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レンズレスカメラの革新!多様な距離にある被写体を一度にはっきり撮影 ―放射状符号化マスクを利用した光学設計による新技術―

研究成果のポイント

・異なる距離にある被写体を一度の処理で鮮明に映し出すことができる、被写界深度の深い新型のレンズレスカメラを開発しました
・従来のレンズレスカメラにおいては、点像分布関数が被写体の距離に依存して変化してしまい、これが一度の再構成処理で広い空間範囲を鮮明に映し出すことを困難にしていました。
・この開発により、被写界深度が深い薄型カメラが実現可能となり、医療や工業検査など、様々な分野での応用が期待されます。

概要

 大阪大学 産業科学研究所 複合知能メディア研究分野の大学院生José Reinaldo Cunha Santos A V Silva Netoさん(博士後期課程)、中村友哉准教授、槇原靖教授、八木康史教授の研究グループは、異なる距離にある被写体を一度の処理で鮮明に映し出すことができる新型レンズレスカメラ※1を開発しました(図1)。
 レンズレスカメラは、レンズを使わないことから、薄型で軽量なカメラが実現可能ですが、一度の再構成処理※2で深い空間範囲を鮮明に映し出すことは困難でした。新開発されたカメラは、放射状符号化マスク※3の導入とその構造の最適化により、多様な距離の被写体を一度の処理で明瞭に捉えることができ、画質も向上しました。
 この特性は、奥行きの深い被写体や近距離の物体を撮影する必要がある場合において、薄型でありながら鮮明な画像を得るための大きな利点となります。これにより、医療用カメラや工業検査用カメラなど、様々な分野での応用が期待されます。
 本研究成果は、米国科学誌「IEEE Transactions on Computational Imaging」に、9月29日(金)に公開されました。

図1

図1 放射状符号化マスクを用いたレンズレスカメラによる被写界深度拡大イメージング

研究の背景

   「レンズレスカメラ」は、レンズを使わないため、より薄型で軽量なカメラを作ることができる革新的な技術です。しかし、レンズがないため、通常のカメラのように対象物をはっきりと捉えることはできません。そこで、取得したデータを画像再構成処理で解析することで、対象物の画像を再現します。
 この画像再構成処理には、カメラの結像特性を示す「点像分布関数※4」が必要です。しかしこの関数は、対象物の距離によって変わります。この問題から、これまでの技術では、一定の距離でしかピントの合った画像を得ることができず、他の距離の物体はぼやけてしまう、という課題がありました。つまり、被写界深度が制限され、一度の再構成処理で広い空間範囲を鮮明に映し出すことは困難でした。

研究の内容

   今回、研究グループは、新型のレンズレスカメラの開発を進め、光学系に放射状符号化マスクを導入することで、異なる距離にある被写体を一度の処理で鮮明に映し出すことに成功しました。これまでのレンズレスカメラは、一定の距離範囲にしかピントを合わせられないという課題が存在しましたが、この新しいアプローチにより、その課題を解決しました。
 このレンズレスカメラは、多様な距離に存在する被写体を一度の処理ではっきりと撮影することができます。また、放射状符号化マスクの構造の最適化により、画質も向上しました。実機を用いた撮影実験からも、深い距離範囲で被写体を明瞭に捉えられることが確認されました。

本研究が社会に与える意義(社会的意義)

 本研究の成果によって、被写界深度が深い薄型カメラの開発が可能となります。これにより、被写体が深い奥行き分布を持つ場合や、カメラに対し近距離に物体が存在するような撮影状況においても、薄型デバイスでの明瞭な画像化が期待できます。医療用カメラや工業検査用カメラなど、様々な分野での応用が期待されます。


中村 友哉准教授のコメント

 レンズレスカメラとは文字通りレンズのないカメラのことであり、将来的には私達が普段使っているカメラのデザインを刷新する可能性を秘めた興味深い技術です。今回開発した被写界深度拡大レンズレスカメラは、例えば指紋認証などの接写が必要となる小型撮像システムにおいて特に役立つと考えられます。

用語説明

※1 レンズレスカメラ
従来のカメラからレンズを取り除いた光学設計により構成されるカメラ。レンズの代わりに、画像再構成処理により被写体を画像化する。画像化を容易にするために、イメージセンサの前に符号化マスクと呼ばれる物理素子を配置することが一般的である。

※2 画像再構成処理
レンズレスカメラの計測データから本来の被写体画像を再現するための画像処理。

※3 放射状符号化マスク
光透過率の空間パターンを持つ板状の物理素子を符号化マスクと呼ぶ。そのパターンは自由に設計可能であるが、本研究で提案した回転方向のみにパターンを持ち径方向にはパターンを持たない符号化マスクを放射状符号化マスクと名付けている。

※4 点像分布関数
光学系の強度インパルス応答。理想的な点光源を撮影したときに得られる像強度パターン。

特記事項

 本研究成果は、2023年9月29日(金)に米国科学誌「IEEE Transactions on Computational Imaging」(オンライン)に掲載されました。 タイトル:"Extended Depth-of-Field Lensless Imaging using an Optimized Radial Mask" 著者名:José Reinaldo Cunha Santos A. V. Silva Neto, Tomoya Nakamura, Yasushi Makihara, and Yasushi Yagi

DOI:https://doi.org/10.1109/TCI.2023.3318992
 なお、本研究は、JST創発的研究事業(JPMJFR206K)の一環として行われました。


参考URL

中村 友哉  研究者総覧URL 
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/c063bf43ada41697.html