EN
SANKEN
研究成果

加速力1000倍のレーザー航跡場加速で自由電子レーザー発振に成功

加速力1000倍のレーザー航跡場加速で自由電子レーザー発振に成功
―高エネルギー加速器の卓上化に向けたマイルストーン―

 2月16日(月)、大阪大学 産業科学研究所の細貝知直教授(兼  理化学研究所放射光科学研究センター チームリーダー)、量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所の神門正城所長、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の山本樹名誉教授らによる研究グループの共同研究成果をプレスリリースいたしました。本研究成果の詳細は、2月19日(木)に行われる「大阪大学 産業科学研究所 記者発表会」にて説明を行います。(一般の方のご参加はできません)

研究成果のポイント

  • レーザー航跡場加速※1で生成した電子ビームを用いて、極端紫外線領域での自由電子レーザー※2の発振(光の強度増幅)に成功し、超小型の高エネルギー電子ビーム加速器の実用化に向けて前進。
  • レーザー航跡場加速は、従来の加速器に比べて1000倍以上の加速力を生み出すことで、電子の加速距離を、数十〜数百メートルから数センチ〜数ミリへと短縮、小型化できる可能性を持つ。
  • 大型施設に限られていた先端研究が、卓上サイズの小型装置で実現する道を拓く成果であり、材料科学、半導体開発、生命科学、量子科学など幅広い分野での新たな研究展開が期待される。

概要

 大阪大学産業科学研究所の細貝知直教授(兼 理化学研究所放射光科学研究センター チームリーダー)、量子科学技術研究開発機構 関西光量子科学研究所の神門正城所長(兼 大阪大学産業科学研究所 招へい教授)、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の山本樹名誉教授らの研究グループは、レーザー航跡場加速(Laser Wakefield Acceleration; LWFA)で生成した電子ビームを用いて極端紫外線(XUV)領域での自由電子レーザー(Free Electron Laser; FEL)の発振に成功しました。
 本研究成果は、米国科学誌『Physical Review Research』に、2026年2月24日(現地時間)に掲載される予定です。

 今回の成果は、加速長が数ミリのLWFAによる電子ビームを用いて、XUV(波長27〜50ナノメートル)領域でFELの発振(光の強度増幅)を実証したものです。これは、高エネルギー加速器を備えた大型施設でしか実現できなかった短波長のFELを、卓上サイズへと小型化できる可能性を拓く成果であるとともに、LWFAが“実用レベルに近い高品質な高エネルギー電子ビーム加速器”へ到達しつつあることを示す、きわめて重要なマイルストーンです。今回実証したXUV領域でのFEL発振は、波長が10ナノメートル以下のX線領域のレーザー光、すなわちX線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser; XFEL)へと発展させていくうえで、最初に達成すべき重要な技術成果です。今後、この技術を基盤として、さらなる高エネルギー化を進めることで小型XFELが実現すれば、これまで大型施設に限られていた先端研究が、より多くの機関で日常的に行えるようになり、材料科学、半導体開発、生命科学、量子科学など幅広い分野で新たな研究展開が生まれると期待されます。

図1 LWFAの電子ビームを用いたXUVのFEL実証実験の概略図
細貝教授のコメント
LWFAは、長く“実用化には遠い”と評されてきました。基礎原理こそ示されていたものの、加速に使用するプラズマは非線形で揺らぎやすく、安定した加速条件を保つことが難しいため、高品質電子ビームの安定生成は越えがたい壁でした。今回、レーザー、プラズマ標的、電子ビーム制御の技術を着実に改良し、LWFA電子ビームの安定性と品質を大きく高めたことで、XUV領域でのFEL増幅に成功しました。本成果は、XFELの飛躍的な小型化の可能性を拓くとともに、LWFAが“実用レベルの高エネルギー電子ビーム加速器”へ到達しつつあることを示す重要なマイルストーンです。

