EN
SANKEN

嗅覚IoTセンサーの業界標準化推進に向けた「MSSフォーラム」発足

【概要】

1. 国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下NIMS)、 京セラ株式会社(以下京セラ)、国立大学法人 大阪大学(以下大阪大学)、日本電気株式会社(以下NEC)、住友精化株式会社(以下住友精化)、旭化成株式会社(以下旭化成)、NanoWorld AG(以下NanoWorld)の7機関は共同で、超小型センサー素子「MSS (Membrane-type Surface stress Sensor / 膜型表面応力センサー)」(※注記参照)を用いた嗅覚IoTセンサーの業界標準化(de facto standard)推進に向けた"公募型実証実験活動"を行う「MSS(エムエスエス)フォーラム」を11月1日に発足させます。

2. MSSとは、NIMS国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の吉川元起グループリーダーを中心とした国際共同研究によって、2011年に開発されたセンサー素子です。このMSSのMembrane部分に被覆してガス分子を吸着させる「感応膜」には、有機・無機問わず様々な材料が利用可能であるため、汎用性が非常に高く、香りやニオイの元となる多様なガス分子に対応可能です。その上、超小型・超高感度であるため、食品・環境・医療・安全など様々な分野への応用が期待されています。2011年の開発後、嗅覚センサーとしての基礎研究を経て、2015年には、MSSの実用化を加速すべく、産学官共同で、要素技術の研究開発を行う「MSSアライアンス」を発足させ活動を継続してきました。

3. MSSアライアンスでの研究活動を通して、センサーデバイス開発、感応膜材料の開発、精密評価システム開発、計測データ分析・解析環境の開発など、重要要素技術の研究開発において顕著な成果を得ることが出来ました。2017年4月からは、旭化成が新たに参画し、ガス分子を吸着させる感応膜材料開発および感応膜材料塗布技術開発を担当しています。さらに、これらの成果を基に招聘参加企業による10件以上の実証実験*が実施されており、様々な香りやニオイに対する高い感度と識別能力が次々に実証されています。

4. 以上の様な共同研究活動の成果を踏まえて実用化を加速するため、そして、様々な分野からの「MSS嗅覚IoTセンサー」を実際に使用してみたいとの声にお応えするため、オープンな実証実験を行う「MSSフォーラム」を11月1日付で設置し、参画する企業を公募いたします。MSSアライアンス7機関で、引き続き要素技術の確立を目指しつつ、MSSフォーラムに参画された企業・研究機関とともに、多種多様な環境下における有効性実証実験を推進することで、「MSS嗅覚IoTセンサー」技術の業界標準化の推進を図ります。

*実証実験:MSSアライアンスの研究成果であるMSS標準計測モジュールを使用し、農業・畜産業、セルフヘルスケア分野、建材、体臭等、様々な分野において、香りやニオイの検知・識別能力を検証。

【MSSアライアンスにおけるこれまでの研究成果】

2015年9月に発足したMSSアライアンスは「クローズドな活動」として精力的に活動し以下の様な顕著な成果を達成しました。

2)様々な検知対象ガスに応答する新規感応膜材料の開発
3)様々な条件下で複数のセンサーチップを精密評価する自動測定システムの開発
4)センシング信号処理電子回路、及び制御ソフトウェア開発
5)様々な「検知対象ガスと感応膜材料」との組み合わせ応答基礎データ収集
6)MSSセンシングデータの高精度判別を行う機械学習エンジンとクラウド解析プラットフォーム開発
7)上記成果を基に10件以上の実証実験による、様々な香りやニオイに対する高い感度と識別能力の実証


以上の成果に加えて、MSSアライアンス設立機関の一員であるNanoWorldから、サイエンス研究用途に特化した仕様の「MSS素子単体」の販売が開始(2016年4月)され、嗅覚センサー以外の最先端研究領域でも活用が開始されています。(この内容に関しても上述のMSSアライアンスブースにてご覧頂けます。)

【新たな体制図】

2015年9月のMSSアライアンス設立以降、様々な分野から「MSS嗅覚IoTセンサー」を実際に使用してみたいとの声を多く頂いておりました。約2年に渡る産学官共同研究を経て得られた顕著な研究成果と、招聘参加企業による10件を超える実証実験により、香りやニオイに対する高い感度と識別能力が実証されたことを受け、一般公募により各機関の皆さまの個々の環境下において実証実験をして頂く体制が整いました。

【これまでの実証実験事例紹介】

事例1)西洋ナシ:ニオイで熟成度を推定
現在、西洋ナシの熟成度は、表面を観察しても変化が少なく判定が難しいため、針を刺して硬度で判定しています(破壊検査)。
本実験では、硬度とニオイの経時変化を測定しその相関性を実証しました。
ニオイの測定値の微妙な変化から硬度を推測して、熟成度が判定可能になります(非破壊検査)。

事例2)酒類:ニオイでアルコール度数を推定
複数のお酒のニオイを測定し、そのお酒のアルコール度数と組み合わせて、データセットとして機械学習します。
回帰分析を行うことによって、ニオイとアルコール度数の定量的相関関係を抽出します。これにより、学習に用いなかった未知のお酒のアルコール度数も、ニオイデータ(Test data)から推定できます。

【今後の展開】

MSSフォーラムで行われる様々な分野での有効性実証実験を通じて、実用化に向けた更なる課題抽出と課題解決に向けた研究開発を深化、加速させていきます。また「MSS嗅覚IoTセンサー」技術を構成する各要素技術を、より簡便に産業界の皆さまの製品化構想に繋げられるよう、部品化・モジュール化、ソリューション化を目指し、更には、計測・解析・データベース提供サービスをも視野に入れた基盤技術研究開発を行います。

これらの活動を通して、「MSS嗅覚IoTセンサー」=「香りやニオイの基準モノサシ!」=「業界標準(de facto standard)」として認知されるよう、社会実装に向けた技術研究開発を更に加速していきます。

【※注記:MSS(Membrane-type Surface stress Sensor / 膜型表面応力センサー)とは】

NIMSの吉川元起グループリーダーらが開発した、超小型と超高感度を両立する画期的なセンサー素子です。表面の感応膜に分子が吸着すると、表面応力が生じて電気抵抗が変化し、対象の分子を検知することができます(下図参照)。大気中や液体中の様々な微量成分を高感度に検知できる小型軽量の新型センサーとして、医療・食品・環境・安全など様々な分野への応用が期待されています。

MSSの模式図:中央の感応膜に分子が吸着することによって生まれた表面応力を、周囲の4つのブリッジに埋め込まれた抵抗がすばやく検出する。