表面ナノ構造の磁性

ナノ構造の近藤効果

近藤効果という現象は、非磁性金属にほんの少しの磁性不純物が混じった系(希薄磁性合金)に電気抵抗に異常が現れる現象として知られています。金属の電気抵抗は通常、温度が下がっていくと単調に減少していきます。しかし、希薄磁性合金の場合には、ある温度で電気抵抗が極小となり、更に温度を下げていくと逆に電気抵抗が上がりだすという現象が現れます。この現象を引き起こしている原因は、金属の中の伝導電子と、磁性原子が持つ局在スピンの量子力学的な相互作用です。この近藤効果は「重い電子系」や強相関電子系の物性の根幹として、長らく盛んに研究されてきました。

2000年代以降は、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いることで、近藤効果の本質である無数の伝導電子と局在スピンが1重項の状態を組んだ近藤1重項状態を観察できることが報告され注目を集めてきました。我々のグループは特に、分子が吸着した場合の近藤効果に注目し、分子と表面の相互作用・分子形状のフレキシビリティ・軌道自由度といった、分子の特性を活用することで新奇な磁性の付与や制御ができないかを調べてきました。

このテーマでは実験グループとの共同研究を多数行っており、例えば、鉄フタロシアニン分子では、分子の持つ四回対称性によってスピンに加え軌道自由度が関与するSU(4)近藤効果が現れることを発見しました。また、その分子内の鉄原子をSTM探針によってサブÅのスケールで動かすことで、近藤効果と磁気異方性の拮抗を用いた量子臨界現象の可逆制御が可能であることも判明しました。最近では、超伝導基板と分子スピンの相互作用による、Yu-Shiba-Rusinov束縛状態についての研究なども進めています。


1. H.-N. Xia, E. Minamitani, R. Žitko, Z.-Y. Liu, X. Liao, M. Cai, Z.-H. Ling, W.-H. Zhang, S. Klyatskaya, M. Ruben, Y.-S. Fu, Spin-orbital Yu-Shiba-Rusinov states in single Kondo molecular magnet. Nat. Commun.13, 6388 (2022).

2. E. Minamitani, N. Tsukahara, D. Matsunaka, Y. Kim, N. Takagi, M. Kawai, Symmetry-driven novel Kondo effect in a molecule. Phys. Rev. Lett.109, 086602 (2012).

3. R. Hiraoka, E. Minamitani, R. Arafune, N. Tsukahara, S. Watanabe, M. Kawai, N. Takagi, Single-molecule quantum dot as a Kondo simulator. Nat. Commun.8, 16012 (2017).