山田研究室 大阪大学産業科学研究所 第2研究部門 エネルギー・環境材料研究分野

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研究内容

エネルギー貯蔵:次世代バッテリー

独自の設計戦略に基づく新規電解液材料の開発

リチウムイオン電池用電解液は、正極と負極の間のリチウムイオンの移動を担うリチウムイオン伝導性液体であり、リチウム塩を有機溶媒に溶解させることで作製されます。これまでの電解液設計においては、リチウム塩の種類と溶媒の種類という2つのパラメータに基づく設計がなされてきました。
我々のグループでは、従来の電解液設計指針とは異なる、電解液中のイオン-溶媒配位環境制御に着目した新たな設計指針を提案しています。具体的には、従来の電解液に用いられたリチウム塩であっても、その電解液中での濃度を調整することで、リチウムイオンと溶媒の配位環境が大きく変わり、耐電圧性の拡大や、特異な不働態化反応、特殊なイオン輸送機構の発現、正極集電体の腐食抑制など、多種多様な電解液特性制御が可能であることを明らかにしました。他にも、電解液溶媒の分子構造に着目し、黒鉛負極との適合性を持たなかった不燃性のリン酸エステル系溶媒の分子構造を、従来電解液の炭酸エチレンに近い環状構造に変換することで、黒鉛負極の充放電反応が可能となり、高安全かつ高性能な新規電解液溶媒となることも見出しました。今後も、電解質、溶媒、イオン配位状態の3つのパラメータに基づき、独自の設計戦略に立脚した新規電解液材料の開発を行い、エネルギー貯蔵・変換デバイスの革新を目指します。

<関連実績>

Nature Energy 5, 291-298 (2020).
Nature Energy 3, 22-29 (2018).
ChemElectroChem 2, 1687-1694 (2015).
Journal of the American Chemical Society 136, 5039-5046 (2014).


高密度エネルギー貯蔵を可能にする新反応の開発

従来のリチウムイオン電池は、正極に層状の遷移金属酸化物、負極に黒鉛などの炭素材料、リチウムイオン伝導性電解質にはリチウム塩を有機溶媒に溶解させた有機電解液を用いて製造されています。現行のリチウムイオン電池では、すでに理論値に近いエネルギー密度の値を有するものが実用化されており、電池の更なる高エネルギー密度化には、新規電極材料や新規電池反応を開発することで、電池電圧の向上や電極容量の増大を達成する必要があります。
我々のグループでは、高電圧や高容量による高密度エネルギー貯蔵を可能にする新反応の創製を行っています。特に、二次電池の高電圧化には電極材料だけでなく、電解液材料の検討も非常に重要となります。例えば、現行のリチウムイオン電池用電解液と高電圧用正極を組み合わせて、電池を高電圧充電させようとした場合、正極の溶解が促進されてしまったり、電解液が電極上で分解されてしまい、激しいサイクル劣化が起こります。そのため、リチウムイオン電池の高電圧化には、正極を安定化させると同時に、高い耐電圧を有する電解液を作製する必要があります。そこで我々は、従来使われてきた鎖状の炭酸エステルへ、溶解性が高く化学的にも安定なリチウム塩を超高濃度溶解させた新電解液を開発し、それらの問題を解消させ、5 V級新規高電圧リチウムイオン電池の充放電サイクルを安定化させることに成功しました。加えて、充放電効率の低さが問題となっていた次世代高容量負極であるリチウム金属負極に関しても、合理的な電解液設計により、大幅な高効率化を達成しています。今後も我々のグループでは、電極材料・電解液材料に関する双方からの検討により、高密度エネルギー貯蔵を可能にする新反応系を開拓して行きます。

<関連実績>

Joule 5, 998-1009 (2021).
Angewandte Chemie International Edition 58, 8024-8028 (2019).
Energy & Environmental Science 10, 1828–1842 (2017).
Nature Communications 7, 12032 (2016). 


新型二次電池デバイスの開発

リチウムイオン電池はそのエネルギー密度の高さから、これまでに小型電子機器用電源に広く用いられましたが、最近では電気自動車などの大型エネルギー貯蔵用途でも用いられるようになり、その更なる高エネルギー密度化が求められています。現行のリチウムイオン電池の高エネルギー密度化には、従来の電池材料に代わる新規電極材料や新規電池反応の開発が必要とされています。さらに、電池の安全性の観点では、現行の有機電解液は可燃性を有するため、特に大型電池用途ではその安全性を向上させることが課題であり、不燃性電解質の開発も求められています。
そこで我々のグループでは、これらの課題を解決しうる次世代エネルギー貯蔵デバイスの開発を目指して研究を行っています。具体的には、2種類のリチウム塩の共晶現象を利用し、水をベースとした新たなリチウムイオン伝導性水系電解液である「水和融体(常温で液体のリチウム塩水和物)」を開発しました。これまでは不燃性の水を用いた水系電解液では、約1.2 Vの電圧で水の電気分解が起こるため、耐電圧が低く、従来のリチウムイオン電池と同等の高電圧な充放電は行えないとされていました。それに対し、「水和融体」は水を含んでいるにもかかわらず3 V以上の耐電圧性を示し、電解液として応用することで、3 V級高電圧水系リチウムイオン電池を構築することに成功しました。今後も水を使った安全かつ高性能の新型二次電池の可能性を追求していくことに加え、斬新な発想により革新的な新型二次電池デバイスの創製に挑戦していきます。

