共同研究者
富士電機アドバンストテクノロジー(株) 栗林均、蛭田玲子、清水了典 (敬称略)
この課題は、富士電機アドバンストテクノロジーの栗林さん、蛭田さん、清水さんとの
共同研究として2001年から研究を行っている。富士電機アドバンストテクノロジーの清水さん
らは、トレンチMOSデバイスの作製プロセスにおいて、トレンチの
コーナー部分の丸め処理に高温水素アニール処理を導入することを検討しており、
その研究の一部として高温水素アニールによるコーナーラウンディングの物理的メカニズムを
解明するための研究がスタートした。
図は、Si(001)基板上に形成した深さ3ミクロン、幅1ミクロンのトレンチの水素アニール前後の
断面SEM像である。電気炉を用いて加熱している。この場合のアニール条件は、水素圧力40Torr、温度1000℃、
加熱時間10分である。高温水素アニールによって、トレンチのコーナーが丸められているのが
分かる。我々は、このようなトレンチコーナーのラウンディングに関して、マクロ変形のメカニズムと
トレンチ側壁の構造変化について実験とシミュレーションによって調べている。
我々は、トレンチ断面形状のマクロスケール変形についての実験結果を
Mullinsの連続体理論に基づいて解析した。解析では、特に、トレンチコーナー
の曲率半径のアニール時間依存性に注目した。右の図は、実験結果をまとめたものである。
図のSEM像はトレンチコーナーを拡大した
SEM像を見るとアニール時間の増加とともにラウンディングが進み、
曲率半径が大きくなっていることが分かる。グラフは、SEM像から測ったコーナーの
曲率(1/曲率半径)をアニール時間に対してプロットしたものであるが、
曲率がほぼ時間の-1/4乗に依存していることが分かる。このような時間依存性は、
Herringのスケーリング則やMullinsの理論によると、表面拡散によって形態変化が
起こる場合に現れることが知られている。この事から、水素アニールによるトレンチの
変形は主に表面拡散による物質輸送によって起こっているものと推測される。
Mullinsが提案した固体の構造変化を記述する連続体理論を使って
トレンチ変形の数値シミュレーションを行った。図は、表面拡散のみを考慮して
行った数値計算を実験と比較したものである。実験では、Si(001)基板上に形成した
サイズの異なるトレンチの列を、40Torrの水素ガス雰囲気で1150℃で3分間加熱して
変形させている。実験で観察される複雑な変形の様子がMullins理論に基づいた
シミュレーションにより良く再現できていることが分かる。