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@ 金属-絶縁体一次相転移を活用したスイッチ・不揮発メモリ双機能デバイスの創出

図1
Y. Tuji, T. Kanki et al., Appl. Phys. Exp. 12, 025003 (2019).


遷移金属酸化物は、外場により金属-絶縁体相転移を引き起こす材料が豊富にあります。
例えば、二酸化バナジウム(VO2)は、室温近傍で3桁程度の抵抗変化が現れることで良く知られた物質です。
VO2の薄膜化では、基板とのひずみや結晶成長様式が異なることが原因で単結晶であっても、必ずしも均一に急峻な相転移が起こるとは限りません。
図1左にある図は、単結晶VO2薄膜の相転移近傍でのコンダクティブAFM像になります。明るい金属相がナノレベルで構造化していることがわかります。この原因は、薄膜と基板との格子定数の違いからくる格子ひずみエネルギーが原因であり、結晶構造変化を伴った金属-絶縁体転移を起こすときに、ひずみによりVO2薄膜内に蓄えられる弾性エネルギーを最小化しようした結果、このような金属相と絶縁体相の周期構造が現れていると考えられます。ドメインの大きさは、おおよそ20nmであるため、20nmギャップ間隔を持つ電極を作成すると、一つのドメインが金属-絶縁体の二値をとる一次相転移であることがわかります(図1右)。
この二値化するドメインは、マイクロスケールの薄膜では同温度で均質に変化するのではなく、ばらつきを持っています。


図2

このばらつきを確認するには、電極間ギャップを拡げ無数のドメインがある状態で、電気伝導の温度特性をとってみるとよくわかります。
先ほどの100倍に拡げた2000nmの電極間ギャップでの電気伝導特性を見てみると(図2)階段状に小さな電気抵抗の飛びがいくつも見ることができます。
この現象は、温度というパラメータを変化させることによって見える現象です。
さらに、他のパラメータで相転移を見ることができると、デバイス化への道が開けそうです。



図3

温度パラメータから、プロトン濃度というパラメータに変えても大きな抵抗変化が起こります。
図3に見られるように、VO2薄膜にプロトンを挿入した場合、3桁に及ぶ低抵抗-高抵抗結晶構造変化が起きているのがわかります。
この現象は、水素雰囲気下でPt触媒を用いた時に起きた現象ですが、プロトンはH+の正イオンであることから、電界でプロトン濃度の制御をできるかもしれません。


図4

プロトン化したVO2をチャネルにゲート絶縁体膜を積層し、図4のようなトランジスタを作製しました。絶縁膜ゲートに電圧を加えると、電流は流れませんが、チャネル界面にはゲートからの侵入電場が形成されます。ゲート電圧をプラス、マイナスの制御を行うことで界面近傍のプロトンが原理的に移動します。


 図5

図6    図7

この原理により、スイッチと不揮発多値メモリ化する双機能を持つトランジスタが創出できました(図5、図6)。
このように、常誘電体を用いたゲート絶縁膜にも拘わらず不揮発メモリ化するということは、低抵抗VO2と高抵抗水素化HVO2構造との間に活性化エネルギーが存在していることになります。
この新しい原理のトランジスタでは、電流が流れず電圧のみで駆動することから、ほぼ無電力で動作する従来の不揮発メモリを遥かに凌駕する超省エネ駆動の多値メモリができると期待できます。
また、この原理の様相はニューロンのシナプス可塑性(記憶)の現象に似ており(図7)、膨大な量を必要とするニューラルコンピューティングの記憶を司る部分への活用や、情報処理機構とメモリが一体となった完全非ノイマン型のアーキテクチャーが将来描ける可能性を十分に持っています。

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