<関連実績>

 Electrochemistry Communication 116, 106764 (2020).
RSC Advances 10, 4129-4136 (2020).
Electrochemistry Communication 100, 26-29 (2019).
Angewandte Chemie International Edition 58, 14202-14207 (2019).
Nature Energy 1, 16129 (2016).


二次電池の高速充放電に向けた充放電反応機構解析

 近年、リチウムイオン電池を電源とした電気自動車が実用化され始めています。電気自動車の高性能化のため、その充放電反応の高速化は重要な課題であり、電池内部抵抗の低減が求められています。リチウムイオン電池の充放電反応は、正極・負極間におけるリチウムイオンの移動によって進行しますが、その充放電時の内部抵抗成分は複数の反応ステップに由来しています。そのため、充放電反応を高速化するためには、その内部抵抗を生み出す充放電反応機構を詳細に明らかにすることが必要となります。
我々のグループでは、リチウムイオン電池充放電時の内部抵抗と反応機構を基礎的に解析し、その抵抗低減の指針を得ることを目指して研究を行っています。例えば、現行のリチウムイオン電池の多くでは、リチウムイオンが電極と電解液の間の固体/液体界面を移動する際のエネルギー障壁が非常に大きく、充放電反応の高速化を妨げています。我々はこれまでに、電極/電解液界面でのリチウムイオンおよびナトリウムイオン移動のエネルギー障壁が電解液組成に依存することを明らかにしました。今後も、様々な二次電池の充放電反応機構を明らかにし、反応高速化に向けた明確な指針を提示することで、高速充放電が可能な蓄電デバイスの実現を目指します。

<関連実績>

ACS Omega 6, 18737-18744 (2021).
ChemSusChem 13, 4041-4050 (2020).
Journal of Physical Chemistry C 113, 14528-14532 (2009).

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エネルギー変換:革新的燃料電池

 シングルアトム触媒によるエネルギー変換反応の革新

 燃料電池を代表とする電気化学的エネルギー変換デバイスは、カルノー効率に支配されないため、優れた総合効率を実現可能なポテンシャルがあります。一方で、既存の燃料電池に一般的に用いられるPtをベースとした貴金属合金触媒の活性は未だ理想的な値からは遠く、またその材料コストが高い点も課題としてあげられます。
我々のグループでは、既存のナノスケールPt触媒のさらなるダウンサイジング化というアプローチに着目し、Ptのサブナノ化、さらに究極的にはシングルアトム化による革新的な燃料電池の開発に挑戦します。サブナノ粒子やシングルアトム金属は様々な触媒反応に特異な高活性を示すことが知られていますが、高い表面エネルギーゆえに凝集の問題を避けることは困難と言われていました。そこで我々は、「ホストーゲスト交互積層体」が持つ二次元ナノ空間へサブナノ粒子やシングルアトム金属を収容し、凝集を物理的に抑制することで、その解決を試みます。これらの検討により触媒のダウンサイジング化に成功すれば、飛躍的に原子利用効率が向上するうえ、特異な金属原子の配位数の実現や電子準位の精密制御による前例のない比活性の実現が期待されます。これらの革新的なシングルアトム触媒の設計指針と大量合成法を確立することで、極めて低コストかつ高効率な革新的燃料電池システムを創出し、エネルギー変換反応の革新に貢献します。

<関連実績>

ACS Applied Materials & Interfaces 13, 28098–28107 (2021).
特願2021-040510, PCT出願

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クリーン材料合成:先駆的 Power to X デバイス

革新的な電気化学的物質変換反応の開発

サステイナブルかつ高効率な材料合成プロセスとして、従来の触媒プロセスにかわる、電気化学的な物質変換反応が注目されています。この次世代の物質変換反応には、例えば、工場などから排出された二酸化炭素を電気化学的に還元し、資源化する二酸化炭素還元反応や、無尽蔵に存在する水を電気化学的に分解し、水素と酸素を取り出す水分解反応、さらには大気中の窒素と水から、次世代のエネルギーキャリアとして期待されるアンモニアを取り出す窒素還元反応などがあります。
我々のグループでは、電気の力で水・二酸化炭素・窒素から次世代燃料を製造する電解デバイスの社会実装に必要な基盤技術を開発しています。本テーマでは、反応メカニズムに立脚した革新的触媒・電解質材料の開発だけでなく、社会実装を見据えたセル部材・スタック開発などを、産学連携体制を構築することで推進します。これらの革新的電気化学的物質変換デバイスの社会実装により、再生可能エネルギーの変動・余剰分を有効利用しながら、カーボンニュートラル社会の実現に貢献します。

<関連実績>

Nature Catalysis 3, 516–525 (2020).
Journal of Physical Chemistry C 123, 5951−5963 (2019).
Science 358, 751–756 (2017).


