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有機半導体の高性能化に有望な含フッ素アクセプターユニット開発に成功!

《研究成果のポイント》

◆ 有機半導体の高性能化に有望な新規ユニット開発に成功
◆ これまで望まれていたエネルギーレベルの精密な調節が、電気陰性のフッ素原子を導入することで可能に
◆ 有機薄膜太陽電池等、様々な有機半導体材料の高性能化に期待

【概要】

 大阪大学産業科学研究所の家裕隆准教授らの研究グループは、石原産業株式会社、ドイツマックスプランク高分子研究所のBlom教授らと共同で、フッ素原子を導入した新規なアクセプターユニット※1の開発に成功し、これが有機薄膜太陽電池※2のn型半導体※3の構成ユニットとして有望であることを世界で初めて明らかにしました(図1)。
今回の結果により、有機薄膜太陽電池も含めて様々な有機半導体材料の高性能化に繋がる材料開発が加速的に進展すると期待されます。
本研究成果は、シュプリンガー・ネイチャー「NPG Asia Materials」に、10月17日(水)(日本時間)に公開されました。

【実証実験の内容】

 ■実証実施期間  2018年11月2日~2019年3月(予定)

 ■生鮮食品輸送先 オランダ他、ホテルオークラグループ 日本料理「山里」(予定)

 ■役割分担 (五十音順)

図1
本研究で開発した新規な含フッ素アクセプターユニット、これを含むn型半導体材料の構造、および、太陽電池特性

【研究の背景】

 高性能の有機半導体材料を開発するためには、アクセプターユニットを分子構造の中に組み込むことが不可欠です。ナフトビスチアジアゾール(NTz)は、強力なアクセプターユニットとして世界的に用いられている分子です。これのアクセプター性をさらに高めるためには、電気陰性※4のフッ素原子の導入が効果的です。しかし、有機合成の困難さからフッ素原子の導入がこれまで達成できていませんでした。これに対して、家准教授らの研究グループでは新規な有機合成ルートを確立し、フッ素原子を含むナフトビスチアジアゾール(FNTz)の合成に初めて成功しました。さらに、FNTzを組み込んだ有機分子を有機薄膜型太陽電池のn型半導体材料として用いたところ、フッ素を含まない材料より性能が大きく向上することが明らかとなりました。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】

 各種用途の有機半導体材料に対して、このFNTzユニットを導入することで性能が向上することが期待されます。とりわけ、NTzが有効に機能する実績がある点で、有機薄膜太陽電池のp型半導体ポリマーに向けた応用が期待されます。

【特記事項】

 本研究成果は、2018年10月17日(水)(日本時間)にシュプリンガー・ネイチャー「NPG Asia Materials」(オンライン)に掲載されます。
タイトル:"Fluorinated naptho[1,2-c:5,6-c']bis[1,2,5]thiadiazole-containing -conjugated compound: synthesis, properties, and acceptor application in organic solar cells"
著者名:Shreyam Chatterjee, Yutaka Ie, Takuji Seo, Taichi Moriyama, Gert-Jan A. H. Wetzelaer, Paul W. M. Blom, and Yoshio Aso

 なお、本研究は、日本学術振興会 頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム研究、および、大阪大学産業科学研究所ソフトナノマテリアル研究分野と石原産業株式会社の共同研究の一環として行われました。

【用語解説】

※1 アクセプターユニット
  電子密度の低いユニット。電子を受け取りやすいユニット。分子内に電子密度の高いドナーユニットと電子密度の低いアクセプターユニットを組み合わせると分子内電荷移動型のドナーアクセプター型構造を作ることができる。

※2 有機薄膜太陽電池
  p型半導体とn型半導体の有機半導体材料を組み合わせた薄膜を活性層とする太陽電池。

※3 n型半導体
  電気伝導を担うキャリアが電子の半導体。キャリアが正孔のものをp型半導体と呼ぶ。

※4 電気陰性
  電子を引き寄せる強さの相対的な尺度。

【研究者のコメント】

 今回の新規合成ルートの構築により、フッ素化された鍵中間体も得ることができています。この中間体から種々のフッ素化アクセプターユニットが系統的に開発できるため、アクセプターユニットのレパートリー拡充が期待できる状況です。