研究の背景

 XFEL(X線領域のFEL)は、フェムト秒(1000兆分の1秒)オーダーの超短パルスで、太陽の100億倍に相当する超高輝度かつコヒーレント※3なX線を発生できる、きわめて強力な光源です。原子・分子の構造変化を“動画のように”観測することが可能なことから、原子配列の観察、次世代半導体材料の微細構造解析、化学反応や生命分子の超高速ダイナミクス計測など、世界最先端の研究において不可欠な基盤となっています。 しかし、このXFELの発振には高エネルギーかつ高品質の電子ビームが必要であり、数百メートルの高エネルギー加速器を備えた大型施設が必要です。
 そこで注目されているのが、高強度のレーザーの照射によってプラズマを作り、そのプラズマの中で電子を加速するLWFAです。LWFAは加速器を飛躍的に小型化できる可能性を持つ一方、プラズマの制御が難しく、発生する電子ビームの品質にばらつきが大きいため、安定な高品質電子ビームを必要とするFELさらにはXFELの発振には至っていませんでした。

研究の内容

 今回、研究グループは、レーザーパルスの波面乱れを抑制し、プラズマ源となる超音速ガスジェット標的の安定性を高めました。さらにその内部構造を精密に制御する技術を開発し、電子ビームの品質と安定性をXUV領域でのFEL発振を可能とするレベルまで向上させることに成功しました。具体的には、以下の技術的開発・改良を行いました。

  • レーザーパルス整形による集光精度の向上
    レーザーパルスの周縁部を空間フィルターで除去し、平面度の高い中心部分のみを用いることで集光精度を向上。これによりプラズマ生成が安定化し、結果として発生する電子ビーム発生点の揺らぎが大幅に低減し、電子ビームの安定性とともに単色性も向上しました。
  • 内部整流構造を備えた超音速ガスノズルの新規開発
    ガス流を均質化する内部整流構造を設計し、従来よりも安定性・再現性の高い超音速ガスジェット標的を実現しました。
  • 急峻(きゅうしゅん)な階段状密度分布を形成する技術の開発
    衝撃波を用いてガス標的内部に急峻な階段形状の密度構造を安定に形成する手法を新たに開発し、FEL発振に必要となる単色性の高い電子ビームの生成に成功しました。
  • 高品質LWFA電子ビームによるXUV FEL利得の実証
    これらの改良によって得られた高品質・高安定性のLWFA電子ビームをアンジュレータ※4に通過させることで、XUV(波長27〜50ナノメートル)領域において放射光の強度が自発光に対して、最大約20倍に増幅されること(FEL発振)を確認しました。
図2 アンジュレータ磁場の強さ(K値)とXUVの放射光強度の関係
  • 磁力相殺型アンジュレータの導入
    通常型アンジュレータでは、永久磁石を用いて強力な周期磁場を発生し、この磁場と電子ビームの相互作用によって放射光を生成します。本研究では、磁石間の強い磁場吸引力を相殺する反発磁石を付加してアンジュレータの大幅な小型軽量化を実現し、FEL発生部の小型化に成功しました。これにより、将来の小型FELシステムとしての実現可能性を明確に示しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本研究は「XUV領域のFEL発振に必要とされる高品質な電子ビームを、LWFAで安定に生成する」という課題に挑んだものです。今回得られた成果は、LWFAの電子ビームによるFEL発振を実証し、大学や研究室レベルでも導入可能な小型X線・XUVコヒーレント光源の実現の可能性に道を拓いたという点に留まらず、LWFAが“実用レベルに近い高品質な電子ビーム加速器”に到達しつつあることを示す、きわめて重要なマイルストーンです。これにより、LWFA技術そのものが新たな段階へ大きく前進したといえます。

特記事項

 本研究成果は、米国物理学会誌『Physical Review Research』に、2026年2月24日(現地時間)に掲載される予定です。
タイトル:“Optimized Laser Wakefield Acceleration: Generating Stable, High-Energy, Monoenergetic Electron Beams and Demonstrating Extreme-Ultraviolet Free Electron Lasers”
著者名: Zhan Jin, Masaki Kando, Yan-Jun Gu, Kai Huang, Nobuhiko Nakanii, Izuru Daito, Zhenzhe Lei, Shingo Sato, Hiroaki Sano, Toshiya Muto, Shigeru Yamamoto, and Tomonao Hosokai
DOI: https://doi.org/10.1103/qvg7-ng8n
 なお、本研究はJST未来社会創造事業(大規模型)「レーザー駆動による量子ビーム加速器の開発と実証」(JPMJMI17A1)のご支援を頂き実施しています。

