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熱を伝える紙を開発!

平成30年12月19日

熱を伝える紙を開発!

《研究成果のポイント》

◆ セルロースが高熱伝導性を有することを発見。
◆ これまで紙は断熱材として認識されていたが、セルロースナノファイバー※1を高密度のシート材料へと成形することで高い熱伝導性が発揮することを見出した。
◆ 電子機器用の熱拡散シートや人体・環境に優しい熱感応部材として活用に期待される。

【概要】

 大阪大学産業科学研究所の上谷幸治郎助教らの研究グループは、天然のバイオマス資源から抽出したセルロースナノファイバーを用いて、高い熱伝導性を示す紙材料「ナノペーパー※2」を2015年に世界で初めて開発しました。特に、ホヤの殻から抽出したナノファイバーで作ったナノペーパーが、プラスチックより約10倍高い熱伝導性を示します。(2015年7月2日「Biomacromolecules」掲載)
 本シーズ材料により、高密度実装による熱問題が課題となっている電子デバイスにおいて、高効率の排熱を可能にする基材の開発が期待されています。

高い熱伝導性を発揮するセルロースナノファイバーとそのフィルム材料

図1
高い熱伝導性を発揮するセルロースナノファイバーとそのフィルム材料

【研究の背景】

 これまで紙や衣服に日常的に活用されるセルロースは断熱材と考えられていました。従来のセルロース繊維は、空気層を含みやすいパルプの構造を保っているため、断熱紙や断熱建材などとして用いられ、高い断熱性を発揮することが知られています。そのためか、セルロース自身の熱伝導特性についてはあまり注目されておらず、これまで未解明となっていました。
 上谷助教らの研究グループでは、2015年に、天然に製造される形態のセルロースナノファイバーを抽出し、高密度に充填させたナノペーパーを作製することで、熱伝導性を実測しました。その結果、ホヤ殻から作ったナノペーパーが石油系プラスチックフィルムの10倍程度高い熱伝導率※3を示し、従来のセルロースは断熱素材であるという認識を覆しました。この高い性能は、セルロース分子鎖が伸び切って配列した高結晶体であることに由来すると見られ、セルロースの隠れた性能を明らかにすることに成功しました。
 その後も、上谷助教らの研究グループは、この「熱拡散する紙材料」を元にして、透明樹脂を複合した「透明でも伝熱する紙」(2016年10月4日「Journal of Materials Chemistry C」)や、繊維の配向性を制御することによる「熱の流れを制御する紙」を開発しました(2017年3月20日「ACS Macro Letters」掲載)。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】

 本研究成果により、従来断熱材としてのみ認知されていたセルロースを初めて「伝熱材料」として活用できることが見込まれます。すなわち、セルロースは断熱材から伝熱材まで幅広い「熱用途」に対して包括的に使えるようになります。一例として、フレキシブル電子デバイスの効率的な排熱が可能な熱拡散シートや、人体に触れる衣服・寝具・医療器具類の熱感応部材(冷たさや暖かさをすばやく感じさせる部材)としての活用が期待できます。

【特記事項】

 本研究成果は、以下の科学誌に公開されています。

●高い熱伝導性を示す紙材料「ナノペーパー」開発
掲載誌:「Biomacromolecules」(2015年7月2日)
タイトル:“Crystallite Size Effect on Thermal Conductive Properties of Nonwoven Nanocellulose Sheets”
著者名:Kojiro Uetani, Takumi Okada and Hideko Oyama

●透明樹脂を複合した「透明でも伝熱する紙」の開発
掲載誌:「Journal of Materials Chemistry C」(2016年10月4日)
タイトル:“Thermally conductive and optically transparent flexible films with surface-exposed nanocellulose skeletons”
著者名:Kojiro Uetani, Takumi Okada and Hideko Oyama

●繊維の配向性を制御することによる「熱の流れを制御する紙」の開発
掲載誌:「ACS Macro Letters」(2017年3月20日)
タイトル:“In-Plane Anisotropic Thermally Conductive Nanopapers by Drawing Bacterial Cellulose Hydrogels”
著者名:Kojiro Uetani, Takumi Okada and Hideko Oyama

●セルロースおよび紙に関する伝熱性知見ならびに熱用途材料開発の世界的動向に関する総説
掲載誌:「Science and Technology of Advanced Materials」(Taylor & Francis、2017年11月3日、オープンアクセス誌)
タイトル:“Thermal conductivity analysis and applications of nanocellulose materials”
著者名:Kojiro Uetani, Kimihito Hatori

 なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(研究活動スタート支援:26892027・若手研究B:17K18169)の一環として行われました。

【用語解説】

※1 セルロースナノファイバー
  植物の細胞壁などを形作るセルロースの天然構造単位です。セルロース分子鎖同士がまっすぐ伸び切って結晶となっており、高い強度を発揮します。

※2 ナノペーパー
  セルロースナノファイバーを成膜した紙材料です。通常のパルプ紙と比べて、繊維の太さが1万分の1程度のため、非常に緻密で強度が高い紙であり、透明にもなることが知られています。

※3 熱伝導率
  物質内の熱の伝わりやすさを表す数値。値が大きいときは高伝熱性、ゼロに近い場合は断熱性であることを意味します。

【研究者のコメント】

 研究当初は、予期せず発見された高い熱伝導特性がどのような「役に立つ」のか、具体的に説明できず苦労しました。その特性を活用した例がこれまで存在しなかったためです。しかし、素材の応用性を真に拡大するためには、絶対基盤となる知見を開拓する基礎研究が不可欠です。誰も見たことのない未来の産業応用を見据えて「社会を豊かにする基礎研究」を推進します。

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熱を伝える紙を開発!

