センター長挨拶 黒田俊一
今年創立80周年を迎える大阪大学産業科学研究所は、常に先進的な研究を先取りしてまいりました。情報科学分野におきましても例外ではなく、1974年には電子機器部門(角所研)を設置し音声情報処理を行うシステムの開発を行いました。その後、情報科学系研究室を3研究室に増やし、1995年には知識システム科学研究部門(4研究室が所属)を発足させ、我国の情報科学分野を牽引してまいりました。そして2019年2月には、データ駆動型研究の高まりを受けてトランスレーショナルデータビリティ研究分野(櫻井研)を設置いたしました(図1)。
そのような中、広範な科学研究分野及び産業においてAI導入を行う重要性が認識され始め、さらにAIを理解する研究者の育成が求められるようになりました。しかしながら、我国のAI研究者の人口は少なく、また既存のAI研究者とその他の研究者との間にはリテラシーの問題があり、各研究分野にAI導入をスムースに行うのは難しい状況が続いています。
以上のAIを取り巻く国内状況を鑑み、広範な研究分野(上記情報科学系を含む)をunder-one-roofに擁する産業科学研究所としては、産業科学研究所を構成する3研究部門とナノテクセンターにそれぞれ対応したAI導入研究分野とビッグデータファクトリーからなる「産業科学AIセンター」を2019年4月に設置いたしました
(図2)。同センターは、既存のAI研究機関や所内AI研究者の助けを借りながら、各研究分野に所属する若手研究者にAI教育を施し、各研究領域に特化したAI研究者の育成とAI導入プロトコルの開発を行う「現場主導(ボトムアップ)型AI導入」を実践します。このように所内を試金石とすることにより、迅速に成果をあげ、その成果を大阪大学内だけでなく、国内外の研究機関や企業に発信し、活用してもらう予定です。
これまでに、AI研究者が集まったAI導入に向けた機関やセンターの設置はありましたが、各研究分野の研究者が主体的に関与するAIセンターの設置は全国的に見ても珍しいと考えております。大阪大学産業科学研究所としましては、皆様に役立つ産業科学AIセンターに育てたいと考えておりますので、何卒、ご指導、ご鞭撻、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
副センター長挨拶 櫻井保志
自動車サービスや交通システムの高度化、製造業のスマート工場化など、産業や社会は大きく変化し、このような状況においてAIやビッグデータ解析は産業革命を支える技術として期待されています。産業科学AIセンターでは、世界の技術革新をリードする研究成果を生み出すとともに、「真に実用的な技術は何か」を常に自ら問いかけ、社会への技術導入に取り組んで参ります。数理モデルやアルゴリズムに関する理論的研究のみならず、様々な企業との産学連携によって実践的な取り組みも行っており、その理論と実践の両立によって革新的な技術を社会に向けて創出いたします。
また、科学基礎研究のためのAI技術についても研究開発に取り組んで参ります。現在、生体、材料、ナノテクなどの研究開発環境は大きく変わり、ビッグデータとAIは科学イノベーションの原動力となりつつあります。新たな材料や先端デバイスの開発をより効果的に、かつ効率的にすすめるため、産業科学研究所における量子、材料・ビーム、生体・分子、ナノテクの各分野と連携し、それら科学研究とデータ科学を融合させた新たなAI技術を確立いたします。
世界最高水準の研究所の中で、理論と実践に基づいてAIが持つ無限の可能性を引き出し、産業と科学の発展に資する研究開発に取り組んでいく所存です。皆様のご支援とご指導を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。