フォノン・電子フォノン相互作用の精密計算

非弾性トンネル分光の理論

走査トンネル顕微鏡という実験手法をご存知でしょうか?鋭い針の先端から表面に電子がトンネルすることで流れる電流を測定することで、表面の構造や電子状態を精密に測定できる手法です。たまに電子のエネルギーがフォノンに散逸して(スピン励起に使われることもあります)、その過程が電流電圧特性に反映されることがあります。この過程をつかった励起プロセスの観測を非弾性トンネル分光と呼びます。典型的な例では分子の振動の観測が挙げられます。我々のグループでは、固体の表面の振動もこのテクニックで捉えることができるかどうか?という問題に取り組みました。非平衡グリーン関数法などの計算テクニックを応用することで、金属表面においては超伝導の理論で有名なEliashberg関数とほとんど同じ形の項がdI/dV(電流の一次微分)として出てくることがわかりました。 関連する研究としてSiCの上に形成されたグラフェンでの非弾性トンネル分光の理論計算を、テクニカルな方法で数値計算したりもしています。

“Surface phonon excitation on clean metal surfaces in scanning tunneling microscopy”, Phys. Rev. B, 93, 085411 (2016)
“Atomic-scale characterization of the interfacial phonon in graphene/SiC”, Phys. Rev. B, 96, 155431 (2017)

電子フォノン相互作用の精密計算

非弾性トンネル分光の計算では、トンネル電子とフォノンとの相互作用の計算を行っていましたが、電子とフォノンの相互作用は特に固体におけるフォノン誘起超伝導と密接に関係しています。近年、グラフェンに代表される様々な層状物質が合成され実験的も盛んでしたので、 意外に超伝導になったり、なにか転移温度をコントロールできるような層状物質を、第一原理計算に基づく電子フォノン相互作用の精密計算によって見つけ出そうという取り組みを行いました。絶縁体のh-BNもうまくドープすると超伝導になったり、ドープした二硫化モリブデンの転移温度が歪に敏感だということを発見しました。
“Theoretical prediction of phonon-mediated superconductivity with Tc ≈ 25 K in Li-intercalated hexagonal boron nitride bilayer”, Appl. Phys. Express, 10 093101 (2017)
“Straintronic effect for superconductivity enhancement in Li-intercalated bilayer MoS2”, Nanoscale Adv. 2, 3150-3155 (2020)