パルスラジオリシス
Pulse Radiolysis

パルスラジオリシスとは、パルス化した電子線等の放射線を物質に照射し、物質中で放射線により引き起こされる反応の時間変化を直接観測する手法です。放射線誘起初期反応を調べるため、フェムト秒パルスラジオリシス測定装置の開発と、これを用いた放射線誘起反応の解明を行っています。
Pulse radiolysis is time-resolved spectroscopy for analysis of ultrafast reactions induced by ionizing radiation. Our femto-second pulse radiolysis system are dedicated to reveal primary process of the ionizing radiation induced reaction. Ultra high time-resolution techniques and extension of pulse radiolysis techniques are also studied for the sake of deeper understanding of radiation chemistry. 

nanosecond pulse radiolysis
femtosecond pulse radiolysis

放射線化学:放射線による物質へのエネルギー付与で引き起こされる化学的変化、化学反応を取り扱うのが放射線化学です。放射線と物質との特徴的な相互作用の1つとして、励起状態の生成や、「イオン化」という現象があります。「イオン化」とは、物質から電子が1つ飛び出すこと(電離)で、X線やγ線、高エネルギー粒子線(電子ビームやイオンビーム等)の放射線は、この性質から電離放射線と呼ばれます。放射線により生成するラジカル種やイオン種などの反応活性種の時間的な変遷を直接的に観測する物理化学的手法がパルスラジオリシスです。

パルスラジオリシス:放射線により発生する反応性の比較的高い不安定な化学種には、イオン化で生じるカチオンラジカルや電子、電子が反応してできるアニオンラジカル、自己解離によってできた中性ラジカル等があります。また、分子の電子励起状態も発生しますが、これは放射線からのエネルギー付与だけでなく、カチオン種とアニオン種または電子との再結合によって生じます。ここで、ラジカルとは、不対電子を持つ化学種のことで、一般に反応性が高いことが知られています。多くの安定な分子は電子が対となっており、ラジカル種ではありませんが、イオン化は電子が1つ飛び出す現象なので、生成するカチオンはほとんどの場合ラジカルとなります。また、飛び出した電子を分子が捕捉すると、もともと不対電子を持たなかった分子が1つ余分に電子を持つこととなり、従って、ラジカルアニオンが生成します。溶液中では、極性を持つ溶媒の場合、飛び出た電子がいくつかの溶媒により束縛され、溶媒和電子が生成することが知られています。これらの活性種の反応を主に光吸収により、その時間変化を調べる手法がパルスラジオリシスで、時間分解分光法の1つです。パルスラジオリシスは、観測対象の活性種が、どんな反応様式で、どんな反応速度で反応するかを調べることができます。また、その活性種の吸収スペクトルを得ることができます。

PR3

ナノ秒パルスラジオリシス:電離放射線源としてナノ秒(例えば阪大産研のL-バンドライナックを用いた場合では8 ns)の電子ビームを用いたパルスラジオリシスです。時間分解能としては電子ビームのパルス幅と同程度ですが、マイクロ秒やミリ秒領域までの反応ダイナミクスを直接的に、簡便に調べることができます。また、電子ビーム強度を比較的大きく変えることができ、様々な実験に対応することが可能です。ナノ秒パルスラジオリシスは、反応中間体の特徴を調べるにも有用で、過渡吸収スペクトルをはじめとした重要な基礎データが得られます。

フェムト秒パルスラジオリシス:放射線化学反応の初期過程を直接観測するには高時間分解能が必要です。そのためにはRFガン電子ライナックによる極短パルス電子線を用いる必要があります。また、ナノ秒パルスラジオリシスでは、観測している時間の範囲内で定常的といえる連続光を用いていたのに対し、フェムト秒レーザー光を検出光とします。検出光パルスを、電子ビームパルスに対して相対的にタイミングを変えながら測定することで、高時間分解測定を可能としています。この方法はストロボスコピック法、または、パルスープローブ法と呼ばれ、高時間分解測定では一般的な方法です。フェムト秒パルスラジオリシスは活性種が発生した直後の熱平衡に達する前の段階での反応や、活性種が形成される過程の直接観測が可能になります。時間分解能の観点でいえば、このフェムト秒パルスラジオリシス測定装置は、2020年の時点で世界最高時間分解能をもつパルスラジオリシス測定装置です。

ダブルデッカー電子ビームとテラヘルツパルスラジオリシス:フェムト秒パルスラジオリシス測定装置は、フォトカソードRF電子銃ライナックを使って電子ビーム発生をしています。フォトカソードRF電子銃の特性として、光電子発生のためのパルスレーザー光の入射を行いますが、このフォトカソード上でのレーザー光の位置とパルス数を電子ビームの位置とパルス数に反映することができます。また、加速に用いる電場のちょうど整数周期分(例えば、4.2 ns = 350 ps × 12)だけ差をつけて違う位置にこのパルスレーザー光を照射すると、違う位置に特定の時間差をつけて電子ビームを発生することができます。2階建てのバス、ダブルデッカーになぞらえてこの電子ビームを「ダブルデッカー電子ビーム」と呼んでいます。ダブルデッカー電子ビームを利用して、1つの電子ビームを光発生に使用し、もう1つの電子ビームをサンプルの照射に用いることで、パルスラジオリシス測定が可能になります。コヒーレント遷移放射(CTR)を利用して光発生すると、テラヘルツ光パルスが得られます。このテラヘルツ光を用いることで、テラヘルツ領域のパルスラジオリシスが可能となり、計測波長の拡張が実現するとともに、計測対象となる現象が拡張されました。テラヘルツ領域では、サンプル内の分子内振動・回転の他、主に固体の誘電率や電荷の移動ダイナミクスを調べることができます。

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