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細胞外小胞の新しい捕捉方法を開発!~ナノワイヤによって捕捉する細胞外小胞を、がん診断の新しい指標へ!~

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の安井 隆雄 准教授・馬場 嘉信 教授らの研究グループは、東京大学大学院工学系研究科の柳田 剛 教授・長島 一樹 准教授、東京医科大学医学総合研究所の落谷 孝広 教授、大阪大学産業科学研究所の川合 知二 招へい教授との共同で、細胞外小胞(Extracellular vesicles :以下EV)※1)の新しい捕捉方法を開発し、当該方法で捕捉するEVのmiRNA(マイクロRNA)※2や膜タンパク質※3の発現量が、がん診断の新しい指標として利用可能であることを発見しました。
 疾病のバイオマーカーとして注目されているEVは、由来する細胞によって内包物や大きさ、発現する膜タンパク質の種類、脂質二重膜の組成が異なる不均一な集団です。本研究では、EV表面の分子組成と電荷の相関性に着目したEV捕捉法を考案し、捕捉されるEVをバイオマーカーとして活用する方法を開発しました。EV捕捉には、剣山のように配置したナノスケールの棒(ナノワイヤ※4)を用いました。その結果、表面が正に帯電するナノワイヤのEV捕捉性能が最も優れていることを見出しました。また、この方法で捕捉したEVにおいて、特定の2種類の膜タンパク質の発現量比を調べたところ、がん細胞由来のEVと正常細胞由来のEVで発現量比が異なることが明らかとなりました。当該方法により捕捉するEV電荷とmiRNAやタンパク質情報の相関解析を進展させることで、がんの早期検知が可能になると期待されます。
 本研究成果は、2021年9月16日付オランダの出版社エルゼビアの学術雑誌「Biosensors and Bioelectronics」に掲載されました。
 本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「生体における微粒子の機能と制御」研究領域(研究総括:中野 明彦)における研究課題「細胞外小胞の網羅的捕捉と機械的解析によるmiRNA分泌経路の解明」(研究者:安井 隆雄)、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究S「堅牢な分子識別センサエレクトロニクスの学術基盤創成」(代表者:柳田 剛)、日本学術振興会 科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型) 分子夾雑の生命化学 「分子夾雑化学」(代表者:浜地 格、実施代表者:馬場 嘉信)の一環として行われました。

ポイント

・Extracellular vesicles(EV;直径30~2000 nm)には、がんや病気に関連するmiRNAやタンパク質が含まれるため、がんや病気のバイオマーカーとして利用が期待されている。
・酸化亜鉛ナノワイヤの正電荷表面を使ってEVの電荷に基づく捕捉を達成し、EVの膜タンパク質であるCD9、CD63、CD81、CD147の検出を達成した。
・また、大腸がん細胞由来のEVから得られた膜タンパク質の発現量比(CD147/CD9)が、健康なボランティアの尿サンプルのEVから得られた膜タンパク質の発現量比(CD147/CD9)と異なることを見出した。

研究背景と内容

 EVには、がんや病気に関連するmiRNAやタンパク質が含まれるため、がんや病気のバイオマーカーとして利用が期待されています。バイオマーカーとしてのEVの可能性を最大限に活用するためには、特定のEVを捕捉するだけでなく、EVのmiRNAや膜タンパク質を検出し、それらの相関関係を明らかにする方法が必要です。現在のEV捕捉法は、1) 超遠心分離または差動遠心分離を用いた密度に基づく捕捉、2) サイズ排除クロマトグラフィーを用いたサイズに基づく捕捉、3) 抗原抗体反応に基づく捕捉(特定の膜タンパク質、例えば、CD9、CD63、およびCD81)、4) 市販のポリマー沈殿法、1)~ 3)をマイクロ流路で行う手法です。
 本研究では、表面電位の異なる酸化物ナノワイヤを用いて、表面電荷に基づいてEVを捕捉する方法を提案しました(図)。

図

図:酸化亜鉛ナノワイヤの正電荷表面を使うEVの電荷に基づく捕捉と、EVの膜タンパク質検出、膜タンパク質の発現量比(CD147/CD9)の比較

成果の意義

 がん細胞由来のEVの外層は、脂質二重膜、膜タンパク質、糖鎖など特異的な分子で構成されており、研究グループはEV表面分子と電荷の相関関係があると着想しました。そこで、密度、サイズ、抗原抗体反応に基づく捕捉と同様に、表面電荷に基づいて捕捉されたEVと発現している膜タンパク質との間の相関関係を解析しました。
 研究グループは以前、ナノワイヤによるEV捕捉とmiRNA解析を行っていましたが、表面電荷に基づく捕捉と、発現した膜タンパク質との相関関係については、まだ報告していませんでした。
 酸化亜鉛ナノワイヤの正電荷表面を使って、EVの電荷に基づく捕捉を達成し、EVの膜タンパク質であるCD9、CD63、CD81、CD147の検出を達成しました。また、大腸がん細胞由来のEVから得られた膜タンパク質の発現量比(CD147/CD9)が、健康なボランティアの尿サンプルのEVから得られた膜タンパク質の発現量比(CD147/CD9)と異なることを見出しました(図)。
 本手法により捕捉するEVのmiRNAやタンパク質情報の相関解析を進展させることで、がんの早期検知が可能になると期待されます。

用語説明

※1 細胞外小胞(Extracellular vesicles、EV)
細胞が分泌する直径40~1000 nmの小胞体。

※2 miRNA(マイクロRNA)
細胞の遺伝子発現の微調整役。細胞外小胞の内部に存在している。

※3 膜タンパク質
細胞または細胞小器官などの生体膜に付着しているタンパク質分子。細胞外小胞の膜に付着している。

※4 ナノワイヤ
数10~100 nmの大きさから構成される一次元の棒状ナノ構造体。

論文情報

雑誌名:Biosensors and Bioelectronics
論文タイトル:"Molecular profiling of extracellular vesicles via charge-based capture using oxide nanowire microfluidics"
著者名:*Takao Yasui(名古屋大学・准教授),Piyawan Paisrisarn(名古屋大学・D3)
Takeshi Yanagida(東京大学・教授),Yuki Konakade,Yuta Nakamura(名古屋大学・卒業生),Kazuki Nagashima(東京大学・准教授),Marina Musa, Ivan Thiodorus, Hiromi Takahashi, Tsuyoshi Naganawa(名古屋大学・卒業),Taisuke Shimada(名古屋大学・助教),Noritada Kaji(九州大学・教授),Takahiro Ochiya(東京医科大学・教授),Tomoji Kawai(大阪大学・招へい教授),*Yoshinobu Baba(名古屋大学・教授)
*Yoshinobu Baba(名古屋大学・教授)

DOI: https://doi.org/10.1016/j.bios.2021.113589