用語説明

※1 レーザー航跡場加速
 Laser Wakefield Acceleration; LWFA。高強度レーザーをガスに照射してプラズマを生成し、その中に形成される「レーザー航跡場」と呼ばれる強力な電場を利用して電子を加速する新しい加速器技術です(図3)。レーザーの強大な電磁場がプラズマ中の電子を押しのけることで、ほぼ光速で進む波状の構造(プラズマ波=レーザー航跡場)が形成されます。この波は、船が水面を進むときに後方に生じる航跡に例えられ、波に捕捉された電子はサーファーのようにこの波に乗って急速に加速されます。レーザー航跡場が生み出す加速電場は従来の加速器の1000倍以上ときわめて大きく、数十〜数百メートル規模の高エネルギー電子加速器を数センチ〜数ミリの領域まで飛躍的に小型化できる可能性があることから、超小型加速器の実現に向けて研究が進められています。

図3 レーザー航跡場加速による電子ビーム発生(左)とその加速原理

※2 自由電子レーザー
 Free Electron Laser; FEL。加速器によって高エネルギーまで加速された電子ビームを、磁石を交互に配置したアンジュレータと呼ばれる装置に導入することで発生するレーザー光です。アンジュレータ内では、周期的な横磁場によって電子の軌道が蛇行し、その運動に伴ってシンクロトロン放射光が放射されます。放射された光は電子ビームよりわずかに速く進み、周期磁場の中で電子ビームと相互作用します。この相互作用により電子は加減速を受け、ビーム中に電子密度の濃淡(マイクロバンチング)が形成されます。この過程が磁場周期ごとに繰り返されることで、特定の波長の光のみが選択的に増幅され、最終的には自然放出光に比べて桁違いに強度の高いレーザー光が生成されます。このとき放射される光の波長は、電子ビームのエネルギーとアンジュレータの磁場の強さによって決まり、これらを制御することで光の波長を調整することができます。 FELの中でも、波長が10ナノメートル以下のX線領域のレーザー光をX線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser; XFEL)と呼びます。

図4 自由電子レーザーの発生原理

※3 コヒーレント
 レーザー光の特徴を表す用語で、波の位相や振幅が揃っている状態を指します。これにより光は「秩序ある波」として発生し、互いに干渉しやすくなります。レーザー光はこの「コヒーレント性」によって、通常の光源では得られない精密な干渉や解析が可能になります。特にX線レーザーの場合、原子・分子レベルの構造を鮮明に観察できるため、材料科学や生命科学の研究に大きな役割を果たしています。

※4 アンジュレータ
 強力な小型磁石を上下に交互にN極・S極として並べた装置で、これらの磁石によって発生する周期磁場中を通過する電子ビームに蛇行運動を起こさせることで、強力なシンクロトロン放射光を生み出します。特に、電子ビームのエネルギーが均一でその方向が高い精度で揃っている場合には、光が自発的に増幅され、SASE(Self-Amplified Spontaneous Emission)と呼ばれるX線レーザーが発振します。通常のアンジュレータでは、向かい合う磁石列の間に強力な磁場が生じるため、磁石列同士が数トン規模の強い吸引力で引き合います。この巨大な力に耐えるためには、高い剛性を持つ頑丈な支持構造が不可欠で、装置の大型化や重量化が課題となっていました。
こうした課題を克服する技術として注目されているのが、磁力相殺型アンジュレータです。主磁石の周囲に、主磁石列間の吸引力と逆方向の力を生み出す補助磁石(反発磁石)を配置することで、強力な吸引力を相殺し、アンジュレータに生じる機械的な負荷を大幅に軽減します。その結果、従来のアンジュレータを大幅に小型軽量化することに成功しました。

参考URL

細貝知直教授 研究者総覧 
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/b19cf7d66bcdd022.html