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研究成果

世界最速・最高精度の自己進化型エッジAI! 小型デバイスに搭載可能なリアルタイム学習・予測機構を開発 ―産業用小型機器・車載IoT・医療デバイスへの実装が可能に―

研究成果のポイント

  • 小型デバイス内部でリアルタイム学習と予測を実現する世界最速・最高精度のエッジAI※1技術を開発
  • 最新の深層学習※2による予測手法と比較し、最大で10万倍の高速化、60%の精度向上を達成
  • 産業用小型機器や車載IoT※3によるリアルタイム監視・データ駆動型制御、医療分野でのウェアラブルデバイスを活用した在宅診断など、小型デバイスを用いた多様なリアルタイムAI処理が可能に

概要

大阪大学産業科学研究所の松原靖子教授、櫻井保志教授は、小型デバイス内部でのリアルタイム学習と予測機能を実現する世界最速・最高精度のエッジデバイスAI(以下、エッジAI)の開発に成功しました。
これまでのエッジAI は、大規模クラウド環境で深層学習などの手法に基づきビッグデータ ※4を用いて事前学習を行い、その固定モデルをエッジデバイス※5に実装して推論する形が主流でした。

 今回、研究グループは、小型エッジデバイス 内部において計測データを特徴的なパターン毎に分解し、シンプルかつ多数のモデル群を用いて統合的に表現することで、自己学習・環境適応・進化を自ら繰り返し、リアルタイムにモデル学習・将来予測を行う新技術を開発しました。
本研究成果により、製造業における組み込み機器や車載IoTによるリアルタイム監視・データ駆動型制御、医療分野におけるウェアラブルデバイスを用いた在宅診断など、小型デバイスを用いた多様なリアルタイムAI処理の社会実装が期待されます。

 本研究成果は、データマイニング・AI分野のトップ会議である 『ACM SIGKDD2025』 (2025年8月3日-7日) において、口頭発表されました。(主催団体:ACM SIGKDD)

図1. 提案技術の概要:小型エッジデバイスに搭載可能なリアルタイム学習・予測機構の開発
松原教授のコメント
産業IoT機器、医療デバイス等の計算機環境に制約がある小型デバイスに搭載可能な、高速・高精度・超軽量なエッジAI技術を開発しました。製造・医療・ヘルスケア等、様々な分野の産業発展に貢献すべく、実用化を進めてまいります。

研究の背景

 モノづくり分野の組み込み機器や車載IoT、医療分野の埋め込み型/ウェアラブルデバイスのような、計算機環境に制約のある小型エッジデバイスでの高速AI処理のニーズが高まっています。
 これまでのエッジAIは、大規模クラウド※6環境で深層学習等の手法に基づきビッグデータを用いて事前学習を行い、その固定モデルをエッジデバイスに実装して推論する形が主流でした。この方法では、学習データを増やすほど解析精度が向上する一方で、膨大なデータ量・解析時間・消費電力を要するため、小型デバイス内でのデータ処理や高速モデル更新には適していません。
 さらに、クラウド依存の方法には、通信・運用コスト、データの秘匿性やセキュリティの確保などの課題も残されており、小型エッジ環境でのリアルタイム学習技術は世界的にも確立されていませんでした。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究成果により、製造業における組み込み機器や車載IoTによるリアルタイム監視・データ駆動型制御、医療分野におけるウェアラブルデバイスを用いた在宅診断など、小型デバイスを用いた多様なリアルタイムAI処理の社会実装が期待されます。
 研究グループでは、10社以上の国内有力企業との共同研究を継続的に実施しています。製造業、モビリティ、エッジデバイスAI、医療・ヘルスケア等のテーマで、実用化・事業化のための取り組みを行なっており、将来的に幅広い業界への波及効果が期待できます。

特記事項

本研究成果は、データマイニング・AI分野のトップ会議である 『ACM SIGKDD2025』 (2025年8月3日-7日) において、口頭発表されました。(主催団体:ACM SIGKDD)
 タイトル:MicroAdapt: Self-Evolutionary Dynamic Modeling Algorithms for Time-evolving Data Streams
 著者:Yasuko Matsubara, Yasushi Sakurai 
 DOI:https://doi.org/10.1145/3711896.3737048

また、本研究成果の一部は、特許出願中です。
 発明等の名称:時系列モデル学習装置、時系列予測装置、方法及びプログラム
 発明者:松原靖子、櫻井保志
 出願番号:特願2025-127944
 出願日:2025年7月31日

なお、本研究は、JST CREST [S5基盤ソフト]基礎理論とシステム基盤技術の融合によるSociety 5.0のための基盤ソフトウェアの創出「超分散小型IoTエッジノードのための自己進化型リアルタイム学習基盤(代表:松原靖子)」の一環として行われました。

用語解説

※1     エッジAI
エッジデバイスAI。ChatGPTなどのAIがクラウド上で実行されるのに対し、デバイス自体に組み込まれ、インターネット接続やサーバへの依存なしに処理を行うことができるAI。

※2     深層学習
ディープラーニング(deep learning)。多層のニューラルネットワークを用いる機械学習手法。音声・画像・自然言語処理をはじめとする様々な応用が可能。

※3     IoT
IoT(アイオーティー)は、「Internet of Things」の略で「モノのインターネット」という意味で使われている。センサー機器、住宅・建物、自動車、家電製品など、様々な“モノ”が、ネットワークを通じてサーバやクラウドサービスに接続され、相互に情報交換をする仕組みのこと。

※4     ビッグデータ
近年のIT技術の発展やIoTデバイスの急速な普及に伴い、それらのサービスやデバイスから多様かつ大量に生成されるデータ集合の総称。

※5     エッジデバイス
ネットワークの末端に設置され、内部システムと外部ネットワークをつなぐ役割を持つデバイス。ネットワーク遅延や通信コストを抑えつつ、リアルタイムなデータ処理や制御を実現するコンピューティングデバイスを指す。

※6     クラウド
インターネットを通じてサーバやストレージ、アプリケーションなどのコンピューティング資源を提供する仕組み。ネットワーク経由で必要なデータ処理やサービスを利用できる。

参考URL

松原靖子教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e36440f5ed2661e4.html

櫻井保志教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/bf2c1a85a3511b17.html