのかを展望する。

スケジュール

●ホームカミングデイ
13:00 挨  拶  産研同窓会副会長 川合 知二

13:10 特別講演  大阪大学名誉教授 元田 浩
「Social Network に魅せられて - 産研退職後に趣味で始めた新たな楽しみ -」


14:10 休  憩



●学術講演会
14:20 開会挨拶  産業科学研究所 所長 関野 徹

14:30 学外講演  東京大学大学院工学系研究科 教授 川原 圭博
「AI のサイエンスとサイエンスのためのAI」

15:00 学外講演  慶應義塾大学医学部・医学研究科 教授 桜田 一洋
「生成AI から医学のためのAI へ」

15:30 学術講演  産業科学研究所 教授 鷲尾 隆
「サイバー・フィジカル指向AI +生成AI による産業ビジネスの未来」

16:00 休  憩



16:10 パネルディスカッション 
17:25 閉会挨拶 産業科学研究所 副所長 田中 秀和



●ポスターセッション
13:00~ 掲示、 17:30~ 発表



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