スピントロニクスの理論

スピンホール効果

スピントロニクスというのはスピンとエレクトロニクスを組み合わせた造語で、電子がもつスピンの自由度を活用してエレクトロニクスを超える性能を目指そうという分野です。相対論的な効果であるスピン軌道相互作用を利用すると、磁場を使うことなくスピンを操ることができます。この現象はスピンホール効果と呼ばれていて、不揮発性メモリへの応用を目指して盛んに研究されているところです。

「巨大な」スピンホール効果を示す、応用に適した物質とはどのような物質でしょうか。スピンホール効果は電場によってスピンの流れ、いわゆるスピン流が生じる現象であると言われています。これを信じるならば、スピンホール伝導度、すなわち電場に対するスピン流の応答係数が大きな物質のことでしょう。しかし実際には、スピン軌道相互作用のためにスピン流をうまく定義することができないので、スピンホール伝導度はスピンホール効果の定量的な指標とは言えません。

我々のグループでは、スピンホール効果によって試料の端に生じるスピン蓄積に着目し、スピンホール伝導度に代わる定量的な指標としてスピン蓄積係数を提案しました。グリーン関数法を用いた解析的な計算や第一原理計算などさまざまな方法で、「巨大な」スピンホール効果とはどういうことなのか、どういう物質が「巨大な」スピンホール効果を示すのかという問題に取り組んでいます。

A. Shitade et al., “Spin accumulation without spin current”, Phys. Rev. B 105, L201202 (2022).
A. Shitade, “Spin accumulation in the spin Nernst effect”, Phys. Rev. B 106, 045203 (2022).
A. Shitade and E. Minamitani, “Wannier interpolation of spin accumulation coefficient”, npj Spintron. 3, 29 (2025).
A. Shitade, “Intrinsic spin accumulation in the magnetic spin Hall effect”, Phys. Rev. B 112, 174431 (2025).