平成30年12月19日

熱を伝える紙を開発!

《研究成果のポイント》

◆ セルロースが高熱伝導性を有することを発見。
◆ これまで紙は断熱材として認識されていたが、セルロースナノファイバー※1を高密度のシート材料へと成形することで高い熱伝導性が発揮することを見出した。
◆ 電子機器用の熱拡散シートや人体・環境に優しい熱感応部材として活用に期待される。

【概要】

 大阪大学産業科学研究所の上谷幸治郎助教らの研究グループは、天然のバイオマス資源から抽出したセルロースナノファイバーを用いて、高い熱伝導性を示す紙材料「ナノペーパー※2」を2015年に世界で初めて開発しました。特に、ホヤの殻から抽出したナノファイバーで作ったナノペーパーが、プラスチックより約10倍高い熱伝導性を示します。(2015年7月2日「Biomacromolecules」掲載)
 本シーズ材料により、高密度実装による熱問題が課題となっている電子デバイスにおいて、高効率の排熱を可能にする基材の開発が期待されています。

高い熱伝導性を発揮するセルロースナノファイバーとそのフィルム材料

図1
高い熱伝導性を発揮するセルロースナノファイバーとそのフィルム材料

【研究の背景】

 これまで紙や衣服に日常的に活用されるセルロースは断熱材と考えられていました。従来のセルロース繊維は、空気層を含みやすいパルプの構造を保っているため、断熱紙や断熱建材などとして用いられ、高い断熱性を発揮することが知られています。そのためか、セルロース自身の熱伝導特性についてはあまり注目されておらず、これまで未解明となっていました。
 上谷助教らの研究グループでは、2015年に、天然に製造される形態のセルロースナノファイバーを抽出し、高密度に充填させたナノペーパーを作製することで、熱伝導性を実測しました。その結果、ホヤ殻から作ったナノペーパーが石油系プラスチックフィルムの10倍程度高い熱伝導率※3を示し、従来のセルロースは断熱素材であるという認識を覆しました。この高い性能は、セルロース分子鎖が伸び切って配列した高結晶体であることに由来すると見られ、セルロースの隠れた性能を明らかにすることに成功しました。
 その後も、上谷助教らの研究グループは、この「熱拡散する紙材料」を元にして、透明樹脂を複合した「透明でも伝熱する紙」(2016年10月4日「Journal of Materials Chemistry C」)や、繊維の配向性を制御することによる「熱の流れを制御する紙」を開発しました(2017年3月20日「ACS Macro Letters」掲載)。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】

 本研究成果により、従来断熱材としてのみ認知されていたセルロースを初めて「伝熱材料」として活用できることが見込まれます。すなわち、セルロースは断熱材から伝熱材まで幅広い「熱用途」に対して包括的に使えるようになります。一例として、フレキシブル電子デバイスの効率的な排熱が可能な熱拡散シートや、人体に触れる衣服・寝具・医療器具類の熱感応部材(冷たさや暖かさをすばやく感じさせる部材)としての活用が期待できます。

【特記事項】

 本研究成果は、以下の科学誌に公開されています。

●高い熱伝導性を示す紙材料「ナノペーパー」開発
掲載誌:「Biomacromolecules」(2015年7月2日)
タイトル:“Crystallite Size Effect on Thermal Conductive Properties of Nonwoven Nanocellulose Sheets”
著者名:Kojiro Uetani, Takumi Okada and Hideko Oyama

●透明樹脂を複合した「透明でも伝熱する紙」の開発
掲載誌:「Journal of Materials Chemistry C」(2016年10月4日)
タイトル:“Thermally conductive and optically transparent flexible films with surface-exposed nanocellulose skeletons”
著者名:Kojiro Uetani, Takumi Okada and Hideko Oyama

●繊維の配向性を制御することによる「熱の流れを制御する紙」の開発
掲載誌:「ACS Macro Letters」(2017年3月20日)
タイトル:“In-Plane Anisotropic Thermally Conductive Nanopapers by Drawing Bacterial Cellulose Hydrogels”
著者名:Kojiro Uetani, Takumi Okada and Hideko Oyama

●セルロースおよび紙に関する伝熱性知見ならびに熱用途材料開発の世界的動向に関する総説
掲載誌:「Science and Technology of Advanced Materials」(Taylor & Francis、2017年11月3日、オープンアクセス誌)
タイトル:“Thermal conductivity analysis and applications of nanocellulose materials”
著者名:Kojiro Uetani, Kimihito Hatori

 なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(研究活動スタート支援:26892027・若手研究B:17K18169)の一環として行われました。

【用語解説】

※1 セルロースナノファイバー
  植物の細胞壁などを形作るセルロースの天然構造単位です。セルロース分子鎖同士がまっすぐ伸び切って結晶となっており、高い強度を発揮します。

※2 ナノペーパー
  セルロースナノファイバーを成膜した紙材料です。通常のパルプ紙と比べて、繊維の太さが1万分の1程度のため、非常に緻密で強度が高い紙であり、透明にもなることが知られています。

※3 熱伝導率
  物質内の熱の伝わりやすさを表す数値。値が大きいときは高伝熱性、ゼロに近い場合は断熱性であることを意味します。

【研究者のコメント】

 研究当初は、予期せず発見された高い熱伝導特性がどのような「役に立つ」のか、具体的に説明できず苦労しました。その特性を活用した例がこれまで存在しなかったためです。しかし、素材の応用性を真に拡大するためには、絶対基盤となる知見を開拓する基礎研究が不可欠です。誰も見たことのない未来の産業応用を見据えて「社会を豊かにする基礎研究」を推進します。