半導体大量生産におけるナノ化学への挑戦  

現在の半導体産業はリソグラフィと呼ばれる超微細加工技術に支えられています。
リソグラフィ技術は年々進歩を遂げ 2018年には量産ラインにおいてでさえ線幅20 nmをきる加工が行われており、2019年には、従来の非電離放射線領域の光に代わって電離放射線領域にある92.5 eVのEUV光が、次期露光源として使われようとしています。EUVはN7もしくは 7 nmノードと呼ばれる解像度16 nmから実用化され、N2もしくは2 nmノードと呼ばれる解像度10 nm未満(シングルナノ) 領域でも使い続けられることが期待されています。
EUVリソグラフィが実現されれば、半導体大量生産の主プロセスに電離放射線が初めて用いられることとなり、量子ビームの産業利用は大きな展開を迎えることとなります。
電離放射線領域にある量子ビームは波長が短い分、光よりも微細な領域にエネルギーを付与し、化学反応を起こさせることが 可能ですが、露光源のエネルギーが一般的な材料のイオン化エネルギーを超えるため、材料設計上は、感光分子の 励起状態を利用した像形成から、材料マトリクスのイオン化と二次電子を利用した像形成への転換を意味し、 抜本的な材料設計の変更が必要となります。
さらに、レジストの主要性能である解像度、感度、ラフネスが トレードオフ関係にあることが知られており、新規材料開発の大きな障害となっています。トレードオフ問題を 解決するためにはレジスト像形成における光子エネルギーの利用効率を向上させることが本質的に求められるため、 光が数nmの空間に誘起する現象の解明と高効率な反応系の設計が新規材料開発には必須です。

  凝縮相の極端紫外光化学  

極端紫外光領域の放射線化学は、未開拓領域であるだけでなく、放射線化学反応を知る上で、 極限の空間分解能と時間分解能を与えます。特に、量子ビームと分子の相互作用の結果生成 されるカチオンと電子のイオン対の空間分布とその後に続く化学反応の詳細を解明する上で 重要なエネルギー領域です。

  極限状態下のビーム誘起反応研究 

高温高圧・超臨界状態といった極限状態下にある材料の放射線との相互作用を解明します。 水を例に取ると、温度や圧力によって物性を大きく変え、温度が374oC以上、圧力が22.1MPa以上では、 圧力により密度も大きく変化する超臨界状態となります。放射線によって引き起こされる反応系は複雑ですが、 極限状態においては温度・圧力・密度といったパラメータを大きく変化させることができ、 室温状態では見分けることのできない放射線誘起化学反応の本質を追究します。それと共に、 これを良く把握し制御することによって高温・超臨界水の環境科学への応用や原子力発電における 放射線効果の制御といった新たな分野を切り開くことを目指します。

水の状態図と水(室温)の放射線誘起反応過程

超高速過程:ビーム照射によるエネルギー付与と電子の緩和過程

極性溶媒のナノ空間反応過程の解明

亜臨界~超臨界状態におけるラジカル反応機構

  ナノ粒子・コロイド溶液の放射線化学研究 

ナノ粒子やコロイドは、新しい触媒活性や高い耐久性を有する新規機能性材料として、 様々な分野で注目を集めています。極端紫外光(EUV)や電子ビーム、ガンマ線といった 量子ビームが活躍するビーム応用工学(次世代リソグラフィー技術)や原子力工学 (軽水炉水化学)においても、高いエッチング耐性を有するメタルレジスト(新規レジスト材料)や、 炉内腐食環境低減効果の高い貴金属コロイド(冷却水への新規注入材)の実用化が期待されています。 量子ビームによって誘起されるナノ粒子生成基礎過程や、生成後の界面反応といった本質解明を 進めると共に、新規反応経路の探索やその反応制御を目指します。

白金懸濁液中におけるナノ粒子生成過程の追跡

ナノ粒子配位子の量子ビーム誘起反応初期過程

  量子ビーム誘起による有機・無機ナノ構造形成機構の解明と応用 

COREラボ共同研究(2015-)

  機械学習による材料設計 

リソグラフィ工程で使われるレジストと呼ばれる感光性材料の性能が半導体の回路の精度を決めます(図1)。 回路は微細化すればするほど回路の集積率が高まり、消費電力が減少し、機器の軽量・高性能化を可能にします。 現在は2031年に解像度8 nm(シングルナノ)を達成するための研究開発が行われています。 将来の情報量の増大に対応しカーボンニュートラルを達成するためには、半導体の低消費電力化は必須です。
この先更なる微細化を達成するための最重要開発要素がレジスト材料です。 しかし、パターンの線幅がこれまでよりさらに微細化するため、パターン形成の際の化学反応が確率過程であることに 起因するパターン欠陥の影響が顕在化し、微細化の深刻な障害となっています。

欠陥ありパターン(図2(a))のナノスケールの欠陥形状から、化学反応の情報を引き出し(図2(b))、 レジスト材料の改良・創成により、パターン欠陥なしで回路線幅を8 nmまで縮めることを目指す(図2(c))。

研究手法としては、まず材料組成とプロセス条件を変えて実験を行い、データを集めます。 実験結果に対してパターンの欠陥形状の自動認識、形状の分析による情報抽出します(図3(a),3(b))。 次はシミュレーションとの比較によるモデルベース機械学習を行います。 シミュレーションにより欠陥形状を予測し、得られたエッジクラスにフィッティングを行い(図3(c),3(d))、 通常の測定では得られない物性値の推定を可能とします。最終的には、得られた情報でレジスト材料を合成し、プロセス条件を最適化します。

  現像プロセスの研究 

現在、技術の進歩により、露光源が短波長化し、半導体のパターンがますます微細化しています。この微細化に伴い、確率的に発生するパターンの欠陥が増加しており、それを抑制することがレジスト材料やプロセスの開発において重要な課題となっています。特に、現像工程(レジスト膜が現像液に溶解する工程)は、確率的な欠陥の抑制にとって極めて重要です。そのため、現像工程におけるレジスト材料やプロセスの評価を行い、それらの原因を調査することで、最適な材料やプロセスを設計するための指針を得る研究を進めています。

図1:レジスト材料の重量変化を水晶振動子マイクロバランス法を用いて調査します。この手法では、水晶振動子の振動数の変化からレジスト膜の重量変化を観察することが可能です。これにより、レジスト材料の溶解挙動を詳細に調査することができます。

  メタルレジストの研究 

次世代EUVLでは、光源の出力が低いために生じる確率統計効果の影響を抑えるためにあらゆるプロセスパラメータの見直しが重要となっていきます。その中でも特に材料のEUVに対する吸収効率を向上させることはパターニング感度にも直結するためさまざまなタイプの材料研究が盛んに行われています。特に重金属を含ませたレジスト、すなわちメタルレジストは、EUVの吸収効率が良く、加えてエッチング耐性が高いことから近年は注目を集めています。 現在当研究室では重金属中でも特にEUV光子の吸収断面積が大きい金属の一つであり、かつ扱い容易であるスズを含んだ系に焦点を当て照射時の反応メカニズムや現像プロセスの研究を行っています。

二元系メタルレジストにおける反応機構