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体内で多量の水素が発生し、酸化ストレスを低減するシリコン製剤

研究成果のポイント

・体内で多量の水素が長時間発生するシリコン※1製剤を開発
・シリコン材料を用いて体内で水素を発生させることは、今まで発想すらされてこなかった。シリコンも水との反応で生成する酸化シリコンも無害であるため、経口摂取が可能である。水素発生能の高いシリコン製剤の開発に成功した結果、動物の酸化ストレス※2性疾患※3の防止が可能になった。
・犬、猫等の動物に対してのシリコン製剤の効果は検証済。今後、ヒトの慢性腎臓病、糖尿病、パーキンソン病等の酸化ストレスが大きな原因となって起こる疾患の防止への応用に期待。

概要

大阪大学産業科学研究所の小林光教授らの研究グループは、腸内の水と反応して多量の水素が発生するシリコン製剤を、世界で初めて開発しました。腸内と類似したpH8.3、36℃の環境下で、1gのシリコン製剤から400mL以上の水素が24時間以上発生し続けます。この水素量は、飽和水素水22L以上の中に含まれる水素量に匹敵します。

シリコン製剤は、酸性や中性環境では水と反応せず、弱アルカリ性環境で水と反応して多量の水素を発生させる性質を持っています。したがって、シリコン製剤を経口摂取した場合、胃酸のため酸性環境となる胃内では反応せず、膵液のため弱アルカリ性環境となる腸内で水と反応して水素が発生します。水素は、腸内で効率良く吸収され、各器官に輸送されます。各器官に輸送された水素は、代謝などで常時発生する悪玉活性酸素であるヒドロキシルラジカル※4を消滅させ、酸化ストレスを低減する効果があります。

このシリコン製剤を含有するサプリメントを犬や猫等に与えたところ、アトピー性皮膚炎、糖尿病、外耳炎等が治るという治療例が多数観測されました。例えば図1では、10年間使用していたステロイドを中止し、45日間シリコン製剤を与えたところ、アトピー性皮膚炎が完治し、かゆみがなくなり脱毛していた背中部が増毛しました。

図2では、糖尿病の猫にシリコン製剤を摂取させました。摂取前は、血糖値が235mg/dLと正常値75~145mg/dLよりもかなり高く、食欲がなく元気のない表情でしたが、シリコン製剤を40日間摂取させたところ、血糖値は125mg/dLまで低下し、食欲が糖尿病前に戻りました。

また、シリコン製剤を含有するペット用サプリメントは、レナトスジャパン株式会社が10月25日から販売を開始しました。

図1

図1 シリコン製剤のアレルギー性皮膚炎に対する効果
45日間の投与によって、かゆみがなくなり、脱毛していた背中部が増毛した。

図2

図2 糖尿病を患っている6才、雄のスコッティッシュフォールドに対する効果
40日間の摂取によって、血糖値が正常になり、食欲が戻った。

研究の背景

代謝、紫外線照射、ストレス等によって、体内でヒドロキシルラジカルが常時発生します。ヒドロキシルラジカルは活性酸素の中で最も高い酸化力を有しており、細胞を酸化・変質させ、多くの酸化ストレス性疾患の原因となると共に、老化を促進します。水素はヒドロキシルラジカルと反応して水となります。しかし、常時体内に多量の水素を存在させる方法は今まで開発されてきませんでした。例えば、飽和濃度の水素水1Lに含まれる水素は気体換算で高々18mLであり、その上、通常は飽和濃度よりも遥かに低い水素濃度となっています。さらに、水素が吸収され各器官に輸送されても、器官内の水素は1時間程度でなくなります。

小林光教授と小林悠輝特任助教らの研究グループが開発した水素発生能の高いシリコン製剤を用いて、レナトスジャパンがシリコン製剤入りの動物用サプリメントを開発し、このサプリメントによって、色々な酸化ストレス性の疾患が防止できることが証明されました。これは、シリコン製剤が体内の水と反応して、24時間以上にわたり多量の水素を発生し続けるためと考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、ペットの健康維持に大きく貢献するとともに、老化防止に寄与することで健康長寿が期待されます。また、酸化ストレスが原因で起こる色々な病気の予防と治療に寄与します。

研究者のコメント

シリコン材料を用いて、酸化ストレスが誘発する種々の疾患を防止することは、発想すらされなかった。我々は、シリコン及び水との反応生成物である酸化シリコンが無毒であることから、シリコン原料から製造するシリコン製剤を経口摂取できると発想した。シリコン製剤の水素発生能を向上させた結果、犬、猫等に経口摂取させることによって、酸化ストレスが起こす色々な疾患を防止できることがわかった。また、13週反復経口投与毒性試験等の安全性試験を行なった結果、毒性は全く観測されていない。ペットのみならず、人への利用を目指した研究も進行中である。

用語説明

※1 シリコン
原子番号14の元素。結晶シリコンは、太陽電池やLSIの製造に用いられる。シリコン製剤は、多結晶シリコン粉末から製造される。給与前給与40日後

※2 酸化ストレス
主にヒドロキシルラジカルによって、細胞が酸化・変質する。活性酸素、特にヒドロキシルラジカルの生成が抗酸化防御機能を越えた状態を酸化ストレスという。

※3 酸化ストレス性疾患
ヒドロキシルラジカルによる細胞、DNA、RNA、脂質等の酸化・変質が大きな原因となり発症する疾患。この中には、難治性疾患であるパーキンソン病や多数の患者のいる慢性腎臓病、糖尿病が含まれる。

※4 ヒドロキシルラジカル
OHラジカルのこと。酸素分子が電子を1つ受け取ればスーパーオキシドアニオンラジカル(O2)に、さらに電子を受け取れば過酸化水素(H2O2)に、さらに受け取ればヒドロキシルラジカル(・OH)になる。これら活性酸素の中でヒドロキシルラジカルは最も酸化力が強く、細胞を酸化・変質させ多くの疾患の大きな原因となっている。