DNA分子糊
相補配列をもった2本のDNA鎖は自発的に二重らせん構造を形成します。この二本鎖形成過程は塩基配列選択性が高く、遺伝情報の蓄積や伝播をになうDNAの特徴的かつ重要な性質です。また、DNAの高精度な分子認識能あるいは自己組織化能は、バイオテクノロジーやナノテクノロジーの分野で広く用いられています。これらDNAが生み出す様々な機能は、高精度な相補鎖認識と二本鎖形成によって成り立っており、DNA二本鎖会合過程の制御は有用な分子技術です。

我々はDNA結合性リガンドを用いた新しいDNAの二本鎖形成の制御技術の開発に取り組んできました。DNAミスマッチ結合分子は、不安定なミスマッチを含むDNA鎖に対して結合し、安定なDNA二本鎖との複合体を形成します。この系を上手く利用してやると、一本鎖状態にあるDNAから、二本鎖状態への構造変換をDNAミスマッチ結合分子(上図NCD)添加により実現することが可能です。この時、ミスマッチ結合分子は、二本のDNAを貼り合わせる、いわば「分子糊」として働くのです。
(1) Peng, T.; Dohno, C.; Nakatani, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2006, 45, 5623-5626.
光応答性DNA分子糊

DNA分子糊を用いると、一本鎖から二本鎖DNAへの構造切り替えができますが、等温条件下元の一本鎖に戻すことはできません。DNA分子糊の分子内に、光応答性のアゾベンゼンを導入することで、異なる波長の二種類の照射光によって分子構造が変化する「光応答性DNA分子糊」を開発しました(上図NCDA)。光応答性DNA分子糊は、より精密な調節が可能な光をトリガーとして、DNAの可逆的な構造変換を可能にします。
(2) Dohno, C.; Uno, S.; Nakatani, K. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 11898-11899. (3) Dohno, C.; Nakatani, K. Chem. Soc. Rev. 2011, 40, 5718-5729.

DNAナノ構造形成や蛍光特性の制御など、DNA分子糊を用いて制御できることを実証しました。生体内のDNAは、通常ミスマッチ塩基対をほとんど含まないため、ミスマッチ塩基対を標的とするDNA分子糊が直接働くことは困難です。ミスマッチ塩基対を豊富にもつRNAに対して働く、RNA分子糊についても研究を進めています。
(4) Uno, S.; Dohno, C.; Bittermann, H.; Malinovskii, V. L.; Häner, R.; Nakatani, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 7362-7365. (5) Dohno, C.; Atsumi, H.; Nakatani, K. Chem. Commun. 2011, 47, 3499-3501.
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