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全ての匂いを数値化する技術の社会実装開始 -新しい匂いをデザインするサービスはじまる-

【概要】

 大阪大学産業科学研究所の黒田俊一教授らの研究グループは、独自開発した全自動1細胞解析単離装置※1を駆使することで、特定の匂い分子に反応して活性化する嗅覚受容体群※2を網羅的に単離する唯一の方法を2016年に世界に先駆けて開発しました(Scientific Reports Vol. 6 (2016) p.19934)。
 医薬品、化粧品、香料、食品、酒類などの各業界において、任意の匂いが、どの嗅覚受容体群を活性化するかを明らかにする需要は高まってきており、社会還元の一つとして、この度、株式会社香味醗酵と共同で、産業上有用な匂いを嗅覚受容体で数値化してデータベースを構築し、新しい匂いをデザインする事業展開が開始されました。
 現在、①任意の匂い(混合物でも可)による嗅覚受容体群(ヒト約400種類、マウス約1000種類)の活性化度合いを迅速測定する方法、②任意の匂いを嗅覚受容体群活性化度合いで表現する方法(右上図)、③求める匂いを他の匂い分子群で迅速に再構成する方法(右下図)を特許申請しています。
 黒田教授らの開発した嗅覚受容体を発現する細胞群から任意の匂い(混合物を含む)に反応する細胞のみを全て迅速に取り出す方法を駆使して、ニーズに即した匂いのデータベース構築を進めており、蓄積したデータを活用することにより、我々の匂いの感じ方に基づく匂いの要素分解及び再構成を行います。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】

ほんの一例ですが、これまで不可能だった以下の事項が、可能になると考えております。
1)高価な香りを安価な成分で、調香師の経験に依らず迅速に代替する。
2)限りなく本物に近い擬似的な飲料を官能試験によらず迅速に開発する。
3)嫌な匂い(加齢臭等)を積極的に感じなくする物質を迅速に見つける。
4)微量に存在するだけで匂いを強めたり弱めたりする成分の解析と原理の理解。
5)精神活動を制御する匂いの解析と原理の理解。
6)生殖活動を高める匂いの解析と原理の理解。

【特記事項】

●株式会社香味醗酵について
 株式会社香味醗酵(代表取締役社長 久保賢治)は、黒田俊一教授が開発した嗅覚受容体解析技術の社会実装を担う大阪大学発ベンチャーとして平成29年5月に設立されました。
 なお、株式会社香味醗酵は、黒田教授が発明した特許を実施する会社ですが黒田教授は発起人、株主、役員、社員、顧問等のいずれにも該当いたしません。(2017年8月31日当時;2022年現在は取締役および株主)

【用語解説】

※1 全自動1細胞解析単離装置
 約40万個の細胞をスライドグラス上に展開し、その中から最も特徴のある細胞を1細胞だけ、全自動で無傷な条件で釣り上げるロボット。大阪大学(黒田)、大阪府立大学、神戸大学、アズワン株式会社、古河電工株式会社による共同開発。2013年に論文発表(Scientific Reports Vol. 3 (2013) p.1191)、第5回「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞受賞。

※2 嗅覚受容体
 哺乳類の鼻腔上部にある嗅上皮に存在する嗅神経細胞に発現する香り受容体。様々な香り分子を受容することにより、活性化され(細胞内Caイオン濃度が上昇)、脳にシグナルが伝達されます。ヒトでは約400種類、マウスでは約1000種類の嗅覚受容体が存在し、それぞれが香り分子をファジー(低特異的)に認識します。脳は、特定の香り分子に対する嗅覚受容体群全体の活性化パターンを解析して、僅かな嗅覚受容体数でも数十万種類の香り分子を嗅ぎ分けることができます。