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AIナノポアにより変異型新型コロナウイルスを 高感度・高特異度に検査

研究成果のポイント

・変異型新型コロナウイルスの高感度・高特異度な検査を実証
・これまで変異型新型コロナウイルスの迅速で高感度・高特異度な検査は困難だったが、AIナノポアによる計測・解析で可能に
・変異型新型コロナウイルス検査法の開発と、次の新興感染症検査法の迅速開発に期待

概要

 大阪大学 産業科学研究所 谷口正輝教授と北海道大学 遺伝子病制御研究所 村上正晃教授らの研究グループは、AIナノポア※1を用いて、変異型新型コロナウイルスを1個単位で、高精度に識別することに成功しました。また、AIナノポアは、変異型ウイルスのスパイクタンパク質を識別していることが分かりました。AIナノポアを用いてオミクロン型の唾液検体を検査した結果、感度100%、特異度96%を達成しました。
 これまで新型コロナウイルスの変異型を、迅速に、高精度で検査することは困難でした。
 今回、谷口教授・村上教授らの研究グループは、AIナノポアを用いたオミクロン型の検査を行うことで、10分の計測時間で、感度100%、特異度96%を達成しました。変異型の計測データをAIで学習するだけで、変異型の検査が可能になります。これにより、今後、新たな感染症が発生した場合、そのウイルスの計測データをAIでただ学習するだけで、迅速に、高感度・高特異度の検査手法を開発することが可能となり、新たな感染症の拡大を抑制する手法として期待されます。

図1

研究の背景

 2000年以降、数年に1つの割合で新興感染症が発生しています。また、新たなウイルスの発生とともに、変異型も発生しています。今後、安全・安心・健康を守っていくためには、新たなウイルス種や変異種の発生に即時対応して開発できる検査プラットフォームが必要です。これまで、新型コロナウイルスの変異型発生を確認できても、、迅速に、高感度、高特異度で行う検査は困難でした。AIナノポアを用いた検査法は、武漢型ウイルスでは、5分の計測時間で、高感度・高特異度に成功していましたが※2、変異型ウイルスの検査性能は不明でした。

研究の内容

   谷口教授と村上教授らの研究グループでは、AIナノポアを用いたオミクロン型新型コロナウイルスの唾液の検査を行い、たった10分間の計測で、感度100%、特異度96%を達成しました。また、AIナノポアを用いた計測・解析により、武漢型、α型、β型、γ型、δ型、オミクロン型を高精度に識別することに成功しました。さらに、スパイクタンパク質だけがδ型とオミクロン型に変わった武漢型ウイルスの高精度な識別にも成功しました。この結果は、AIナノポアが、変異型ウイルスのスパイクタンパク質を識別していることを示しています。

本研究が社会に与える意義(社会的意義)

   本研究成果により、変異型新型コロナウイルスの迅速で、高感度・高特異度な検査法の開発が期待されます。AIナノポアは、ターゲットとなるウイルスの計測データを学習するだけで、新たな検査法を生み出す能力を持っています。新たなウイルスや変異型ウイルスによる感染症が発生した場合、この技術により即時に高精度な検査法を開発・提供することで、パンデミック時の検査時間の短縮や、社会的混乱を軽減させることが可能です。
 将来、新型感染症が起こったとしても、世界の人々の健康と安全を守り、経済損失を最小限に抑えることが期待されます。

谷口 正輝教授のコメント

 可能な限り早く、AIナノポアを用いたウイルス検査法を実用化し、次の新興感染症に対する備えを行っていきたいと思います。同時に、炎症やがんなどの疾患を、迅速に、高感度・高特異度で検査するAIナノポアシステムを開発していきたいと思います。

用語説明

※1 AIナノポア
シリコン基板上に直径300nmの貫通孔を持つナノポアから得られる電流―時間波形を、AIで学習することで、1個のウイルスや細菌を高精度に識別するシステム。

※2 スパイクタンパク質
ウイルス表面のぼんぼり状のタンパク質で、細胞表面に付着する役割を持つ。

特記事項

 本研究成果は、2023年10月25日(水)に英国科学誌「Lab on a Chip」掲載されました。 タイトル:"High-Precision Rapid Testing of Omicron SARS-CoV-2 Variants in Clinical Samples Using AI-Nanopore" 著者名:Kaoru Murakami, Shimpei Kubota, Kumiko Tanaka, Keiichiroh Akabane, Rigel Suzuki, Yuta Shinohara, Hiroyasu Takei, Shigeru Hashimoto, Yuki Tanaka, Shintaro Hojyo, Osamu Sakamoto, Norihiko Naono, Takayui Takaai, Kazuki Sato, Yuichi Kojima, Toshiyuki Harada, Takeshi Hattori, Satoshi Fuke, Isao Yokota, Satoshi Konno, Takashi Washio, Takasuke Fukuhara, Takanori Teshima, Masateru Taniguchi, and Masaaki Murakami  なお、本研究は、AMEDムーンショット研究推進事業の一環として行われ、大阪大学産業科学研究所鷲尾隆教授、北海道大学大学院医学研究院豊嶋崇徳教授、北海道大学遺伝子病制御研究所村上正晃教授の協力を得て行われました。

参考URL

谷口研究室
http://www.bionano.sanken.osaka-u.ac.jp/