電気化学ナノ反応場を用いた新反応の開拓

電気化学反応の主役は触媒を含む電極です。あらゆる触媒反応と同様に、この電気化学反応の理想形もまた、「所望の生成物のみを、速やかに、かつ必要最小限のエネルギーで得る」ことです。そのためには、反応メカニズムの理解に基づいて自在に設計できる電極触媒材料が必要不可欠となります。我々のグループでは、理想的な電気化学反応を実現するべく、1つ1つの分子が独立しており、原子レベルで設計可能な均一系触媒の長所と、外部回路からの電気エネルギー(電子)の出し入れに対応できる不均一系触媒の利便性を兼ね備えた、新しい電極触媒材料系の創出に挑戦しています。
我々のグループでは、層状MnO2からなる「ホストーゲスト交互積層体」に着目した検討を進めています。本材料は、層状MnO2層間のゲスト空間(=ナノ反応場)には、反応に必要な要素(触媒、溶媒)を収容でき、電極から電子が、電解液から基質がアクセスすることで電気化学反応を進行させることができます。このナノ反応場を用いることで、従来材料には不可能であった、電子状態をはじめとする材料因子の精密制御、活性サイトの幾何構造の自在設計、活性サイトを取り囲む液相基質の能動制御を実現し、触媒特性の飛躍的な向上、さらには既存のナノ粒子触媒では不可能であった全く新しい電気化学反応を開拓します。

<関連実績>

ACS Applied Energy Materials, Submitted.

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電気化学関連分野における新理論・新学術の確立

液体材料化学に関する新理論・新学術の確立

リチウム塩などの電解質を溶媒に溶解させた電解質溶液は、電気化学反応を利用した様々なデバイスに用いられています。電解質溶液などの液体材料に関する化学・電気化学の理論的検討は、これまで主に希薄な電解質溶液に対して行われてきました。一方、塩濃度の高い電解質溶液は電気伝導度の低さなどから、これまで注目されていなかったため、その液体材料化学の理論的解釈はあまり進んでいませんでした。我々はこれまでに、電池用電解液の塩濃度を高濃度化することで、リチウムイオンの配位状態とその電解液特性を制御できることを見出してきました。これらの高塩濃度を有する電解液を含め、液体材料化学の理解をより深めていくことが今後重要となっています。また、電気化学反応の反応場である電極/電解液界面に存在する電解液は、通常のバルク電解液とは異なる構造や特性を有するため、固液界面での電解液に関する学術的理解を深めることも重要となります。
そこで我々のグループでは、広範な電解液材料に関する化学・電気化学の新理論・新学術の確立に挑戦しています。さらに、得られた新理論をベースに、新規電解液材料の設計を行い、革新的なエネルギー貯蔵・変換デバイスの開発を目指します。

<関連実績>

Journal of .the American Chemical. Society. Au 1, 1674−1687 (2021).
Nature Energy 4, 269-280 (2019). Bulletin of the Chemical Society of Japan 93, 109-118 (2020).
ACS Applied Materials & Interfaces 11, 35770-35776 (2019).
Journal of the Electrochemical Society 162, A2406-A2423 (2015).


電極/電解液界面反応の解析及び界面状態の能動制御

電気化学反応は、エネルギー貯蔵・エネルギー変換・材料合成など幅広い分野で我々の豊かな生活を支えています。これらの反応は全て、固体の電極材料と液体の電解液材料の境界「電極/電解液界面」にて進行しており、この「界面」の理解が反応特性のさらなる改善には必要不可欠です。しかしながら、「界面」での反応の描像を捉えることは難しく、また「界面」を適切に設計する手法が確立されていないことから、これまでこの「界面」を能動的に制御した例はほとんどありません。
我々のグループでは、独自のオペランド解析と理論化学的手法の協奏による、電極/電解液界面反応の原子レベルでの可視化に挑戦しています。さらに、得られた知見を材料設計へと応用することで、液体・固体材料設計を包含した「電極/電解液界面」の能動制御を実現します。これにより、エネルギー・環境問題の解決に資する電気エネルギー貯蔵反応(二次電池反応)・発電反応(燃料電池反応)・物質変換反応(水分解、二酸化炭素変換、窒素変換反応)の特性を飛躍的に向上させる、界面能動制御手法を確立します。

<関連実績>

Energy & Environmental Science 13, 183-199 (2020).
ACS Applied Materials & Interfaces 11, 45554-45560 (2019).
ACS Catalysis 6, 2026–2034 (2016).
Chemistry Letters 46, 1056-1064 (2017).
Journal of the American Chemical Society 136, 5039-5046 (2014).  

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