データ科学の応用

ニューラルネットワークポテンシャルの応用

量子力学に基づき、現実物質の物性を高精度に計算できる第一原理計算は計算物質科学分野における強力な手法です。しかし、計算コストが高く、たとえば大きなモデルサイズでの計算が必要となるような課題や、モデルサイズが小さくても数千・数万の構造に対する計算が必要となるような課題に応用することが困難であるという問題があります。

この精度と計算コストのトレードオフを解消する方法として、最近、機械学習の応用が注目されています。第一原理計算の機能は「原子構造が与えられた場合に、そのエネルギーや、原子に働く力を返す」と捉える事ができます。機械学習によって、この機能を再現するような代用モデルを作ることによって、精度を維持したまま計算コストを下げようとする取り組みを機械学習ポテンシャルと呼びます。我々のグループでは特に、ニューラルネットワークと呼ばれる機械学習技術を使って、ポテンシャルを構築することを行っています。具体的な応用事例としては、半導体のSiやGaNにおける熱伝導率の計算に、機械学習ポテンシャルを応用することで、計算時間を短縮した成果などが挙げられます。

“Simulating lattice thermal conductivity in semiconducting materials using high-dimensional neural network potential”, E. Minamitani et al., Appl. Phys. Express, 12 095001 (2019)

トポロジカルデータ解析の応用

長距離の秩序構造を持たないアモルファスやガラスの状態での構造は、完全にランダムな構造とは異なり、原子間の相互作用がもたらすナノメートル程度のスケールでの中距離秩序があると考えられています。このような規則性とランダムの中間に位置する構造が物理的性質とどのように関係しているのかは、固体物理における長年の謎です。その謎を解く鍵として、我々のグループは、アモルファスの構造の特徴を中距離秩序も含めて抽出し、物性シミュレーションと結びつけることに取り組んでいます。

アモルファス構造の特徴解析方法として、特に注目しているものがトポロジカルデータ解析です。これは、数学におけるトポロジーの考え方を応用したデータ解析手法の総称です。データの繋がり方によって決まる環や空隙といった「穴」に対応する構造を、データの持つトポロジーと考えて定量化することで、クラスタリングや回帰などのデータ解析に応用することができます。その中でもパーシステントホモロジーと呼ばれる手法に注目し、これまでに、パーシステントホモロジーを応用することで、アモルファスSiの熱伝導率を予測できる機械学習モデルを構築できるなどの成果をあげています。

“Topological descriptor of thermal conductivity in amorphous Si” E. Minamitani et al., J. Chem. Phys. 156, 244502 (2022)